第12話
ふたりが画像を見て笑っている様子が目に浮かんでくるようだ。
明日は会社へ行こう。
きっとみんな笑って迎えてくれるだろうから。
千明はピザを口に入れてまたほんの少しだけ泣いて、そして笑顔になったのだった。
☆☆☆
「よぉ! 昨日は失恋記念日だったんだな!」
お風呂に入ってサッパリしたタイミングで梨江と晋也がアパートに押しかけてきた。
ふたりは両手に買い物袋を持っていて、勝手に上がり込んで中のものを広げている。
おつまみにお酒にちょっとしたお弁当。
小さなテーブルの上はあっという間に占領されてしまった。
「千明、告白頑張ったんだね」
梨江がそう言って千明の頭を痛いほど撫でる。
「ちょっとやめてよ。髪、まだ乾いてないんだから」
文句を言ってもおかまいなしで体を近づけてくる。
背中や腕までさすられてくすぐったさに大笑いした。
明日まで待ってみんなと笑い合おうと思っていたけれど、そんな余裕すらなかったみたいだ。
「さぁ飲め飲め! 飲んで忘れろ!」
蓋を開けたピーチハイを強引に進めてくる晋也に苦笑いを浮かべ、それを手にとつる。
一口飲んでみると甘くてとても飲みやすい。
お腹のあたりにジワリと温かいものが広がっていって、心地よかった。
「明日は仕事でしょう?」
「そんなのどうにでもなるって! 珍しく午前中は体験入ってないんだし」
梨江がグイグイお酒を飲みすすめる。
「そうだっけ」
自分のことばかりで仕事のスケジュールはすっかり忘れてしまっていた。
午前中に体験が入っていないからこそ、ふたりはこうして来てくれたみたいだ。
「それなら、遠慮なく」
千明はすでにひとくち飲んだチューハイの缶を片手にあげて乾杯をしたのだった。
☆☆☆
夜の間に散々賑やかしていたふたりは夜中になる前に帰っていた。
さすがに泊まるつもりはなかったようで、ふたりとも電車で来ていたのだ。
梨江は酔っ払いながらもしっかり部屋の片付けをして、ベロベロになってしまった晋也を支えるようにして帰っていった。
ふたりがいなくなった室内はとても静かで少しだけ寂しい。
まるで、祭りの後の静けさみたいだ。
だけどこの静けさは心地よくもあった。
千明は歯も磨かずにベッドに横になると、不快眠りに包まれていったのだった。
☆☆☆
結構な量のお酒を飲んだはずだけれど、翌日スッキリ起きることができたのはやっぱり心の問題だろうか。
6時半に目が覚めてしっかり朝食を食べていたとき、晋也からのメッセージが届いた。
《ごめん、俺昨日の記憶ないわ》
そのメッセージに思わず笑い声を漏らす。
晋也も千明と同じくらいの量しか飲んでいなかったはずだけれど、以外とお酒には弱いのかもしれない。
二日酔いが残っていて頭が痛いという晋也は、それでも今日出勤してくるつもりのようだ。
《それなら、梨江にお礼を言わなきゃダメだよ?》
《梨江に? なんで?》
記憶がないというのは本当みたいだ。
千明は梨江が晋也を支えながら帰ってくれたことを伝えておいた。
それに関して晋也はひどく後悔していたけれど、やってしまったことは変えられない。
今日梨江に誠心誠意謝るしかないだろう。
準備を終えてさぁ部屋を出ようとしたそのとき、玄関チャイムの音がして千明は玄関前で立ち止まった。
こんな時間に誰だろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます