第23話 第2章 その5
「きゃうんんん!」
来ない?
「おい、嬢ちゃん。こいつは嬢ちゃんのペットってわけじゃねぇよな」
目を開けると見たことのない服を着た人間が1人。脇で巨大なウェアウルフの首根っこを挟み込み抑え込んでいた。
彼の言葉ははっきりわかった。見たことない服を着ていたがヒト族は神の加護により言葉は必ず伝わる。
悪魔や高位のモンスターは言葉を学んで話し、ヒトを騙すことがあると聞いた事があるが、
そのような類のものではなさそうだった。でも、ウェアウルフを片手で抑え込むなんて普通の人間ではありえない。それこそ英雄級のレベルでないと……
ベキッ!!!
骨の折れる音が聞こえ、狼は転がり、舌を出し、瞳から生気が抜けていく。
「へし折ったの……?ウェアウルフのクビを……」
風を切るような速さで横を狼たちが走っていく。その速さは尋常ではない、私たちを追いかけていたのは本気ではなかったのだ。
「危ない!」
とっさに声に出たが、男は聞いたことのない破裂音と共に拳を振るい狼が地面に叩き付けられる。その衝撃で小石が宙に浮いていた。
「素手で殴りつけた?」
真っ先に飛び込み、地面に伏せた狼は一切動きを見せない。まさか一撃で殺した?
見回すと3匹、彼の周りを取り囲んでいた。狼たちにも焦りがあるのを私でも感じられる。狼たちは少しずつ距離を取っていた。
彼は右手で腰につけていた魔道具のようなものを構えると「バン」という音と共に狼の頭が吹き飛んだ。
魔道具は再び「バン」と音が鳴り、次は身体ごと吹き飛んでいった。
「すごい!ウェアウルフがこんなに簡単に……」
謎の魔道具を操る彼は鋭い目で狼たちを見ていた。
しかし、狼たちも同様に隙を伺っている。他のウェアウルフも私ではなく、彼に意識を向けていた。
「肉食動物はこれだからいけすかねえ。一匹殺しても二匹殺しても、まだ勝てるとふんでやがる。銃弾も無限じゃねえんだぞ。
仕方ねえ……嬢ちゃん目と耳ふさぎな」
私は男の言うとおりに両手で耳を塞ぐ。
彼は腰の左側に着けられた魔道具であろう何かを取り出し、ケモノに向ける。
「きゃあ!」
私の横を咄嗟に飛び掛かったウェアウルフの一匹の頭に魔道具の先端が向けられる。すると狼の頭は轟音とともに弾け、熱波が顔を焼き、閃光が熱線に触れた狼が簡単に灰に代わっていった。
爆風が私の身体を浮かせた。
視界が空と地面へとがグルグルと回り、後頭部に衝撃が走る。
周囲には草木が水分を失い倒れ込んでいた。そしてウェアウルフは頭から弾け飛んで全身が丸焦げになって灰になっている。
「私、助かったんだ……でも目が回って瞼が……」
それから、どれぐらい時がたったのだろう。気が付かないうちに瞼が重く閉じられ、声が出ない。
身体が宙に浮き、暖かい体温が私を包み込んでいる。
あんな事があったのに不思議と安心した。灰の香りが私の心を落ち着かせた。ゆっくりと目を開けると彼の横顔が見える。
「起きたか?まだ目的にはつかねえから寝てろ。色々聞きてえ事がある」
「ありがとうございます……」
私の意識はまた何処かにいこうとしている。でも不思議と恐怖は感じなかった。
でも暖かさを感じる。
凍てつくような私の運命をみんなが温めてくれているように……
私は再び闇に落ちた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます