第60話 第6章 その3
「くそ痛え……脇腹に刺さりやがった。」
「あ……あの……わたし……」
「立てるか嬢ちゃん。あんまり慢心するな……あいつ腕の一本や二本は切り落とすつもりで剣を振ってたぞ」
その言葉にザンシはにやりと笑う。
「ほう、我の気迫だけでそこまで見極めるか……フロスティン。作戦変更だ。アリア殿は生きたまま凍らせて持ち帰ろう」
「ウガアアアア!!」
フロスティンと呼ばれた巨人は言葉になっていない鳴き声のような返事で空気を震わせた。
「キャプテンヤバいよ!アイツら!マトモじゃない!アイツの体温、マイナスだわ!
生命体として異常よ!それにザンシっていうやつ……生きてないわ……」
ミシェアが大きく叫ぶ。
「ほう……そこのおなご、我がアンデットだと、気づくとは、見た目の歳のわりに勘がいい」
そういうとザンシは服をはだけさせる。その肉体は朽ち果て、骨のみであった。
「ば……バケモノ……」
ルイスはぼそりとつぶやく。
「キャプテン!気をつけて!私の能力があいつらに効いてない!」
「ああ、言われなくても……わかってる……だから嬢ちゃん!いったん離れてろ……」
キャプテンは氷柱を握力だけで砕き、ポタポタと血が垂れた。
「キャプテンさん!……ごめんなさい……私……私のせいで!」
アリアはキャプテンの言葉を無視して近づいて、彼の心配をする。
(ああ、私はどうしてまた同じことに……あれほど、あの時を後悔していたのに……)
「キャプテンさん、わ……」
言葉を言おうとした瞬間、アリアの頭にキャプテンの血にまみれた手が暖かく包まれる。
「その先の言葉は言わなくていい……お前の目を見ればわかる。あいつらに大事な人をコケにされて、奪われて、悔しくて、少しでも抗いたかったんだろう?」
優しい笑み。多くは語らずともアリアはキャプテンの思いに泣きながら頷く。
「それでいい。お前の仲間の思いは受け継ぐのはお前の役目だ。俺たちじゃねえ。止めに入ったが死んだ仲間の為に突っ込まなければ俺の目は節穴だ」
「で、でもあなたが……なんで私をかばって……」
「たしかにお前の仲間と俺は仲間じゃねえ。でも俺とお前はもう仲間だ……」
キャプテンは息を絶え絶えにさせながら右目でウィンクをする。
「キャプテンさん……」
アリアは震えながら、擦れるように声を振り絞る。
「俺はキャプテンだ!新人のワガママを聞くのが俺の役目だ。嬢ちゃんはそこで見てな!」
アリアの緑色の瞳から玉のような涙が自身でも気づかないうちに零れ落ちていた。
(ああ……どうして……どうして、私は弱いの……あっ……あっ……)
「あああああああああああああ!!」
アリアは心の限り叫ぶ。その感情は後悔と悔しさと不甲斐なさを混ぜながら奏でられていた。
(こんなバケモノの身体なのに!なにもできない!大好きだった友達もみんなも!私が何もできないから死んでいった!
何かを変えたくて皆さんに連れてってもらったのに!何も、何も変わらなかった。弱さが憎い!
くやしい!かなしい!にくい!私からすべてを奪っていくやつらが憎い!
神様!こんな呪われた運命を与えるなら!
一つで、一つでいいです……願いを一つ叶えてさせください……)
アリアの心臓の音が早まる。
その鼓動はアリアの耳に響き、キャプテンたちの耳にも響いた。
「があああああああああああああああ!!」
皮が裂け、肉がもげ、骨が折れる苦痛のような叫び。
その叫びと共にアリアの身体が脱皮のように皮がもげ変化していく。
爪が裂ける。
すべての悔しさを刈り取るために。
角が生える。
すべての悲しみを貫くために。
尾が伸びる。
すべての憎しみを薙ぎ払うために。
牙が変わる。
すべての敵を喰らいつくすために。
「あああああああああああああ!!」
最後の叫びと共に彼女の肉体は完全に変わる。
半人半竜の怪物へと。その姿は人の頭を一振りで刈り取れるほどの爪を持ち、その角と尾は心臓を貫けるほど鋭く、その鱗は太陽のように輝いていた。
「はあ……はあ…この身体……」
アリアは自身の身体が変化したというのに落ち着いていた。いやむしろ笑っていた。
まるで願いが叶った、祈りを捧げる少女のように。
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