第56話 第5章 その7

「キサマ……ドラゴン相手に何をした……」

 ベルナーが冷や汗をかきながらイレイナに尋ねる。

 「3回殴った。高速で殴ったことで衝撃が遅れて3回当たっただけぜ……」

 イレイナ……まじでバケモノだ……

 ひとりでこんな巨大なバケモノを余裕で圧倒している。しかもチラホラこちらをみて気にかけているのが見て取れた。

「ガアアアアア!!」

 ドラゴンが大声で叫びながら起き上がる。

「ふむ、ドランゴ……そろそろ本気を出したらどうだ?」

 その瞬間、ドラゴンの口が赤く輝き始めた。

 「たしかにキミの力は素晴らしい、できれば私の兵士に勧誘したいぐらいだ。だがドラゴンの本当の力を知らないようだね。竜の一番の脅威は力ではない。吐息だ」

 ベルナーそう言い笑っていた。


 ドラゴンの吐息……やっぱり俺の知っているとおりに出来るのか炎を吐く事……

 俺の知っているファンタジーの知識まんまじゃないか……

 ってかヤバイ!アレクサがドラゴンが炎を吐くとか知らないはず、このままだとイレイナが丸焦げになる。

 イレイナの能力は圧倒的な腕力と周囲を透明化させる力。火に耐えれる能力ではない!

 「俺を置いてにげろ!イレイナ!」

 説明してる暇はない。俺の足では炎から逃げられないが、イレイナのスピードなら逃げられる。

 俺のために無駄死にする必要はない。

 俺の人生あっけ……

「ごぶううううう!!!」

 

 人生を振り返ろうとした瞬間、イレイナはドラゴンの口元まで飛び上った後。おもいっきり、下あごを蹴り上げていた。

 おう……ナイス太もも……

 じゃねえ!

  吐かれようとしたエネルギーが口の中で暴発し、鼻の穴からも漏れ出していた。

 周囲に肉の焼ける匂いがする。

 竜の息吹が逆流し、ドラゴン自身も焼いているのだろう。

 「なにいいいいいい!!!」

 ベルナーが驚愕の声を上げる。

 俺も呆然と見ているが、敵の立場だったら俺も叫んでいたと思う。

 

 

 「てめえら、馬鹿だな。そんなにわかりやすい事やってら誰でもわかる。ノーモーションだったあの時のクモの方がヤバかったぜ」

 イレイナは余裕そうに着地すると笑っていた。

 そしてすぐに俺の元にやってきた。

 「なあ、ドクター。あのトカゲ火を噴こうとしてなかったか?トカゲってそんな事できる種類もいるのか?すげえ!」

 イレイナは目をキラキラさせながら聞いてきた。 

「しらない……が、目の前にいるという事はいるんだろう」

 「おおー」

 クソ!なんでみんな俺に何でもかんでも俺に聞くんだ?

 やめろ!とは言えずはぐらかす。


 「キサマら家畜にしてはやるようだ。少しは身体を動かしてやろう」

 今まで笑っているだけだったベルナーという人物。そんな彼が宙から降りて、上着を脱いだ。

 話を聞く限り、この場にいるドラゴンと同等……

 イレイナがドラゴンを抑え込んでいるが、あくまで抑えているだけ、トドメをさすにいたっていない。

 というより、殺す手段がない。

 生き物は本来衝撃に強いように出来ている。

 同じ衝撃で殴られるのと刺されるのでは決定的に差がある。もちろん斬撃もだ。

 それだけ生き物は衝撃に強い。

 鋭い爪や牙、炎といった殺す手段を持ったドラゴンと肉体だけで戦うイレイナにとって差は大きい。

 ふとしたミスで一瞬でまくられるはずだ。

 どうする……


 ベルナーはにやりと笑って背筋を伸ばした。

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