第59話 第6章 その2
「隊長!魔法を使う許可を!このままでは被害が!」
「ダメだ!あの中心にアリアがいる!彼女を傷つけることは許されない!」
「いや、そうは言っても……」
ベルナーの兵士たちは口々に魔法を唱えようと提案するも許可が下りない。
それを逆手に「てあああああっ!!」とアリアは叫びながら拾った剣を両手に構え、積年の恨みを込めたように兵士に突き立てる。
「がああああ!!いてええええ!」
「何が痛いですか!ケインも!サーシャもこんな痛みじゃなかったのよ!」
そのまま剣を引き抜き、悲鳴を上げる間もなく首を跳ねた。
「ひゅー!やるねえ!嬢ちゃん!骨ごとぶった切るとは中々だ」
キャプテンは笑って囃し立てる。
「ええ!自分でもこんなに出来るとは思いませんでした!」
アリアは初めて人を殺したというのに、心の底から笑っていた。
「だからいったろ!辛気臭い顔して戦ってちゃあダメなんだ。それは負けているときの表情。勝ちに行きてえなら笑ってろ」
「なるほど!」
その様子を崩れた家屋を盾に兵士たちが固まって様子を伺う。
その気配を気配をキャプテンは感じ取った。
「ルイス!やるぞ!」「イエッサー!」
キャプテンは叫び、地面に盾を突き刺すと手りゅう弾のピンを引き抜き、 ルイスに向かって放り投げた。
そしてルイスはハルバード振るって手りゅう弾に当てる。
「ホームランだぜぇ!」
放物線を描いて、野球の要領で打たれた手りゅう弾は崩れた家屋の裏にいた兵士に飛び込み、
コン、コロコロ……と音をたてて爆風が弾けた。
ドンという短い轟音と共に中心部にいた者は目を虚空を見つめ、横たわる。
しかし、それは幸せな者たちだった。
手りゅう弾は生かす殺さずの威力に抑えられており……
「あがやああああ!」「俺の腹がえぐれて……」「助けてくれええええ……」
と口々に悲鳴を上げる。
「まってろ!今、助ける!」
ベルナーの兵士が叫ぶ。
それを聞いた仲間たちが近づこうとするのを見てキャプテンたちはにやついていた。
「いいねえ、仲間思いだ。ルイス!もういっちょやるぞ!」
「イェー!」
そうしてもう一つ手りゅう弾をキャプテンはルイスに向かってなげ、ルイスはハルバードの細い柄に当て、再び家屋に飛んでいく。
そしてその爆風が兵士たちを焼いていった。
「ハッハー!雑魚すぎんだろ!てめえら!」
キャプテンは再びライフルを構え、敵に向け、引き金を引く。
銃口の先には兵士が1人、刀を構えて立っていた。そのいで立ちは鎧を着る事もなく、私服のようだった。
銃声と共に鉛玉が目にも止まらない速さで飛んでいく。
キン……
銃声の合間、金属音が瞬間、キャプテンたちの耳に聞こえる。
「お前……俺の銃弾を切ったのか……」
兵士の一人が目にもとまらぬ速さで刀を振り下ろしていた。
ライフル弾が彼に向けて放たれたにもかかわらず、彼は何も変わらないかのように立っている。
しかし、その左右にいた2人の兵士は腹に穴をあけて倒れこんだ。
そして、内臓をぶちまけながら吹き飛んでいった。
「ふむ、その武器、理屈はわからぬが高速で金属を射出しているのか……そしてその金属に近づくと……ボーン……」
刀を持った兵士は落ち着いた様子で誰に言うでもなく話した。
キャプテンは黙って、レバーを素早く引き、2発続けて引き金をひく。
そして、キンキンと短い金属音が響く。
「やるねえ……」
キャプテンが呟いた瞬間、兵士の後ろが爆破された。
「おほめの言葉感謝する。某の名はザンシ。ベルナー殿に雇われた……」
ザンシが名乗りきる前にキャプテンは再びバンバンと銃声をならす。
そのたびにザンシは刀を振るい。銃弾を切り捨てる。
「名乗り合いもせず、戦うとは戦士としての誇りを知らぬ野蛮人か?」
「個人情報保護法って知ってるか?」
「……」
「……」
「それより、それはおもしろい武器だ。貴様を殺したら某が貰ってもよいかな?この武器もよい物だが、やや古くてみすぼらしい。そろそろ飽きたところだ」
ザンシは刀を構え、すり足でキャプテンへと迫る。
「あああああああああ!!」
アリアは叫びながら割って入るようにザンシに向かって剣を持ち、振るった。
アリアのその瞳には一段と憎しみの炎が宿っており、鬼気迫る勢いで力の限り迫りくる。
ザンシはそれを軽やかに避けてまわった。
「やれやれ、君はベルナーから生きて連れて帰れと言われているのだが……」
「黙れえ!それはカトレナの!私を逃がす為に戦ってくれたあの子の武器!なぜそれを持っている!」
「さあね……もう忘れたよ」
「があああああ!!おのれええええ!!その武器を返せええええ!」
アリアは無我夢中になって剣を振るい、ザンシは刀でそれを軽やかに受け流していた。
「嬢ちゃん!そいつにてめえは勝てねえ!引っ込んでろ!銃弾を切るなんてマトモじゃねえ!」
「大丈夫です!こいつらの目的は私……命までは取りません!って、きゃあ!」
キャプテンはアリアの襟首をつかみ、引き離す。
その瞬間、身も凍り付くような冷気がキャプテンとアリアを襲ってくる。
「嬢ちゃん!頭かがめてろ!」
「え?」
アリアは空にかかった影を見る。空を覆う巨体。
地響きと共に巨人が空より舞い降りた。その巨人の顔は醜く歪み、顔中に氷を張り付け、その手には岩石でできた大剣が握られていた。
その大きさは巨人化したルイスの倍の身の丈、6メートルほどある。
「霜の巨人、フロストジャイアント……」
「ウガアアアア」
フロストジャイアントは叫びながら手に持った大剣を振るい。地面に叩きつけられる。
「きゃあ!」
その衝撃波は風と共に凍てつき、氷柱に変化していった。
ザシュザシュザシュ
アリアの耳に肉が切れる音が響く。
「あ、あ、ああああああ!キャプテンさん!」
アリアの瞳にキャプテンが血を流して立っているのが映った。キャプテンの脇腹に氷柱がささり、血が垂れている。
そしてアリアを庇うように手を広げて立っていた。
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