第9話 第1章 その2


 「うえええええいいいいい!」「うんめええええええ!」「ひゃっはー!」とチャラ男と世紀末のパーティーみたいな声があちらこちらから聞こえてくる。


 ミシェアに案内された基地に併設している野外演習場で煙をモクモクと燃やし、全長3メートル近い大きなイノシシが何匹も丸焼きにされていた。

 右を見ると分厚いステーキにして焼いている者。

 左を見ると漫画で見たことのある骨付き肉みたいにして焼いて齧っている者

 楽しそうに飯食っている一般兵だらけだ。


 


「なにこれ?」


近くにいた兵士に尋ねるとウキウキ声で返してきた。


「あ、ドクター目覚めたんですね!まあ、上官がいなくなったらパーティーに決まってるじゃないですか!見てくださいよ!あのイノシシ!


あんなにでけえやつ俺の田舎でも見なかったっすよ!」


「いや、その話もそうだが……」


 戦争時は食料は足りていないし、保存のために味は二の次になりがちだ。ちゃんとした肉というのはそれだけで


麻薬のような魅力があるのだ。一般兵の配給では月に一度ぐらいしかくず肉を手に入れる事しかできない。そして普段はカロリーしか計算されていないクソみたいなレーション。

盛り上がるのは至極当たり前の事である。


ま、まあ……あのイノシシ肉でけえな……いい匂いするし……


 あまりに大きい肉塊に呆然としていると、小さな男の子がとてとてと近づいてきた。


 「ドクター!目が覚めたんですね!恐縮ながら、このハンニバル・ルイス二等兵!ドクターの為に一番美味しいところ、イノシシの脳みそを切り分けておきました!

今から調理いたしますのでお納めください!!」


 深々と頭を下げると被っていたヘルメットがズレ、慌てて紐を締め直した。


 「ああ、ありがと……いや、そうじゃなくてだな…」 

 いや脳みそってなんだよ。そんなゲテモノ食えるかあ!

 とツッコミを入れる前に……




「グギャアアアアア!!」

「グエエエエエエっ!!」

「グギョオオオオ!!」

 


 広い練習場、あちらこちらから人とは思えない悲鳴がずっと聞こえてくる。

 ずっと聞こえていないふりをしていたが限界だ。

 外のフェンス越しには死体の山と山。緑色の肌をした小柄な人たち地面に五体不満足で転がっていた。

 生きている人たち?はどれだけの恨みをもっているのか彼らはお粗末な武器を手にこちらに一目散に向かってきている。

 着ている者もボロだらけ、しかも、わりと痩せている。見ていたら可哀そうに思えてきた。

 


 しかし、仲間のみんなは命を奪うことを楽しそう。

 

 ってか襲われているのに呑気に飯食ってるやつらばかりだし……

 ふとみると、フェンスの前に兵士の一人がいて、銃声を馬鹿みたいに鳴らしている。

 そして、その光景にみんなは大盛り上がりだ。


 デカいリボルバー式の拳銃を持って外に向かって弾を打ちまくっているのはイケているめちゃくちゃカッコイイお兄さん。

彼は弾が切れると目にもとまらぬ速さでリロードしていて、まるでアクション映画の主人公みたいだ。

 その男の足は、えっ、お前本当に俺と同じ人間?と言いたくなるほど理想的な長さをしており、まさに黄金比率ともいえそうなほど完ぺきだ。

 また筋肉も無駄に大きくはないががっちりしており、機能美を優先された洗練されたフォルム。赤い瞳はしっかりと敵を捉えるために見開き、鋭い眼光を作っている。

 黒が混じりつつも鈍く金色に光る髪から見える顔はその一瞬だけ切り抜けはポスターになりそうなほどカッコイイ。

 まるでアクション映画の主人公だ。

 

 そいつは弾丸を跳弾させて、射線を曲げて盾を持ったやつを背中を打ち抜いて射殺している。

 射線外からの銃撃に敵たちは困惑している様子がうかがえた。

 そりゃ、敵の前をカバーしているのに背中から攻撃を喰らっているんだもの。敵たちはかなりうろたえている。

 どんな射撃技術しているんだと思うが、でも、それが彼、イドリス・ガンスリンガーの能力だ。

 たしかアビリティネーム、『ウォンデットリボルバー』超人的空間認識能力と超感覚を持つ人間レーダーのような能力。

目の前で起きているのは、その能力の応用で超精密射撃により360度どこからでも銃弾を跳弾させて的に当てたり、

銃弾を曲げたりして標的を100パーセント正確に打ち抜いているのだ。

 能力者の特性を知っていなければ、射線外から撃たれていているとしか思えない。

 というより弾丸を目で追えるようなやつ出ないと何が起きているか理解できないだろう。

 


 しかし、銃口の先にいるワラワラと何十人もの緑色の肌をした小柄な人達はなんなんだろう。

  子供にしてはめちゃくちゃ狂暴そうな顔しているし、武器を持っている。

 まあ、お粗末なナイフだが……

 それに肌が緑色だ。カモフラージュ用の塗料と思うが……

 「で、なんだあいつら……敵か?あんなにうじゃうじゃと……」


 俺は隣にいるミシャアに尋ねた。


 「それがどこの誰か分からないのですの。ショタガキ事件の後からちょこちょこ襲い掛かってきて、あれよあれよと大群に……


 まるでハチやアリのように味方がいくら死んでも向かってくるのでみんな困っているそうなんですの……」


「なんですのってまるで他人行儀な……」


「みーたんクビになった身分ですし……」


「まだ、解雇通知受け取ってないだろう……というか……なんで!なんで、あいつ一人であんな大群相手にしていて、みんなは飯食って、その光景見てるんだよ!」

 俺は思わず、ツッコミを入れると

「なにって賭けに決まってんだぜぇええええ!誰が5分で一番多く殺せるかゲェェェェム!!」

「イエエエエエイイイイ!」「イャッフー!」

 近場にいた兵士たちがウキウキ声で返事してくれた。

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