第63話 第6章 その6 主人公視点


 周囲に集まるドラゴネットたちはよだれをたらし、歯をガチガチと鳴らしていた。

 あー、ってかこのライフルの弾数と敵の数が合ってない。

 1発で3匹倒しても無理だ。

 人間は素手だと大型犬でも負けるんだぞ。

 犬の3倍のデカさのトカゲとか無理だ。

 得意の四則演算を駆使しても、無理だと告げてくる。 


 隣をちらりと見ると、イレイナはドラゴンを睨み、様子を伺っていた。

 ドラゴンも同様、一歩も動かず、睨みを聞かせている。

 こんなデカイやつとステゴロで勝てるわけがない。

 イレイナ、怖かったら、姿を消して逃げていいんだぞ。

 そう言えたらどれだけ楽だろうか。


 「グギャギャギャ!」

 ドラゴネットの一匹がこちらに向かって走り込んできた。

  アババババっ!来やがった!わあ!

 「た、たすけ……」

 バン!

 破裂音と共に上空の天井をぶち破れ、遅れて、天井が崩壊し、風が周囲に吹きすさぶ。

 水風船が割れたように血が周囲に飛び散った。

「へ?」

 ドラゴネットの頭はまるで卵のように砕かれており、殻が周囲に砕けていた。

 上空から舞い降りたそれは、月のように輝く白銀の髪をなびかせ、白い雪のような肌、星のように光輝いている深紅のルビーのように赤い瞳がこちらに振り向いた。

 そこには一人の女性が立っている。まだ少し少女であった名残を見せつつも大人びた雰囲気を持つ女性だ。

  その長いまつ毛は凛とした目を際立たせ、同じ人とは思えない。どこか作り物めいた仮面のような表情は冷酷に固まっている。

 彼女は黒い軍服に身を包み、まるで夜空に一筋の流れ星のように眩い雰囲気を放っていた。

 彼女を見ていると種としての格差。

  遺伝子レベルで敵わないと訴えかけてくるほどの恐怖と憧れと羨望が心の中に駆け巡ってくる。

 そして、その乳はデカくロケットのようになっていた。

 わぁ、すっげぇデカチチ。俺じゃなきゃ、ドラゴネットの死体じゃなくてあっちに目が行っちゃうな。

 あの乳はまさに禁断の果実。禁忌と言われても手にしてしまったアダムとイブのように俺も手を伸ばしてしまいそうになる。

 そして乳はすべての哺乳類が赤ちゃんの頃から本能で欲している物。生きていくための生存本能。目が行くのも仕方ないんだ。

 そしてケツ。わあ、すっげえ。これは言葉にできない芸術だ。心を動かされたらそれは芸術なんだよ。

 芸術なんだから食い入るようにみてもこれは下心ではない。人間に許された衝動なのだ。

全てが遺伝子レベルで目が行ってしまうほどの完璧さ、これこそが人類種の到達点。

  と心の中で呟く。

 目の前にいるのは『シルビア・エンドメイカー』。

 人類の上位種だ。

 だって素手でトカゲの頭を粉々にカチ割っているんだもん……しかも空飛んできたし……

 はは……普通ならできねえよ。

 

 というより、なぜ彼女はここに?将軍職が前線に出てくるなんて異常だ。

「シ、シルビア様!なぜここに!」

 イレイナが驚きを隠せないように叫ぶ。

 「クリスより緊急信号を受け取った。今現在、本部との通信が隔絶され、指揮系統化は全て私に権限がある。だから来た」

 「シルビア!後ろ!」

 俺は彼女に向かって叫ぶ。

 ドラゴンのそばにいた彼女の上に爪が振り下ろされる。

  その爪に向かって彼女は指先を伸ばす。

 その指は細く艶やかで、その爪は銀細工のように滑らかだった。

 ガチン!と金属がぶつかり合う音が鳴り響く。

 その瞬間、ドラゴンの瞳が驚愕に変わる。生物としてあのドラゴンの知能がどれだけ高いかは知らないが、

 自身の武器が折れそうなほど細い、彼女の指、いや爪と同等とは思えなかったのだろう。

 ひと一人の身体を簡単に潰せそうな大きなドラゴンの刃が指一本で受け止められた。

 何も彼女の能力を知らなかったら、きっと見えない何かに防がれてるとしか思えない。

「この力は『レディー・オブ・プラチナ』超人的身体能力。無知な獣にもこの私が完全な存在だと教えてやろう……」

 そう呟いた瞬間、彼女の姿が消え、ドラゴンの爪は地面に突き刺さる。

 それと同時にドラゴネットたちの首が綺麗に切り取られていた。

 そして間髪入れずにサイコロステーキ。肉体が四角い塊になっていた。

 わざわざ、一端首を斬り落としてから粉々にしているところ、彼女の性格が出ている。

 自身の能力を見せつけているのだ。

 「『シルバー・フラッシュ』超高速移動。『ゴーストクルーズ』肉体切断能力」

 彼女は高速移動をやめ、立っていた。

 その移動が止まった事により、その乳がすごい揺れになっており、

それはいつか小さな時にプリンを皿に移し、スプーンで食べた時のような揺れである。

 その記憶が初めて食べた甘味に夢中になってしゃぶりついた記憶が蘇る。

 そして口にはその時の甘さが錯覚するが、今はしっかりと鉄の味がする。周囲が血の海になっているからだ。

 こんな感覚、初めて戦場に行ったとき以来だよ。はは……。

 ってか彼女にも慣性の法則は通用するんだ。

 と思いながらその殺戮を見ていた。

 

 ドラゴンのその光景を見た瞬間、翼を羽ばたかせ、宙に浮かび上がる。

 そして、そのまま天井を突き破り逃げて行った。

 やはり彼女の速さに目が終えなかったのだろう。

 自身では勝てないと踏んで逃げたか。

 「ヴィクター。無事か。ケガはないか?」

 「ひゃあ!」

 音もたてずにシルビアが隣に立っていた。

 高速移動はやめろ!止まった瞬間に乳が揺れて地震が起きてるのかと錯覚するんだよお!

 「驚かせてしまったか?すまない……」

 「い、いや……それよりイレイナの傷が……」

 「ふむ、貴様は傷を負い彼を守ることもできず、危険な目にあわせたと……」

 ガタっとイレイナの身体が震える。

 「い、いや……」

 擦れた声でイレイナは口を開く。 

「ち、違うぞ」 

 間髪いれずに俺は声をだす。

 「イレイナは俺を庇ってやけどを負ったんだ」

 「そうか、任務の務め感謝する」

 そういうと彼女はイレイナの背を撫でると、その傷は煙を上げていく。

 「シルビア……」

 「安心して、ヴィクター『レッド・マイル』の力で傷を治した。変な事はしてない。それよりあのトカゲ。愛しい臣民を脅し、兵に矛を振るった。

 猛獣は処分しないとな」

  そういった瞬間

 「し、シルビア様!それは?」

 イレイナが恐怖に怯えた様子で彼女に尋ねる。

  俺もその光景に驚愕を隠せない。

 シルビアの額が裂け、3つめの巨大な目玉が現れていた。

 「見ててくれ、ヴィクター……」

 そう彼女が言うと、その額の目に光が集まり輝いてくる。

 「また、新しい能力に目覚めた。この力があればどんな敵を退けられる。素晴らしい能力だ。ぜひ、また名前を付けて欲しい」

 「あ、ああ……」

 シルビアが空を飛ぶドラゴンを見つめると

 「発射……」と小さく呟いた。

 彼女がそう言うと額から一閃の光が放たれた。その光は一瞬でドラゴンの元まで届き、肉を焼く。

 いや、焼くというより、蒸発するように消えていった。


 へ……なにこれ……と心が放心状態になった。

 そして掠った天井の石は液体になっている。

 音もなく一瞬にしてドラゴンが消えていた。

 「何をした?シルビア」

 「高出力の熱光線を発射し、敵を蒸発させた。ここは敵地。威力を押さえ、隠密を優先させたからわかりづらかったかな?」

「いや……」

 こいつの光線、銃弾も防ぐ鱗を持つドラゴンを骨も残さず煙にしてしまったのか……

 もう戦車とか戦闘機とかも簡単に溶けそうなレベルだろう……そんな光線出せるとか、どうなってるんだよ……

 ははっ……

「戦闘終了、私はこれより再び指揮に入る。イレイナ伍長動けるか?」

「はい。問題なく」

「なら、よし。詳細は後日、この異常事態を含め軍略会議にて説明する。だが……まず第一に任務を与える。この城にいる全生命体を駆除せよ。女も子も全てだ……」

 シルビアは赤い目を見開き宣言した。

「シルビア……」

 俺はやりすぎだと思い、シルビアに声をかける。だが言い切る前に彼女は思いとどまったように口を開いた。

「いや、さすがに無力なものはやりすぎか、一般人は捕虜にする。そしてじきに本隊が合流する。それが期限だ。我らを悟らせるな……」

「はっ!」

 そういうとイレイナの姿が消え、扉の開く音が聞こえた。

 いつだって彼女はそうだ。

 何も躊躇わずに命を殺し、目的の為なら慈悲も持たない。戦争と戦闘と殺しのために作られた新人類。

 『シルビア・エンドメイカー』はエンドメイカーズの最高司令官であり、国の最強兵器。

 何十という侵略国家から戦争を吹っ掛けられてきた母国を守り、殺し、今の地位を得た大将軍。

 アビリティネーム『ハイ・エボリューション』

 能力を増やし続ける能力を持つ部隊最強の能力者だ。

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