第62話 第6章 その5


 「ベルナー様のテイムした魔物達も……歴戦の兵士たちも死んでいく……アリア!お前……」

『ナニヲツレテキタ』

 ザンシは言葉を話そうとするも声がでなかった。

(なんだ?なにが起きてる?!動かん!身体が動かん!)

「くす……あはっ!あははは!仮初の命では死に気が付かないのね……滑稽だわ」

 アリアが笑った瞬間、ザンシの身体はタマネギのスライスのようにバラバラになっていった。

「ひゅー。ミカミのスピードが見えたか。やるねえ。こいつは超スピードで動いて何でも切り刻む能力『スクリーム・プレイス』っていう力をもつヤベー女だ。変な冗談を言ったらヒゲを剃られるぞ」

 キャプテンはそう言うとツルツルになった顎を触った。 


 ザンシの消えゆく仮初の命は綺麗な青空を見つめる。

 (ベルナー様……ドランゴ様!役立たずだった我をお許しください……!あ、あれはドランゴ様の眷属のワイバーン!空を飛ぶあやつがいればあいつらも!)

 「グギャアオオオオオオ」ワイバーンは叫び、吠える。

「おおー、でっけえトカゲが沢山飛んでるわ」

「ウェズリー、呑気すぎるぞ。あんな高いところだと弾が届かん。それにあの距離であの大きさなら3メートルはあるぞ」

 イドリスはリボルバーに銃弾を籠め、上空に狙いをつける。

「でもデスワーム君がバクバク食ってるし。脅威じゃねえだろ。空はデスワーム君に任せれば大丈夫だ」

 ザンシの目に空を飛ぶ巨大イモムシがうねりながら高速で進み、口を開いてワイバーンを丸のみしている光景が映る。

 硬質な鱗にその巨体を宙に浮かせる筋肉。ドラゴンの血を持つモンスターであるワイバーンがそれを超える大きなイモムシに簡単に食われ、エサとなっていった。

 イモムシの名はデスワーム君。ドクターがうっかりシャクガ系の肉食イモムシを改造してしまい。空を飛び、触手を口から何十と動かし、地上だけでなく空ですら、捕食圏とし、

有機物だけでなく、鉄などの無機物ですら食べる人並みの知能を持った怪物であった。

 (なんだ。こいつらはどうしてこんなやつらがアリアに味方する!何も持たない小娘に!何が起きているんだ!)

 そうしてザンシの心は消え去っていった。


 あちこちから聞こえてくる悲鳴。その声がアリアの心を踊らせた。

 あれほど脅威だった敵が羽虫のように潰され、血を流し、死んでいく。

 そして集まって来る様々なエンドメーカーズの超人たち。

 キャプテンの後ろには大勢の超人たちが楽しそうに集まっていた。

 「キャプテンさん!か、彼らは?」

 「仲間だ。よう。おまえら、遅えぞ。すっかり腹に空いた穴も治っちまったぜ」

 「きゃ、キャプテンさん。もう治ったんですか?」

 「俺を誰だと思っている。キャプテンボマーだぞ。こんな傷。傷になんねえよ」

 キャプテンはアリアの頭を撫でた。

  上空から男が1人、降りて来てキャプテンに敬礼する。 

 「ようクリス。右から失礼。よくわかんねえが、こいつらが敵か?なんかすげえバケモノもいるんだが。何か知ってるか?ってかその娘は?」

「よう。ヴァンダム。こまけえ話は後にしようや」

 そう呟いた瞬間、ベルナーの兵士、モンスター達が大量に集まって来る。

 「くそ!こっちにもいやがる!挟み込まれた。みな、武器を握れ、呼吸を整えろ!魔法隊もだ!魔力を高めて一転突破で抜けるぞ!重装歩兵隊は前に出てツッコめ!」

 ベルナーの兵士の一人が叫ぶ。

 そして他の兵士たちはエンドメイカーズの集団相手に立ち止まり、武器を構え震えていた。

 「こ、こんなに敵が?」

 アリアはその数に構える。

 そしてベルナーの兵士たちも恐れながら構えていた。

 「いいや。そこの見知らぬお嬢さん。安心しな。これも作戦だ」

 ヴァンダムはタバコを取り出し、呑気そうにライターで火をつけた。

 「とりあえず、敵はここに一点に集中させたぜ。クリス。殲滅作戦は一点に人を集めて一気に潰すのが基本……ってキャプテン!俺のタバコとらないでくださいよ」

「子供の前でタバコ吸ってんじゃねえよ」

 キャプテンはにやりと笑う。

「はあ、愛煙家は辛いぜ。ってかこのガキは何だよ。情婦にしては若すぎねえか?それに鱗や角も生えてるし……」

 その言葉を聞いたアリアは手で肌を隠す。

 「まあ、俺は羽が生えてる。『クロウマン』っていう能力だ。凄いだろ」

 ヴァンダムは背中の黒い羽を拡げると自慢気に笑った。

 「くすっ。ありがとうございます……」 

 「お前ら!雑談はそろそろ終わりにしろ!読んだコミックで大群相手にキャプテンが号令をかけて立ち向かう展開がやりてえんだ!」

「えー、この前。あのコミックを無理やり見せてきたのそんな理由なんですか?」

「うるせえ!やるぞ!」

 キャプテンは手を挙げると、周囲のエンドメーカーズたちはしぶしぶ黙り静寂が訪れる。

「た、頼む!許してくれ!お、俺には田舎に家族がいるんだ!」

 その静寂の瞬間にベルナーの兵士の一人が声を荒げ、前から割り込んで飛びだしてきた。

「武器も捨てる!降伏する!だから……」

 その声に向かって銃声が鳴り響いた。

 「ぐえぇ!」

 その銃弾は兵士の頭を打ち抜き、どさりと倒れた。

 その音にエンドメーカーズの一員たちは顔を向けた。

 「え?何?やっちゃまずかった?また僕、何かやっちゃいました?」

 ラッシュは周囲の視線に恐怖し、叫ぶ。

「アリア、俺たちはこういうやつらだ。わかったか?」

「くすっ。いえ、最高です。今、最高に面白かったです!」

 アリアはとびっきりの笑顔で質問に返す。

「じゃあ、いくぜ!エンドメーカーズ!アッセンブル!」

「「「「「「うおおおおお!!」」」」」

 キャプテンの掛け声と共に殲滅作戦が開始された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る