第30話 第3章 その7
「両国の友好のための政略結婚だったとはいえ、キサマのようなバケモノと話すことがどれだけ屈辱だったか!」
「ま、マレク……どういうことですか……あなたは知っていたのですか?」
アリアは隣にいたアレクという男にすがるように問いただしていた。
「知っていたさ。というよりベルナー様にドラゴンを引き合わせたのは俺なんだよ。アリア!
最近、ケーニヒ様の国でづがいを探しているドラゴンが暴れていてな!やっかいだったからベルナー様とケーニヒ様に提案したのさ。
黙って身体を差し出すわけないと思って、裏でこそこそと手を引いていたが、まさか、あの城から逃げられるとは思わなかったぜ。どうやったんだ?」
「な、なにを……」
「それでウェアウルフで追わせ、あいつらを殺させたあとゆっくり捕まえようとしていたのに……」
「マ、マレク……」
「あー、信じられないって顔だな。ほら、お前ら、アレ持ってこい」
マレクの後ろにいた兵士たちが大きな袋を持ってくる。そして地面にそれを捨て始めた。
「お前の絶望する表情が見たくて、取っておいたのだぞ」
アリアはその袋の中身を見たのであろう。声だけで彼女の怒りが伝わった。
「あ…あ…あああああああ!!!だまれええええええ!!裏切り者おおおおお!!」
「裏切る?何を言ってるんだ。姫が国の為に奉仕しなくて何が姫ですか……大人しくその身体を差し出せば……」
「だまれええええええ!!!」
アリアは金切声で叫ぶ。そして立ち上がってマレクに向かっていくも、「ボルトライジング」と唱えるとケーニヒの手から雷撃が放たれる。
「きゃあああああああああ!!」
バリバリとなる轟音の中に悲鳴がつんざく。
そして力ない少女は男2人の前に膝をついた。
マレクと呼ばれていた男が笑いながら、アリアに伝える。
「これで、俺も貴族入りして悠々自適の生活だったのに、お前がどたんばで逃げ出したせいでケーニヒ様をお呼びだてする必要が出てしまって俺は飛んだ恥さらしだ!」
そして下卑た笑顔でアリアを蹴り飛ばした。
「っ……」
息はあるがその声に覇気はない。
「お前たちもとんだ疫病神と関係を持っちまったな。やれ」
そういうと兵士たちはキャプテンに再び石を飛ばしてきた
しかし、キャプテンは岩から動こうとはしない。
冷静な様子で覗いているだけだった。
「やめて……」
薄く、擦れた声でアリアはケーニヒにしがみつく。
「やめてください。この方たちと出会って数日もたっていません。私とは何も関係ありません!偶然出会って助けていただいただけなんです……私はこのまま贄になります!だから……」
「何を言っている。ドラゴンをテイムしたらドラゴンは両国の共同兵器となる。
ドラゴンを使って侵略戦争をしようとしているのにどこの者とも分からない者に知られているのは困るのだ。だからベルナー様の私兵と王族の一部の兵士のみで動いていたのだ」
「私が……私が何かしましたか?どうしてみんな死なないといけないのですか?私は何のために産まれたのですか?」
少女の悲惨な叫びが俺の心に刺さる。
あの人数差、そして、仲間たち全員の性格から見て、命を危険を侵してまで、彼女の事を助けはしないだろう。
むしろ、キャプテンは逃げる算段を立てている目をしていた。
長年の付き合い。こういう時のキャプテンの行動は手に取るようにわかった。
「キャプテンさん!皆さん!逃げて!逃げて下さい!」
アリアは力を振り絞ってケーニヒにしがみつく。
しかし、その力はケーニヒにとって無意味であったようで簡単に振り払われてしまった。
「くそっ、とんだメスブタ……メストカゲか……じれったいな。おい、オークとゴブリンども。ちょっとあそこまで行って、あいつを追い立てろ。」
そういうと奥から巨大な何かがやってきた。
「って何あれ、めちゃくちゃ変なのがいる!それにあれ、襲ってきてたやつ!ちょっと見に行きたくない?」
そういってミシェアは外に指を指す。
「ばか!何出ようとしてんだ!」
「だってあれ見てよ。あれ!」
少し、チラリとみると豚のような顔をした2メートルはありあそうな巨大人間と小さな緑色の猿のような生き物がキャプテンに向かっていた。
両者とも重そうな甲冑を着て、よだれを垂らして歩いてきていた。
「オークが命令を聞いている……ゴブリンも……本当に、本当に私を裏切ったのですね……ケーニヒ、マレク……」
「裏切るもなにも初めから信頼などしていなかったぞ」
アレクはにこやかに答えた。
アリアは乞うようにすがるように彼らに頭を下げ、地面にこすりつけていた。力なき少女はこうするしか彼らに乞う方法がなかったのだろう。
「おねがいします……おねがいします……彼らを逃がしてください」
「はあ?何を言っている!お前のようなバケモノと仲良くするのにどれだけ俺が不快な思いをしていたと思っている!いう事を聞かないゴブリンにも劣るメスが!」
そういうとケーニヒは足裏で、アリアの頭を踏みつけた。
「痛っ!」
「ケーニヒ様、殺してはいけませんよ。城でドラゴンが待っていますから。贄が来ないとなると暴れだすやもしれません」
「ふん!わかっている」
「お願いします……もう私の為に人が死んでいくのは耐えらないんです……お願いします……」
ああ、クソ!あいつ。あんな子供に乱暴しやがって。どういう関係か知らないがどうにかしないと……俺は持っているライフルをグッと握りしめる。
ミシェアもキャプテンも逃げる気満々。アリアちゃん一人であんなのと戦えるはずはない……1対何十という戦力差。しかも、よくわかんない力を使っている。
それなら俺が行くしかない!
そう思い、外に出ようと足に力を込めた。
「ぐえぇ!」
突如としてワイシャツを掴まれ、首が締まりひっくり変える。
「はいはい。ストップストップ。だめだよドクター。こういうとき飛び出す癖直さなきゃ。今と昔は違うんだし」
見上げる形でミシェアがニタニタとちょっと赤くなって笑っているのが見えた。
「まあ、ドクターのそういう所、昔からだいす……」
ミシェアが何か言おうとした瞬間、巨大な猛獣のような唸り声が聞こえる。
「ほら、ルイス君の頭も治ったし、ドクターが行っちゃ、逆に邪魔だって、ルイス君ああいうタイプ嫌いだから首つっこむよ」
そう言われると俺の顔に影がかかった。
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