第32話 第3章 その9
ルイスはじろりと見渡す。
彼は急速に減っていく自身のエネルギーが減っていくなか、補給源に目を向ける。
ルイスの首はまるで環形動物のようににゅるりと伸び、オークを頭から丸のみにした。
「プギャっ」
言葉を言い放つ前にオークは首というチューブをもこもこと通りながらつるりと身体へと消えていく。
その際、かすかに聞こえる叫びが仲間たちの耳に入った。
身体を生きたまま締め付けられ、体液が絞られ、骨が砕け、胃酸で溶ける。
それはまるで獲物を丸のみにする蛇のような捕食。獲物のすべてを栄養と変える原始的な行為だった。
怪物たちはその声に慄き、走る速さを加速させる。
しかし、「プギャっ」「ギュエ」「ゴブっ!」叫び声が3回途絶える。
まるで鳥が虫をついばむかのようにルイスは首を動かし、飲み込むたびに獲物をエネルギーに変え、彼らの持つすべてにより身体は硬く、引き締まっていった。
「てめえら!ぼうっとしてんじゃねえ!!やるぞ!」
兵士の一人が走りながら剣を抜き、大きく振りかぶって斬る。
カッチイイィィンン!
しかし、その刃は通らない。一切傷つく事無く、逆に刃が欠けてしまった。
「へ……硬い……ってうわあああああああああ!」
ルイスは兵士を掴むと腰から上を大きく口を開けて齧り取る。
ガリッ!ぶちゅぶちゅぶちゅと音を鳴らしてガリガリと咀嚼音がなる。
原始的な脅威を目の前にして騎士団たちは声が出なくなった。
唯一声に出したのはヴィクターだった。
「ひぇ……」
つかの間の一間、その静寂をかき消したのはキャプテンの一言。
「いくぞおおおおおおおお!」
「全部隊、あいつに魔法を放て!なんでもいい!はなてえええ!」
ケーニヒは大声で部隊に命令を下す。
だがこれが彼にとって悪手。
その場にとどまらず仲間を犠牲に逃げることが彼らにとっての正解だった。
それは初め、キャプテンはナイフで彼らを観察し、戦力差を見極めていた。キャプテンにとっての未知の力『魔法』
初めてそれを見た時、目の前で起きたことが信じられなかった。
無から有を生み出す奇跡の力。この力と対峙し、恐怖を覚えていた。
その力の差はキャプテンには理解はできないし予測は無意味だという事を瞬時に判断する。
それでも、そばにいる仲間を守るため、即座に撤退せず、おとりとなることを選んだ。
そして自身の力が彼らに通用するかもわからない未知の敵。そのため、彼は観察し、推測し、情報を集めていた。
豆鉄砲で狩猟ができないように、だが、ミサイルで害虫を駆除しないように、逆説的な目線で目の前にいる生物を確実に殺すことが出来るかの推測をしていた。
これは石を飛ばした魔法を観察した事により生命としての死に対する閾値を見抜き、
そして彼らの弱点、いや自身との共通点もキャプテンボマーは見ていた。
彼らは絶対指揮官に忠実に動くよう訓練されている事を。
そして命令された事を着実に迅速に行動に移す。それは兵士としては優秀な証だが、自らの考えで戦う戦士ではない。
そして、必ず命令されるまで動かない事だ。
もちろん、それらを知る前から、軍用トラックを降りる前からキャプテンは彼らを警戒していた。
それが、ドクターとミシェアを車に残していたこと、そして、不要な武器を持たない事で迅速に撤退できるよう準備していた。
どのような軍隊であれ、意識外からの不意の命令は部隊に小さなラグを生む。それは集団の規模が大きければ大きいほどばらつきが出る。
どのような武器や能力を持っていたとしても人の精神性は変わらない。
直接的な恐怖は人間を硬直させる。
そしてケーニヒと呼ばれていた人間は恐怖に対する訓練を積んでいないこと。
ささいな動作や雰囲気でそれを感じ取っていた。
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