第57話 第5章 その8

 「久しぶりだ本気をだ……」


ベルナーが背筋を伸ばした瞬間、ドラゴンは首を伸ばし、頭からかぶりついた。




 バシュ!くっちゃくっちゃくっちゃくっちゃ

 「あっ……」


 


 こいつベルナーを食いおったわ……

 そりゃずっと人間を食わせてたら人の味を覚えるよな。ははっ。バカめ……

 はは……


 「おおおおおおお!!」

 食べながら叫んだせいで、肉片が周囲に飛びちる。その際、あっけにとられながら即死したであろうベルナーの顔が見えた。

 「ひえ……」

 ゴクン

 

 喉を鳴らす音と共に熱気が周りを包み込む。

 それはドラゴンから放たれており、肉体から放たれていた。

 そして腹などにあったアザが治り、身体が人一倍大きくなっていた。

 なんだよ!ベルナーってきずくすりか何かかよ!

 なんで食っただけで傷が治ってムキムキマッチョドラゴンになってるんだ?

 そういや、ベルナーが魔物は人を食って魔力を蓄えると言っていたが、食ったことでパワーアップしたって事か?

 「あぶねえ!ドクター!」

 イレイナが俺に覆いかぶさり、ぎゅっと抱きしめられた。

 あっ、ママに抱きしめられてるみたい……

 「ってアチチチチ!」

 ヤバイ!これは熱すぎる。

 「イレイナ!やめろ!!死ぬぞ!」

 俺はイレイナを止めようとするも、その力は緩められない。

 次第に熱気は落ち着きを見せる。

 「イレイナ大丈夫か?」

「余裕だぜ……でも……」

 

 ドラゴンの方に目をやるとそこには以上に筋肉が膨張し。熱を帯びていた。

トカゲの鱗に角、竜の頭がこちらをにらみつけている。

生き物として恐怖を覚える。

 逃げろと心が叫んでいた。

 

 「がああああ!があああああ!!」

 ビリビリと通じる怒り。

 「グオオオオオオオオオ!!」

 鳴き声の大きさで地面が揺れる。

 「なんだよアレ……すっげえムキムキ。飯食うだけで筋肉になるのか?ドクターわかる?」

「さすがにわからないよ……」

 その声と共に「グギャグギャ」とドラゴナイトと呼ばれていた二足歩行のトカゲたちが部屋に集まり始めた。

 「わ、わぁ……」

「ドクター、逃げろ……よくわかんねえがオレの勘がヤバイって言ってる。逃げろ。」


 イレイナは前に出て俺をかばうように立った。

 その背中から見える肌は黒く焼き焦げ、ただれている。

 やっぱり無事じゃなかったのか……

「そんなにヤバいのか?」

「ああ……勘だが。オレの勘はよく当たる。だから逃げてくれ……」

 イレイナの汗が流れているのが見えた。

「わかった。じゃあ……」




 俺はキャプテンから借りているライフルをしっかりと構え、イレイナの隣に立つ。

「雑魚は任せろ」

「ドクター……オレの話聞こえてなかったか?」

「仲間を置いて生き延びるより、1パーセントでも勝率を上げて一緒に帰るほうがいいに決まってるだろ」

 イレイナはにやりと俺に微笑んだ。

 ……

 今の俺、足がガクガクしてヤバいの、彼女にバレてないよね……

 誰かー!キャプテーン!ミシェアー!ルイスー!早く来てくれー!

 できれば死にたくなーい!たすけてー!

 俺は心の中で叫んだ。

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