第29話 第3章 その6

 ガタガタと車を揺らして1時間、少し開けた所が見えはじめた。

 「そろそろ、お前を拾ったところだ。見覚えはあるか?」

 キャプテンは周囲を見回して、アリアに伝えた。


 「たぶん、ここを右に……って、あ、あれは王国の旗!それに第5王子の紋章!」

  アリアは遠くに見えた鎧を着た人たちに指を指した。

「やった……希望がつながったわ……みんな……ありがとう……」

 アリアは手で顔を覆い、泣いているようだった。彼女はあふれ出した涙を拭うと

「キャプテンさん、お願いします。あの部隊に近づいてください」

 といった。

 「何時代のものですかね……あれ……」

 ルイス君がぼそりと呟く。 

「伝統なんでしょ……。隣国でも貴族の護衛は伝統服着てるでしょ。それと同じじゃない?」

 ミシェアもぼそりと呟いた。

 ドラックが近づいていくと、兵隊らしき人たちは驚いているような、恐れているような雰囲気でうろたえ、武器を構えている。

 「安心してください、私です。アリア・フィン・ドラゴロードです!」

 アリアは声をかけ、手を振る。

 「トラックの中だと外には声が聞こえねえ。そこのハンドルを回せ。窓が開く」

 彼女はハンドルを回し、窓から身体をだし、大声で彼らに声を上げた。

 「アリアだ!アレにアリアが乗っているぞ!」

 彼らが大声で呼んでいた。こちらまでしっかりと声が聞こえた。

 それにしても自身で偉そうな立場を言っていたが、呼び捨てか、実際はそんなに偉い人じゃなかったのかな。

 手術の為とはいえ、偉い人の太ももを見て要らぬトラブルが出なさそうで助かった……

 ドラックはゆっくりと止まり、アリアは慌てて外にでる。

「皆、武器を納めて下さい!この者たちは私を助けてくれた者たちです」


 彼女は大声で手を広げ、彼らを止めていた。

 「ってあ、マレク!良かった生きていてくれたか、ケーニヒ様、マレクの事を助けてくれてくれたのか。生きててくれて良かった……良かった……他のみんなは?」

 知り合いもいたようで彼女の声はいきいきとしている。

 細かい話まではこちらに聞こえないが何事もなく無事に終わってよかった……

 「ドクター、俺とルイスで外に出るが3人はそのまま待っててくれ。何があっても出るんじゃねえぞ。それにこいつを預ける」

 そういってキャプテンは腰のライフルをホルスターごと渡してきた。それはずっしりと重く、ホルスターには銃弾もついていた。

「どうした?」

 「こんなもんぶら下げてたら、いらねえ誤解を生む。ルイスも持っていくんじゃねえぞ」


 キャプテンとルイス君は手を上げ、トラックからゆっくり降りていく。

 俺はこっそりと窓から外を見る。あんなムキムキマッチョな怖い顔した男が出てきたらビビられて騒ぎになりかねん……

 ヤバそうになったら俺が出て行って場を納めなければ……

 ああ、やっぱりあの人たちから武器向けられているじゃん……

 俺の視線の先には槍を構えている兵士たちがいた。

 鎧の兵士も屈強そうではあるがキャプテンの比ではない。あの二の腕は人の頭を握りつぶすぐらいできそうなほどムキムキだ。

 初めて見たら見ただけで犯罪レベルだ。

 わかるぞ、君たち……

 でもそれで死んだやつ3人ぐらい知っているからやめてくれ……

 「あっ、キャプテン様!ケーニヒ様。こちらの方々は私を助けてくださった者たちです。武器をお納めください」

 アリアちゃんはキャプテンに気づき、慌てて声をかけた。

「俺たちはこのお嬢ちゃんを送りにきただけだ。このまま何もしないで去る。いいな……」

「いえ、何をおしゃられてますの?キャプテンさん。ぜひお礼を、このペンダントを……」

 「ストーンバレット!!」

 その瞬間、兵隊たちが奇妙な言葉を叫ぶと手から光る模様が現れ、そこから石つぶてが飛んでくる。その石はルイスの頭に直撃し、後ろに倒れ込んだ。

 キャプテンは石が飛んできた瞬間、走って近場の岩に飛び込んでいった。

「おい、なんだよこれ!てめえ!何しやがる!」

 

 「ケーニヒ様、彼らは悪い人ではありません。魔法を唱えるのをおやめください。私をウェアウルフから守り、ここまで送り届けて下さった方たちです」

 アリアは大声で彼らに呼びかけ、手をひっぱり無理やり止めようとしていた。

 「ボルトライジング!」

 「きゃあああああ!!!」

 雲ひとつないのに雷鳴が鳴り響き、彼女の悲鳴がつんざくように聞こえた。

 いや、実際にケーニヒと呼ばれた男の手から再び光る模様が出現し、雷が現れ、アリアの身体を電撃が駆け巡り膝をつく。

 

 「ねえ、なにこれ?何が起きているの?面白すぎでしょ!」

 ミシェアが楽しそうに覗き込んだ。

 「ばか!そんな場合じゃなだろ!ってか何だあれ!なんで岩や雷が飛んでくる!能力者か?」

 俺はたまらず声に出してしまう。

 「雷が飛んでくることはあっても無から岩を出すのは無理でしょ。やっぱりついてきて良かったぁ。この国の科学者凄すぎでしょ。あんなもの作れるなんて……」

 ミシェアは愉快そうにとなりで笑っていた。

「ねえねえドクター。みーたん今からあっちの方に就くって言ったらどうする?みーたんクビになっちゃったしー再就職先探しているんだよねー♡

NTRだよ♡NTR♡どうするー?♡ドクターがみーたんがいないとダメーって言ってくれたら考えてあげてもいいけどなー」

 ミシェアよ。NTRはお互い付き合っててないとNTRとは呼ばない。それはBSSだ。というより、それは亡命だ。とツッコミたかったが


「ってかミシェア!問答無用で殺しに来るところに再就職はできないだろ!はやくルイスを助けないとドデカイ岩が頭にぶち当たってたぞ!」

「えー、大丈夫でしょ。ちょっと再生に時間がかかっているだけだって、ほおっておいた方がいいよ。幸い。気づかれてないからこっちにアレが飛んできてないし」

 こいつ……

「それにキャプテン。冷静な顔をしている。全然大丈夫、すぐにこっちに来て逃げる算段をしているよ」

 キャプテンの方を見るとよく磨かれたナイフを鏡がわりにして、あの鎧たちを観察していた。

 よく見ると足首にナイフのホルダーがあった。あんなことをいいつつ、武器をもっていたのか……


 「どうして……どうしてケーニヒ様!どうしてこんな事を!やめてください!何かの誤解です……私はあなたのことが……」

 アリアは痛みにこらえながら声をかける。

 ケーニヒと呼ばれた男は手を上げ、攻撃を部下たちに止めさせた。

 「どうしてって何でお前なんかのいう事を聞かないといけないんだ?このバケモノが!俺の名前を呼ぶな!ヘドが出る!」

 ケーニヒと呼ばれた男はアリアを突き飛ばし、剣を向けた。

 「え?」

 アリアは怯えるように声を出した。

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