第13話 第1章 その6
「グギャギャッ!」
声の方をみると死体の山から一人ゴブリンのようなヤツがもぞもぞと這い出し、逃げ出していた。
一人は生き残りがいたようだ。
がんばれ……何とか逃げ出して、ここには近づくなと仲間に伝えてくれ……俺にはそれしか出来ない……
そう祈った瞬間、雷鳴が響き渡る。銃声だ。
「グギャッ…」
ゴブリンは腹を押さえてうずくまり、周囲には血だまりが出来た。
周りの兵士たちはその光景に唖然としている。一瞬の静寂。
そしてバアッンと火薬の匂いと共に赤や青の綺麗な花火と共にゴブリンの身体は弾け飛んだ。
手足は宙を舞い、コロコロコロリンと頭が転がってきて、苦痛に歪んだ目がこちらを見ている。
ひぇ……
「いえええええいいいい」
俺がドン引きしている中、あちこちにいる兵士たちが血まみれの花火に歓喜し、歓声が飛び交っている。
銃弾に塗られた特殊爆薬を自在に操り、生物を体内から爆殺させる。そんなことをするのは彼しかいない。
全身の血肉が爆薬の生きた爆弾。そんな能力者は一人だけ。
煙の向こう側から一人、こちらに近づいてきた。
「綺麗な花火だ。だろドクター……今回の新作だぜぇ!」
本来緑色であっただろうが、汚れに汚れて真っ黒になっているススだらけの軍服。弾帯ベルトの弾丸がきんぴかにキラリと光り、
スピンコック式のランダルカスタムされたライフルを片手でくるりと回した。
ワイルドに生えた無精ひげ。筋肉モリモリマッチョマンような人物がそこに立っている。
「クリス・ブッチャーどうした?」
「ヘイ、ドクター。俺の事は名前じゃなくてヒーロー名で言ってくれ。みんなの英雄キャプテエエエエンン・ボマァァァアアア!!」
「キャプテン!キャプテン!」「ひゅー!」「カッコヨスギィ!やりますねえ!」「イキスギィ!」
周囲の兵士たちが囃し立ててクリスは笑顔でライフルをしまい、皆は盛り上がっている。
地上を地獄に変えるエンドメイカーズ。
まさに終わりを作る者たち。
彼らは俺が作ってきた改造人間たちだ。
個々人が様々な経緯で部隊入りしたが、共通しているのは皆がスーパーパワーを持っている。
そのパワーにより困難な戦況を変え、国を平和にもたらした英雄。スーパーヒーロー部隊……
なんかではなく、大抵は任務のためなら女子供も虐殺し、人の尊厳を踏みにじって戦っているようなスーパーヴィラン部隊だ。
彼は一人ひとりが人を殺すことを快楽を覚えているようなイカれた部隊を率いる隊長。クリス・ブッチャー大佐。
戦場を爆弾で破壊しまくることから自身の愛称をキャプテンボマーと自分でつけたサイコ野郎。
彼が部隊に入ったきっかけは新型爆発性薬液ツァーリー薬液の運搬時による事件だった。
その薬液は水との配合比率により性質を変える物質で燃焼性や膨張性2つの特徴を自在に変えられ、
鉄分との配合比率で起爆要因を自在に変えられる新物質だった。
そんな薬液が体内に入ってしまったからさあ大変、あたり一面火の海地獄になりそうって時に閃いてしまって改造して助けたら、
何がどうなっているかわからないが、体内で薬液を生成し始め、肉体はもちろん汗や血、尿にいたるまで自在に爆薬になってしまう爆薬人間になってしまった。
彼が望めば触れた物は爆発し、血を流せば燃焼し、尿はガソリン代わりになった。
そんな彼は「俺ってスーパーヒーローになっちまったのか?あのコミックみたいな?」と喜び、軍服をコスプレまがいに改造し、
戦場を駆ける爆弾魔になった人物だ。
「お前ら!その辺にして持ち場にもどれ!俺はドクターに用事がある」
「イエッサー!」
彼は人払いをすると小声で話しかけてきた。
「二人ともちょっと時間いいか?ちょっと食料調達してた時にこいつを見つけてな。ちょっと見て欲しい」
彼が指を指した方向には軍用ジープが一台止められていた。
「え~、ドクターとみーたんは、もうクビになったのでぇ、キャプテンともいえども命令を聞く立場じゃないんですけどぉ~って」
荷台を覗き込むと毛布にくるまれていたものが一つ。
「こっそりな。他の兵士には見えないように。はしゃぐバカがいるかもしれねえ」
ゆっくり毛布をめくると16ぐらいの少女がそこにいた。綺麗な装飾品の着いた高価そうなドレスのような服は泥だらけで所々破れている。だが可愛らしく整った顔をしていた。
どう考えても乱暴された後のような様子だ。
「お前いったいどっから連れてきた。俺にそんな趣味はないぞ。ってか何でこんなにボロボロなんだ?まさかお前……」
「みーたん。そういうのはちょっと好きじゃないかなぁ……」
2人でキャプテンの顔をみるとしかめっ面で否定していた。
「人聞きがわりいな。狼に襲われてたんだよ。でけえ狼にな」
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