第43話 第4章 その3

お嬢ちゃんを助けたのはたまたまの偶然だ……。普段だったら見捨てている。一時の感情でよくも知らねえ奴についてくもんじゃねえ……

それにこの戦いが終わったらどうするんだ?万が一勝てたとしても国も捨てて小娘一人で生きていく方法なんて酷いもんだぞ……」

「覚悟はできてます。これは私の復讐でもあるんです。私は心の中で仲間や友人たちの為に生きねばと思ってました。

でもそれは違う……死んでいった人にはもう希望も未来もないんです!

最後に私の為に死んだ仲間たちの為に復讐がしたいんです!」

 アリアの目をキャプテンは見る。


「はあ……気に入った!お嬢ちゃん、お前最高だよ。俺はてめえみたいなのがトコトン好きだ。こいつをやる!」

 キャプテンは胸に着けていた勲章を一つ外し、アリアに渡した。

「これは?」

「キャプテンバッチだ。こいつを付けておけばお前も俺の仲間たちからも仲間だって気づいてもらえる。これでお前は俺たちの仲間だ。」


 キャプテンは弾帯ベルトから銃弾を一つ取り出し、銃に入れ、空に撃った。

 それは高音の音と共に強く煌びやかにひかり、消えていった。

 「緊急信号を放った。これで基地にいる仲間、そして音を聞きつけた遠征中の仲間が駆けつけてくる。敵は大群だ全軍でいくぞ。ミシェア、ルイス俺たちは先行して敵地に向かう。

いいな」

 「了解!」

 と声高らかにルイスは敬礼した。

「いいの?キャプテン?もう本当に後戻りできないよ」

 ミシェアは心配する声で口を開いた。

「覚悟はずっと前から決めている。ってかもう遅い……。おい、嬢ちゃん。こいつだったよな。お前を裏切ったやつっていうのは……」

 キャプテンは兵士に紛れていたケーニヒを引きずると

「は、はい!」とアリアは元気に答えた。

 「や、やめろ!やめてくれ!俺はお前の親やベルナーに依頼されて従ってただけで、そんなつもりじゃ……それに俺は末端とはいえ、王族。生きて返せば金になるぞ!

それにアリア、ベルナーや親に脅されて、本当は君の事が……」

 その声はアリアの耳に入るも覚悟を決めた彼女には不快にしか感じなかった。

「じゃあ、こいつはトラックに乗せろ、五体満足でな。絶対、ケガなんかさせるなよ」

 「どういう意味ですか?まさか身代金の為に残すとは言わないですよね」

 アリアはキャプテンに暗い目で尋ねる。

「怖い目で見るなよ。楽しいパーティのお楽しみだ!」

 キャプテンは笑ってアリアに応える。

「キャプテン!アレをやるんですね!ウォンデット城での侵攻作戦のアレ!あの戦いは伝説だって聞いてますよ!」

 ルイスはキラキラした目でキャプテンに尋ねた。そしてトラックにケーニヒを乗せに行ってしまった。

 それにキャプテンはウィンクで答える。

「一戦の前に一杯やらせてもらうぜ」

 そういうキャプテンはズボンの尻ポケットからスキットルを取り出すと一口飲んだ後、「嬢ちゃんも飲むか?」と言ってアリアに突き出す。

 「!?あ、あのっ!そういうのを男女でやるのは!か、間接キスになりますが!?」

 突如として行ったキャプテンの行為にアリアはさっきまでの暗い表情は抜け、真っ赤にしてそっぽを向く。

 「いい声でるじゃねえか。これから戦いに行くんだ。暗い顔じゃやってられねえぜ!」

  その言葉と共に水音が聞こえる。キャプテンは酒を彼らにかけ始めた。

「うわっ!やめろ!止めてくれ!許してくれ!俺たちはただの兵士だ。彼女には何もしてない!勘弁してくれ!」

 水浸しになった兵士たちはぶざまに逃げる。しかし、その心は少し浮ついていた。

 命を刈り取られる状況から酒を駆けられ、遊ばれる状況だからだ。

 一時の屈辱よりも命がつながった事に安心感を覚えていた。

「人間一番いやな死に方ってわかるか?アリア?」

 キャプテンは酒を全て出し切る。

「いえ……」

「答えは焼死だ。ソースは俺。

神経を焼き、呼吸もできず、気絶もできない痛みが永遠に残り続ける。それが焼死だ。火は生き残れても障害が残りやすく、皮膚は癒着し、とても苦しい」

 キャプテンは出し終わるとベルトを締めてマッチを取り出す。

「俺は数年前、ツァーリー薬液という新型爆液の運搬中、敵の攻撃にあって薬液が俺の中に入ってしまった過去がある。その薬液は俺の身体を小さく爆破し、燃やし、俺の命を燃やし続けた。

 それを助けて貰ったのがドクターだ。

その事件以来、俺は新型爆液の副作用により能力を得た。アビリティネーム『エンド・オブ・デッド』俺の血、肉、汗は全て爆弾。引火性の物質の全身爆弾人間だ。やろうと思えばその威力は最大50メガトン。

半径約10キロは灰になる威力は出せる。そんな俺の唾液が普通だと思うか?」

 マッチに火をつけ、兵士に投げるとそれはあっという間に引火し、火が燃え広がった。

 「ぎゃああああああ!あづい!いだい!あづいいいいい!!」「あぎゃああああ!!」「みずうううううううううう!!」

「俺の能力のコントロールは正確だ。実によく燃える。今はまだ400度程度だが最終的には2000度になって骨まで残らねえ……」

 しかし、その言葉は燃やされた兵士たちには届かない。その永遠と思える暑さと痛みに苦しみ。少しでも火を消そうともがくのに精いっぱいだった。


「でだ……」

 キャプテンは振り返り、アリアに尋ねる。

 「くどいようだが最終確認だ。こんなことをする俺にお前はついてくるのか?人の尊厳を踏みにじり、殺しまくって、地獄に行く覚悟はきめたか?」

 その答えにアリアは答えない。だが、その口もとはほころび、復讐に燃えた炎はアリアという少女を輝かせ始めた。

 「ところで一つ聞いていいかしら?あなたたちは何者?見たことない道具に、その力。普通の人には思えないのだけど……」

「俺たちか……フィグウッド帝国超人的能力特殊戦術秘密部隊。エンドメイカーズ。俺はその隊長。クリス・ブッチャー。みんなの英雄キャプテェエエエエンボマー!」

 キャプテンは胸筋に力をこめて、力こぶをアリアに見せつけた。

「くすっ……なんですか?それ?」

「今度、ヒーローコミックを教えてやるよ。じゃあ、嬢ちゃんは先にトラックに乗り込んでろ!最後にこいつらを吹き飛ばして戦線布告するからよ」

「わ、わかりました!でも、それベルナーに分からなくありませんか?」

「こういうのは、やりましたっていう。形式が大事なんだよ。たまたまベルナーってやつが聞いてなかっただけだ。あと、トラックにはやけど薬もある。後で塗るぞ」

「い、いえ。お気になさらず。そんなに酷いやけどにはなっていませんから」

「……。わかった」

 アリアはキャプテンに手のひらを見せた後、トラックに乗り込んだ。

「キャプテーン。さっきの妹ちゃんの話、オチは言わなくていいの?」

 ミシェアはアリアがトラックに乗り込んだ事を確認するとぼそりとキャプテンに呟く。

「それはもう過去のことだ。物語ってのはハッピーエンドで終わったほうがいい」

「あっそ、あと、今回の失敗、あんまり気にしちゃダメだよ。空間転移なんて予測できる方がおかしいわよ」

「はっ、それ、殺し合いの場でも言えるのかよ……まっ、ありがとよ……」

 そして、悲鳴と共に勝手に開戦ののろしが上げられた。

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