第20話 第2章 その2
やはりマレクは頼りになる。それに皆もそうだ。もうこんな状況であれば、私を捨てて逃げたほうがよいであろうに付いてきてくれている。
皆が私に勇気をくれる。希望もくれる。
いつか、その恩に報いたい……
「それにしても本当なのか?大事な娘を魔物なんかにくれてやるなんて、そんな事を父親が認めるのか?」
従者の一人が声を震わせながら尋ねてきた。
「それほど、ドラゴンは強力よ。高い魔力を持ち、ミスリルですら歯が立たない鱗、あらゆるものを焼き尽くす炎のブレス、そして空を駆ける翼を持つ。
強いドラゴンが暴れれば一匹で私たちの大きさの国なら簡単に滅びる。そして高位のドラゴンは人の知能を超える。
地を埋め尽くす数の魔物を使役するベルナー・オーバーランドであったとしてもそう簡単には使役はできないほど凶悪な魔物よ」
私は彼らに語りかける。あの場にいなかった従者も多い。
「そんな魔物、使役できるのか……」
従者の一人がぼそっと呟く。
「正確には使役ではないでしょうね。ドラゴンが私を求めているという事は……きっと、そういう事だと思うわ。
私の血は濃いもの。何となくだけど。わかるの……そして、その後は……」
私はお腹を摩る。その後の恐怖を乗り越えるように。
「それに高い魔力を持つ魔物はより高い魔力を持つエサを求める。そして食べるほど魔力を蓄え、自身の力に変える。普通だったら他の魔物を食べて維持しているけど、
人里で維持するとなると人を使うでしょうね……特に身分の低い平民や農民たち。そして隣国……魔力を持たない人はいないもの。数を集めて代わりにするはず……」
ごくりと誰かが唾を飲んだ。
「って事はアリア様がベルナーに捕まってドラゴンの贄にされたら、人間をエサにして、でけえ魔物を飼うって事か?イカレてやがる……」
各々、絶望の表情を浮かべていた。
国という国民を守るはずの組織が民をエサに怪物を飼う。恐怖の行為だ。
だがドラゴンというモンスターはヒューマンを超えた知能に力、魔力を持っている。我々がドラゴンを飼うのではない。
ヒューマンがドラゴンに飼われるのだ。
ドラゴンに対抗できるのは国でも僅か、いや、絶対的な魔力と軍勢を持ったベルナー・オーバーランドだけだろう。
国王である父もベルナーには何も言えない。むしろベルナーは公務を全て王族に任せ、自由に権力を振るっている。
公にはされていないが、民を家畜のように殖やし、消費している。そうでもしないと魔物の軍勢を維持することは不可能に近い。
それに私のひいじい様の代から生きている。ヒューマンだが、ヒューマンと思えないほどの力を持った恐ろしい人物だ。
そんな彼がドラゴンと手を組もうとしている。
絶望しかない。
そこまでの話をみんなにはしたくなかった。
「あー!やめやめ!そんな事聞いていたら、辛気臭くなるわ!」
従者の一人であるアンネが割って入ってきた。
「王国との国境まであともう少し。さすがに隣国に侵攻してまでベルナーも父上も襲ってはこないでしょう。それにあのペンダントを売れば一生生きるぐらいのお金にはなるわ。
それに王国にはフィアンセのケーニヒ様がいるのでしょう。
私たちにもお二人は随分と仲が良いとお話は耳に入ってきてます。未来の希望を持ちましょう!」
「なっ、確かに彼とはまんざらではないと思うが……。私は竜の血が濃い。ヒューマンではなくドラゴニュート……このような形では国王様にあまりいい顔はされないでしょう。
こんな鱗の肌の女がこんな形で王族と婚姻を結ぶ事を喜ぶとは思えません……」
「貴族社会でも最後は愛です。王国の王様はかなりのロマンチストでご子息の一人の身分差婚をこっそりと認めたと聞きます。愛無くして幸せなんてありません。
アリア様の事もきっと……」
そう言われ私の顔は少し熱くなった。
これは私の気持ちからだけではない。アンネが私を抱きしめていた。
ドクドクと心臓の音が聞こえ、彼女の体温が私を包んでいた。
「あ、アンネ……?」
アンネが耳元で囁く。
「だから、私たちの事は早く忘れて幸せになってくださいね……」
「え……」
その瞬間、草場からウェアウルフが飛び出してくる。
「て、敵襲!アリア様はやくお逃げ下さい!うわあ!」
ウェアウルフのツメを立てながら、目の前にいた従者に覆いかぶさる。
「アリア様、お逃げ下さい!」
大きな声でマレクが武器をとり、ウェアウルフに立ち向かっていく。
女も男もウェアウルフを取り押さえようと取り囲んでいた。
「アリア様!国境沿いで会いましょう!」
マレクの声が聞こえた。
「みんなすまない!」
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