第33話 第3章 その10

キャプテンはタイミングを見逃さず、命令が出された瞬間、隠し持っていた護身用のハンドガンを構え、射撃する。

 ドオオオオンンン!!

 弾丸は時速300キロの速さで隊列の端に飛んで行き、先端に塗られたキャプテンボマーの体液が騎士団に当たり、着火、爆発する。

 それは魔法を放たれるよりも早く、そして、それにより隊列が乱れ、詠唱が中断されてしまった。

 その隙を見逃さず、キャプテンとルイスは真っ直ぐに走る。

 「爆弾弾は今の一発でラストだ!接近戦だけでケリをつけるぞ!ルイス!」

 2人は素手だが、その筋力は常軌を逸している。それは脚力も例外ではない。

 混乱の数秒のなか、キャプテンは彼らの隊列に飛び込み、鎧ごしに自身の拳で兵士の一人の腹をアッパーで殴りつけた。

 「ぐえええっ!」

 殴られた兵士は3メートル上に吹き飛び、宙を舞う。

 それにより、人は上を向く。

 その隙にルイスは両手を広げ、手と手で蚊をつぶすように飛び上がった兵士を挟み潰した。

 その衝撃により、挟まった兵士は鎧ごと潰れ、体液が飛びちる。

 そしてその後、ルイスは近くにいた兵士を掴みとる。

 「クソ!はなせ!」

 掴まれた兵士はもがく。

 「えっ?」

 掴まれたその先は大きな口。鋭い牙にこの世の果てのように深く赤く続く地獄の入り口だった。

 兵士は叫ぶ暇もなく、飲み込まれていく。その光景に周囲のものたちに一瞬の静寂が訪れた。


「うぎゃあああああああああああああああああ」

 ルイスから信じられないほど悲痛な声が聞こえる。

 しかし、ルイスは一言も声を発してはいない。

 「アイツ、アイツの声だ……」

 誰かがぼそりと呟いた。

 その声はたしかに仲間の声という確信があった。それほどその声には彼にとって聞き覚えがあった。

 巨大なバケモノの胃の中で叫び、もがく、想像し難い恐怖が沸き上がる。

 「畜生!死ね!」

 兵士の一人が弓を引き抜き、ルイスの目元を狙う。

 その兵士は硬い敵に対しての対処を知っていた。どれだけ巨大でも硬い鎧に覆われていたとしても目玉は柔らかいと考える。

 そうやって彼は弓の腕と経験からくる対処能力で王族直属の私兵として選抜されていた。

 呼吸を置く間もなく、弓を射る。

 その矢は勢いよく飛び、正確に進む。

 ガチン!

 という鈍い音が響く。

 ルイスの外殻は目玉ですら硬く、金属をはじき返した。

「へっ……」 

 「俺のことを忘れるなよ。『ファイヤースナップっ!』」

 キャプテンは手で指を鳴らすと指先から灼熱の火炎が巻き起こる。

 そしてその火は弓の兵士の身体を焼き、燃え広がった。

「ぎゃああああ!熱い!あづいいいいいい!」

 火を付けられた敵兵は全身丸焼きになりながら暴れている。

「わぁ!キャプテン!それなんですか?カッコイイ!」

「ああん、ルイス。必殺技使うときは技名を叫ばないといけないの知らねえのかよ。技名言わないと、味方巻き込む可能性あんだろ」

「なるほど!」

 放たれた火は人を丸焼きにし、兵士は限界が近いのかふらふらとその場から離れようと移動していった。

 そしてその先は……

 「ガアアアアアアアアアアアアアア!!バキバキバキぃ!!」

 人食い怪物と化したルイスは首を伸ばして、焼けた兵士を齧り取った。。

 灼熱の火にもルイスは気にせず、燃えたエサをつかみ取り、飲み込んでいく。

「うーん、ウェルダンだ……ミティアムじゃない……」

 ルイスはぼそりと呟く。

「俺の火力は強火だ。ってか上官の能力で飯食ってんじゃねえよ。ルイス」

 キャプテンは笑いながら答えた。

 そして業火に焼かれていた彼にとって焼死という悲痛な死に方にならなかったのは幸運だったのか、生きたまま溶かされている仲間と共に死ねたのか、

 そちらが幸運だったかは誰にもわからなかった。 

 だが、はあ……まるで地獄だ……と

 ヴィクターはただこの目の前の光景が終わることをトラックの中から祈っていた。

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