第61話 第6章 その4
「あー変わっちゃったかー」
ミシェアは呆れたように呟いた。
「え?」
ルイスは目の前で起きたことをまるで予測していたかのような発言に驚きを隠せない。
「いくら私が天才だからって未知の生命体の解毒なんてできないわよ。でもねドクターは簡単に解毒した……
いや、彼女自身の生命体としての異常さを活性化させて、毒に耐えうる別の生き物に変わらせたのよ……あの時のドクター、天才過ぎて本当に怖かったわ。
推測も推論も実験も何もしないで結果を出すんだもの。まるで、彼女がこうなる事がわかっていたかのようにね」
「と、いう事は……」
「彼女はドクターの最新作って事。ってかキャプテンうすうす気づいていたんでしょ」
ミシェアは笑って呟いた。
その言葉を耳にしたキャプテンはニヤリと笑った。
「キャプテンさん!私がアイツらをやります!やらせてくださっ、って痛っ」
アリアは血走った目で怒りに任せた声で唸る。その言葉を遮るようにキャプテンは彼女の額を指で弾いた。
「馬鹿が、ガキが。能力を手に入れたからって強くなったわけじゃねえぞ……」
キャプテンの腕時計がピピッとなった。
「俺はキャプテンだ。何をしてでも任務を達成し、何があっても全員の命を守る。てめえ一人じゃあいつらに勝てねえよ。
時間稼ぎはもう終わり。
緊急信号を撃った時間とこの場所の距離、そして最短で、なおかつ敵に気づかれずにこの場所まで到達する時間。
この腕時計が鳴ったって事は……来る!」
キャプテンは上に指を刺す。
霜の巨人、フロスティは上を見る。誰よりも大きいその巨体の瞳は誰よりも早くそれを捉えた。
「ナンダアレ……」
ぶちゃああああああああああ!!
突然の衝撃、肉体を貫く音が巨人の鼓膜に響く。巨人の頭に衝撃がくわえられ、吹き飛んでいった。
「アレ、ハンブン……ミエナクナッテ……」
巨人の地響きと共に血まみれの少年が1人、キャプテンのそばに空から降り立った。地面はその両足でえぐられていたが、折れる事なく無傷。
少年はアシメトリーの髪についた凍った血肉をかき揚げ、落とした。
「お前!何者だ!フロスティに何をした!」
ザンシは目の前で起きた事が信じられず叫ぶ。
「上空10キロメートルから降りて蹴りつけた。それだけだけど……ってオジサン凄いね!ほとんど骨じゃん!どうなってんの?僕みたいじゃん!」
少年はまるで年相応の子供のように無邪気にザンシに駆け寄る。
そして手を出して力をこめると、骨であろう部分が外部に現れ、それは金属のように銀色に輝き、青い瞳が光った。
「くっ!キサマ!」
ザンシは刀を少年に向かって振るう。そのひと振りは先ほどの戦いで振るった速さなどには到底及ばない、最速の一振り。
「なっ!」
ザンシの剣技は自身でも逸脱していると知っていた。黒魔術で魔力により仮初の命をベルナーによって作られ、死体の記憶からその技術を伸ばしていった。
どれほどの強敵だったとしても、その剣を振るう速さで切り伏せてきた。
そう、この時までは。
ザンシの目に驚愕が映る。
自身の持った刀が折れ、その折れた刃が少年の手に握られていた。
「たしかに切ったはず!」
「たしかに当たったよ。でも僕はすごく硬いんだ。このジョン・ファーロングのアビリティネーム『メタル・ターミネーター』は
どんな相手だろうと何があっても、この身体は破壊されない」
ジョンは手に力をこめると刀は粘土のように曲がり、握りつぶされた。
「なにぃ!」
ザンシは距離を取るため、後ろに飛び去る。
その後ろに黒ずくめのガスマスクを付けた高身長の人物が立って、両手には長いカタナを持っていた。
「なっ、いつの間に」
ドクンドクンと無いはずの心臓の音がザンシの耳に入る。
「コーホーコーホー」
マスクからの呼吸音、そして他者にまで聞こえる心臓の音が黒づくめの人物から発せられていた。
「よう。ミカミ、ジョン……」
キャプテンは笑って突如として現れた2人に声をかける。
「キャプテン。あんまり怖い顔で見ないでくれます?このドンパチ騒ぎの場所を探す時間は誤差の範囲ですよ、遅れるのは仕方ないじゃないですか」
「ジョンはともかく、ミカミ!お前はなぜここに来た!ドクターの下に迎え!」
キャプテンは叫ぶ。
「大丈夫ですよ。ドクターの下には彼女が行きましたよ」
「その言葉……信じていいんだな……」
「ええ……」
すぐそばにザンシがいるにも関わらず、ガスマスクの人物は落ち着いた声で話した。
「折れた剣を持っているからと言って、油断したか!剣士!もうそこは間合いだ!」
ザンシはキャプテンたちの言葉を遮るように叫び、その骨の身体に隠していた剣を腹から取りだし、切りかかる。
「なっ!」
その剣筋は空を切り、その死んだ瞳は無を見つめていた。
「あと、ブッチャー様。女性の名前を気安く言う事はセクハラですよ……
アレクシアという苗字、知らないわけないですよね?」
ザンシは声のする方向をみると隣に立っていたはずの黒づくめの剣士はキャプテンの隣に立っていた。
「ああん?みんな仲間だろ。それに綺麗な姉ちゃんとは少しはお近づきに……」
キャプテンの顎に剣が突き立てられ、その髭を少し剃った。
「今の私はフルチャージ状態です。変な冗談を言うとその首うっかり飛ばしてしまうかもしれませんよ……」
「冗談の一つも言えた方が親密度っていうのは上がるもんだぜ」
「があああああ!!それ!ドクターに通用しなかったら意味ないんですぅ!というより、その女なんです?」
「あー僕も気になりました。この人。部隊の人間じゃないですよね」
ジョンはアリアの顔を覗き込むが、ミシェアが「あー、はいはい。ストップストップ。この娘はドクターの新作ですよ。脅さないの」と割ってはいった。
「がああああ!またドクターに新しい女が!しかも若い娘が!まさかまさかドクターの対象年齢は……があああああ!」
「アレクシアさんって本当猫被るのお上手ですよね……」
「いや、ポンコツでしょ。ドクターに押し倒されて頭をぶつけさせたし……戦ってる姿見られたくないって言ってマスク付けてるし、
おまけに能力の虚偽報告してるし……」
「しょうがないじゃないですかああああ!私の能力はすぐには発動できないんですぅ!」
「きさまらあああ!仲間と合流した事で油断したかぁ!オークキング!サイクロプス!ハイオーガ!そこで見てないで手伝え!」
ザンシが叫ぶと瓦礫と化した家屋にひっそりと顔を出していた。3つの頭に向かって叫ぶ。
「ううっ、無理でちゅううううう……」「もう身体ないもぉぉぉんん」「ゆっぴゃあああああ」
三つの頭の近くから大きな声でザンシの見知らぬ声が叫ぶように聞こえてくる。
「なっ……」
その頭たちは見せつけるように2つの頭が転がされ、瓦礫からぬるりと一人の男が現れる。その男は右手にはオーガの頭が突き刺さっており
「初めまして、ラッシュといいます。アビリティネームは『イービルヘッド』よろしくね」と腹話術のようにオーガの顎をカクカク動かした。
「あれ?うけない?」「やっぱり腹話術は子供向けなんだよ。大人にはうけないよ。わかってにゃー」
と1人で2人役を演じるとオーガの頭を捨てた。
「って、おーい!いたー!キャプテン探したんですよ!ここ、どうなってるんです?ってか何ですかこいつら。頭を切り飛ばしても喋ってて怖いんです!助けて下さい!」
と遠くからキャプテンに向かって手を振った。
「おい、アサイラム部隊のヤツまで呼んだのかよ」
「将軍様から、全軍で行けとの命令なので、ほら次もきましたよ」
ミカミは剣先を向けると
「ひいいいいいい、助けてええええ!」と叫びながら
兵士たちが軍用ジープに追い立てられて、何人も逃げていた。
軍用ジープにはところどころ改造されており、タイヤにはニードルが付けられていた。
「ハッハー!レースは俺が負けたが、賭けには勝ったぜぇえええええ!って相棒!俺のこめかみに銃突きつけんなって、俺が運転してんだからやめろ!」
「車相手に鎧きて走り逃げれるやつら相手に賭け事してるんじゃない。あと相棒じゃないウェズリー……」
「これだから真面目ちゃんは嫌だぜ」
「あがっ!ぎゃああああああ」
こけた一人がタイヤの棘に巻き込まれ、骨を潰されて血の線を作りながらミンチになりひき肉になる。
「おおー。今晩の飯はハンバーグにすっか。料理当番は俺だから却下はなしだぜ」
そしてキャプテンの近くまでドリフトしてブレーキをかけた。
「ザンシ様!こいつら強すぎて……助けて……『ダン!』ぐえっ!」「あぐう!」「ぎょえ!」
「ひゅー、鎧の隙間を打ち抜くとはやるねぇ!しかも一発で三人やるとか。やりますねえ!」
「イドリス、ウェズリー・フェニックス他、2名。緊急信号に駆けつけました。ほかの部隊もこちらに向かっております」
イドリスは車から降り、キャプテンに敬礼をした。
「ラウンド・オブ・サンダー!」「デッド・アフター・トゥモロー!」
その声と共に近くで電撃の音と吹雪のような風が吹きすさぶ。
「他2人は向こうで戦ってるぜ」
ウェズリーはニヤリと笑って敬礼をした。
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