第42話 第4章 その2

「はなす!さっきから話しているだろ!お前の仲間はベルナー様の宮殿だ!ここから西に行けば着く!」

 他の兵士が必死になって懇願した。

「いいや。まだ罠の可能性がある。ほいほいと騙されて手遅れになったら俺は地獄で仲間に顔向けできねえ……」

 その言葉にケーニヒの兵士たちは恐怖し、少しでもその場から離れようともがいた。


「それにしてはやりすぎです!限度を超えています!どうしてそんな事ができるのですか?」

 アリアは震える声を振り絞り、キャプテンの腕を握った。

 そのアリアの手は高温で皮膚を熱されるも力を緩めない。

 

「嬢ちゃんは優しいな。その優しさはずっと忘れないでくれ」

 キャプテンは手を振り払う。

「でも優しさだけで人は救えない。それはお前が一番わかってるだろう」

「わ、私の何を……」

 少女の声はか細く、震え、小さくこぼれるように呟いた。

「知らなくても、わかるぜ……目を見ればわかる」

 

 アリアの心には守れなかった物。沢山の思い出と自分を大切にしてくれた人たちの記憶がよみがえる。

 そして彼らを救えなかった後悔、懺悔、遺恨。

 その感情は瞳からこぼれるようにあふれ出した。

「『どうして』の理由だが。俺には妹がいるんだ。俺に似ないで綺麗な顔した優しい女でよ……俺の命よりも大事な家族だった。そんな妹の命も危機をドクターに助けて貰ったんだ。

だから、俺は何をしてでもドクターと妹の為に平和な世界を作りてえ。ロクデナシな俺に残された最後の夢で恩返し。それが俺の答えだ」

 キャプテンはアリアの腕を振り払い、拷問していた兵士の大きくやけどを負った顔を殴りつける。

 その一撃は簡単に兵士の命を奪ってしまった。

「次はてめえだ!」

「やだっ!いやだあああああ!」

 キャプテンは目についた一人を引きずり、立たせて殴りつけた。

「……」

 アリアは息を飲み、少し考えたのちに口を開いた。

「ダメです……ヴィクターさんの事は諦めた方がいいです……」

 「おい……お嬢ちゃん……言っていいことと悪い事……あるんだぞ……」

 キャプテンは少女の胸倉をつかむ。その手は血まみれに濡れていた。少女の身体は震えていた。

 単純にキャプテンが怖いからではない。

 これから伝える言葉のためだ。

 「ベルナーの持つ私兵は約1000人。そして国中からスカウトした幾人もの優秀な戦士もいます……そしてベルナーがテイムした多くの魔物たち。

そして、その魔物の中でも最強の霜の巨人。小国相手ならベルナー達だけで撃退できるだけの戦力を持っています。その真ん中にヴィクターさんはいます。

 無策で行っても全滅するだけです……」

 「それでも関係ねえ!敵がどれだけ強大だろうと俺は行く!」

 キャプテンは掴んでいた服を離した。その勢いでアリアは尻もちをついた。

「ルイス!ミシェア!命が大事ならお前らは基地に帰ってろ!俺は一人でもドクターを助けにいく」

「何言ってるんですか?キャプテン!僕はそんな弱虫にみえます?」

「みーたんも行くよー高級バック買ってもらって高級レストラン行く約束してるからねー」

 アリアの目に3人が映る。


「ああ……」


 アリアを逃がしてくれた人たちの光景と重なって見えた。

 (私のために死んでくれた仲間たちと一緒だ……死ぬかもしれないと知っていても仲間の為に笑っている。私の為に全てを捨ててくれた仲間たちと……

私はおろかだ……命を捨てて守ってくれた……

 その事実に甘えて逃げることしかしなかった。心のどこかで、みんな生きていて、きっと元の生活に戻れるって思っていたんだ……

 本当に守りたかった。失いたくなかったものは『これ』だったのに……)

「ああああああああああああああああ!!」

 アリアは立ち上がり、手に力をこめて兵士の顔を殴りつける。

「おう……いいパンチ……」

 アリアの拳は血が滲み、痛む。それでも彼女の心はすがすがしかった。

「皆さん、これが私の答えです!もう自分や他人に甘えて生きていく事は止めました!もう戻るつもりはありません!私がみなさんをベルナーのところに連れていきます!」

 アリアはキャプテンたちを見つめ覚悟を目で伝える。

「はあ……お嬢ちゃん……お前、人を見る目がねえわ……」

「え……」

 キャプテンからの予想外の答えにアリアは戸惑った。

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