第5話 プロローグ その5

「ミシェア・フローレンス。説明を……」

「これこそアビリティネーム!ディープグリードっ!!」

 まってましたかと言わんばかりに彼女は大きな声で胸を張っておっさんどもに言い放つ。


 さっきの悪魔は拍手喝采で。サーカスを見に来た子供のようにはしゃいでいた。

 わかるぞ!気持ち!モンスター解説図鑑とかってテンション上がるよね!うんうん!

 リアルで死人出てるのに、なんでこいつはこんなに喜んでいるんだよ!

 人の気持ち考えろ!と心の中で叫ぶ。


 そして、その心の悲鳴の如く、プルプルと揺れる気配を感じ、ふと、横目でミシェアを見るとでかい乳がぱっつんぱっつんになってプルプルに揺れていた。

胸を張った衝撃で、乳がとんでもない事になっており、ボタンがかわいそうな事になっていたが見なかったことに……

 意識を出来るかぎり、その揺れから意識を外すように心を落ち着ける。

……

 くそ!あとちょっとでボタンが弾け飛ぶぞ!やめろ!なんだその乳を揺らす行為は!服がかわいそうだろ!と心の中で少女に説教をする。


 しかし、ミシェアは俺の心の中の説教を聞かず、おちょくる声色でオッサンたちに説明を続けた。

「古マリチャ語が分からないテーノーちゃんにわかりやすく教えてあげると『欲望』って意味♡その名の通り暴食の欲に取りつかれた戦闘マシーン!」


 ミシェアは再びその背丈にしては大きな胸をはり、会議に参加していた男どもは険しい顔をしていた。

 まあ、おっさんは険しい顔をするよなあ……

 やはり、こんな真面目な会議で軽い口調は良くない。

 たしかに研究部は軍部ほど上下関係に厳しく言われていないし、俺も彼女も天才扱いされてマナーとか色々黙認されているが……


俺も年下の部下に軽い口調で話されたら、こんな顔をする。

 やっぱり黙っていないで本当にメスガキわからせ案件をしたほうが……


「おっと、失礼♡古マリチャ語も知らない無学な人なんてこの場所にはいませんよねぇ♡」


 こいつ地雷原でダンスってやがる……

 やめろ!俺がわからせる前に地雷原に飛び込むな!死にたいのか!

 ってか俺もその言語は日常使いで使う言葉ぐらいしか知らんぞ!

 ってか、やめろ!マジでやめろ!このおっさんたちの機嫌を損ねたら簡単に死人が出るんだぞ!このメスガキぃ!


 子供だからって許してくれない大人だっているんだぞ!メスガキぃ!と再び心の中で説教した。

 彼女は映像を切り替え、変身前の実験体の姿を移し替える。


「これは実験体の変身前、名前はハンニバル・ルイス君。身長は130cm体重は33キロと可愛い顔した貧弱マッチ棒♡


しかし我らがドクターが電気やら薬品やらでバババっとやるとぉ!」


カシャっとウキウキ声で彼女は映像を切り替える。


「じゃじゃーん!身長3~10メートル体重300キロ~1000キロのムキムキマッチョマンに!映像をご覧になった通り、


戦車を引き裂くスーパーな男になりまーす!その能力は巨体化、硬質化、超人的筋力。肉体操作!そして一番の強みは食べれば食べるほど強くなる能力ぅ!

敵兵を食えば食うほどに強く硬く!強靭になりまーす!ちなみに下の方もカチコチになって大きくなるのかは秘密です♡」


 本当にこいつは……どこでそんな言葉を……

「ちなみに大きさは興奮状態によって変化するから『~』っていったのは間違いじゃないよぉ♡。もしかしたらもっと大きくなるかも♡もちろん♡♡♡アソコも……」


「ミシェア!」

 下ネタを呟こうとした助手をあわてて止める。

 「あーん、早漏なドクター♡早いのじゃ嫌われちゃうぞ♡」

こいつ……

 ってか、あのおっさんめちゃくちゃけわしい顔をしている!早漏を馬鹿にするな!本人は辛いんだぞ!


 ってかあっちのおっさんはニタニタしてるんだぞ!

 他にもなんかいかれた爆弾発言しそうなテンションで喋るな!!

 いかれてるのは乳だけにしろ!このメスガキぃ!

 と心の中で焦り、俺も発言をする。 

「続きは自分が説明します。


 今回の実験目標は量産。平均以下の身体能力、体力検査ではじかれるような貧弱な国民であったとしても徴兵できないかと考えたのがきっかけです。


 個体の身体スペックは資料の5ページをご覧ください。これらの身体能力を持つ兵士がわずか一般的な国民の平均月収ほどの金額で製造可能。


 今までの実験体は偶発的な処置によって生産されたのに対し、今回は同じような個体を量産できると確信を得ています。


 自由に超人化を解除することが可能ですし、適合問題は実験を進めれば諸問題は解決できるかと……」


 リリリリン


 部屋に電話のベルが鳴る。会議室で一番偉い人が手に取り、すぐに受話器を降ろした。


「ヴィクター博士、大変申し訳ないのだが実験は打ち切りだ。ちょうど今、報告があったのだが、新型兵器が完成した。


これで超人を製造しなくても、兵士を自由に敵国に侵攻できる。2人とも1週間後までには荷物をまとめてくれ。近々正式な文章を送る。

 それまでは研究部の所属扱いだが、こういうことは早い方がいいだろう。今までの貢献、ごくろうであった」


 「えっ……そんな……わかりました……」

 そしたら俺は……

 自由だあああああ!!

 もう人体実験もしなくていい!

 こんなグロ画像や動画も見なくていい!

 

 そしてなにより金がある!それも軍からたっぷり貰ってしばらくはゆっくりできるだけの金だ!

 これで疎開して戦争終わるまで安全に暮らせるぞおおおおおおお!!

 こんな危険な軍部からは足を洗ってやる!洗ってやるぞおおおおお!

 と心の中で叫ぶ。







「ええええええええ!みーたん(ミシェア)クビいいいいいい??」

 とミシェアは叫ぶ。


「なんじゃとおおおおお!!そんなのつまらーん!」

と悪魔のようなジジイが叫ぶ。

 こいつら……




 俺は会議を終え、記録映像を撮影し始める。

 何十年後か俺はもしかしたら戦争犯罪者として悪党として言われるかもしれない。

 そんなのは勘弁だ。

 俺は普通で小心者で俺はマトモだ。だからその証拠として俺の本音をこれに記録している。

 それに、こうやってリアルで叫ばないとキャパオーバーになってしまう。

 心で叫ぶのにも限界はあるのだ。


「よし、映った。見えてる?聞こえてる?俺の名前はヴィクター・A・シャイニング。みんなからは『ドクター』と呼ばれている天才科学者だ。


ただ天才科学者と言っても頭が良いというわけではない。なんでこんな事が出来ちゃうのかわからないけど人体実験したら、みんなスーパーパワーを手に入れちゃうんだ。

チートスキルって最高だね。


この動画は一生隠すつもりだが、いつか誰かが見つけてくれることを祈る。


俺と実験体、超人的特殊能力者部隊エンドメーカーズとは無関係だという事を……

 そう、無関係なんだよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

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