第二 8年の歳月
8年の歳月
奈緒との関係は、9年目を迎えている。これからどの位続くのか分からないが、僕の命ある限り続いて欲しいと願っている。
月に1度のデート、それが多いのか、少ないのかわからない。調べたところ、根拠は怪しいものだが、この回数では少ない方に分類されるらしい。レスに陥いるギリギリの状態だと。しかし、奈緒の環境は、月1回、デートの機会を作るのが精一杯であった。実の両親、夫、子供達と同居し、家事をこなし、パート勤めをする奈緒にとって。友達との食事会、それが定番の家族向けの外出理由となっているようだ。
コロナ禍
新型コロナウイルスの蔓延は、世界を変え、日本を変え、社会を変え、人々の暮らしを変え、そして、奈緒との関係を変えた。全く会えない。奈緒に会う機会は、完全に失われた。友人との食事会、それは行われない。外出が制限され、出社も制限されている中、ふたりが会う口実は失われてしまった。
でも、会いたい。どんなに想いを募らせても、そのための方法がない。この思いを、メールで奈緒に伝える。同じ思いが返信される。
段々と、規制も緩和され、口実のアイディアは浮かぶものの、やはり難しい。会いたい思い会えない苦しさを、奈緒に伝える表現のバリエーションも尽き、マンネリ化した陳腐な言葉でしかそれを表現できなくなっていく。
段々と、焦りが生まれた。奈緒からのメールからは、僕に会いたい気持ちや会えない苦しさ、会うための方法を考えあぐねている気配が、まったく感じられない。こんなにも苦しく思っているのは、僕だけ。奈緒にとっては、大したことではないんだ。
この焦りを、奈緒にぶつけてしまった。しかも、直接、正直にぶつければ良いものを、ふてくされて嫌味を言い、相手が嫌がる表現をあえて使ったりした。段々と、ふたりの距離は広がっていく。
半年前にデートしたとき、奈緒は、自分も会うための方法を考えあぐねていたのだと、教えてくれた。でも、どんなに思い返しても、当時、その気配は僕にはまったく感じられなかった。ただやはり、現実的に会うことは不可能だったと、正直に思う。
半年前 2022.5
コロナが落ち着き、そのデートも、唐突に実現した。 ギクシャクした疎遠な感じを引きずったまま、その日を迎えた。そうはいっても、待ち望んだデートである。嬉しくて、幸せで、ワクワクしていた。
ふたりはひとつになれた。 しかし、この日のデートは普通で、物足りなく感じた。不満はないのだけれど、こんなにも久しぶりだったのに。
奈緒はイケなかった。 長いふたりの関係の中で、このような日もあった。 しかし、久しぶりのデートの機会が、こんな結果なのは、残念ではある。僕は、ふたりの関係の再出発としては、まずまずでこれからだと思っていた。
甘かった。1ヶ月ほどはメールのやり取りも頻繁だったが、それも徐々になくなった。奈緒は、僕に、再び会おうとはしなかったのだ。
後になって、奈緒は、距離を置いたのは自分であること、でも失いたくはなかったので僕を切り捨てはしなかったことを告白した。理由は、わからないという。
僕は、その告白を聞いて思った。奈緒は、半年前、僕を審判したのだと。自分にとって、必要な人間か否かを。結果は否。もう僕は、奈緒にとって不必要な存在となったのだ。でも、なぜか、捨てられずに済んだのである。
疑問が浮かぶ。これまで、なんとなく繋がっているだけの線のような関係のまま長く放置されていたのに、突然このとき、審判されたのか。僕は、切り捨てられる寸前だったのだろうか。何かの代わりに。奈緒が必要とした新しい何かとの、入れ替えに。
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