第27話 夢の続き

「……ありがとう」

「もう、いいのですか? (あれ? 告白は?)」

「あぁ。……桜木」

「はい! (ついに⁉)」

「桜木が居てくれて、本当に良かったよ(じゃなきゃ、絶対こんな作戦できねぇわ)」

「部長……私も、部長が部長で居てくれて……(部長がこんなこと言ってくれるなんて……嬉しいです。でも、これって告白とは違うんじゃ?)」

「じゃ、行こうか?」

「はい! (え? 何? 私をどこへ連れて行く気なの⁉ 私は、部長とならどこへでも……)」

「お台場へ」

「……お台場?」

「あぁ、みんなのとこにさ」

「はい……(あ~、やっぱりそうなりますよねぇ……)」







 またまた、お台場。


「あ、部長! 華ちゃ~ん! こっちですよ~!」


 武士と華の姿を見たみこは、元気に手を振る。


「お~武士、お前の作戦バッチリだったじゃん! でもまさか、希美ちゃんがこんなことになってるなんてさ……」


 脇に寂しそうに座る希美を見ながら、ヤスは言った。


「お前、星井のこと好きなんじゃないの? 側に行ってやれば?」


(そうよ、モブ男君! なんなら、桜木グループ総出で、あなたの恋を成就させてあげますよ!)


「いや、俺はただの一ファンだからさ。ガチ恋勢じゃないし、俺じゃ役に立たないって。むしろ武士、お前が行ってやれよ」


(何を言い出すのこの男は! あんな子放っておけばいいじゃない! 人の気も知らないで、適当なこと言うんじゃないわよ!)

(あ~、華様荒れてきたな~。近づかないようにしとこ)


 華の表情からその心情を悟った楓は、そのまま奥に身を隠す。


「俺? ってか、俺が行っても……」


(そうよ、きちんと断るのよ部長! って、そう言いながらなんであの女のほうに向かってるの⁉)


「星井」

「……武士君。ありがとう、本当にありがとう」

「いや、俺じゃない。ここにいるみんなのおかげだよ。相沢さん、ごーるどあっぷるのみなさんもありがとうございました」


 武士は希美の奥から様子を見る、ごーるどあっぷるのメンバーたちにお礼を言う。


「そんな改めて言わんでもええんよ。ウチら特に何もしとらんし、なぁ?」


 かのんが言うと、他のメンバーもこっくりと頷く。


「でも、私のせいでみんなを巻き込んじゃった。事務所も……本当にごめんなさい」

「ええんよ。ウチらも、あの事務所に嫌気がさしてたもん、ちょうどよかったわ」

「でも……でも……」


 そのまま希美は大粒の涙を流す。




「一部始終見させてもらいましたよ」

「大川さん……」


 そこへ大川社長が声を掛けてくる。武士はそれに応答すると、次の言葉を待つ。


「うちは役者専門の事務所です。仕事もそういったものしかありません。その上で、もし役者に興味があるのでしたら。みなさん、うちで再出発してみませんか?」


「ホンマですか⁉ まぁ、ウチは願ったり叶ったりやけど……みんなは?」


 かのんの問いかけに、ごーるどあっぷるのメンバーはそれぞれ答える。

 あいりは大川プロ移籍を希望したが、他のメンバーは引退を決める。

 メジャーデビューと言うのも、自分たちの実力ではない。使い勝手のいい自分たちからより多く詐取するため、金谷と丸山が描いた絵空事だというのは彼女たちは分かっていた。

 決して悲観などではなく、この世界の闇を知った彼女たちは向上心を持って他の道を選んだのだ。


「そっか……でも、いつまでもウチらは仲間やで。またみんなで集まろうな。そんで、希美ちゃんはどうするん?」

「わ、私は……」


 希美は役者業が好きだ。でも、身よりのない彼女は自身の本音をさらけ出すのを躊躇ちゅうちょする。


「大川さん。一つ、俺の頼み事を聞いてもらえませんか?」

「あぁ君は、九里さんだったね。この私に出来ることなら」

「彼女の、星井希美の後見人になってはもらえませんか?」

「星井さんの?」


 武士は希美の心情を察する。そして、大川社長は安心して希美を任せることが出来ると判断して頼み込んだ。


「星井さん」

「……はい」


 大川は希美に優しく語り掛ける。


「これから言うことは、年寄りの小言だと思って聞き流してくれて結構です」

「いえ、そんな……」

「「若いうちの苦労は買ってでもしろ」ってね、私が役者やってた頃はよく言われましたよ」


 大川は昔を懐かしむように、空を見上げながら言う。


「私の若い頃はテレビの役者なんて、夢のまた夢でね。ずっと舞台で頑張ってました。そりゃ、苦労は多かったですけどね、心から楽しんでやってましたよ。だけど、残念ながらその頃の映像は残っていない。写真で数枚ある程度です」


 そして今度大川は、希美の目を見つめて言う。


「星井さん、あなたの目を見ていると、その頃の私を思い出します。どうか、私に夢の続きを見せてくれませんか? 役者として、ドラマや映画で演じる姿を私に見せてくれませんか? あなたはそのステージに立つ資格がある。もう十分に苦しい思いをしたはずだ」


 その言葉を黙って聞く希美の目には涙が溢れる。


「これからは好きなだけ夢を追ってください。私と一緒に、いいえ、私たちと一緒に夢を追いかけましょう。こんな老いぼれが、夢を見る若い人の役に立てるなら、喜んであなたの後見人を務めさせて頂きますよ」

「わ、私……まだまだ何も知らないし……未熟だし……きっと迷惑を……」


「希美ちゃん、そんなの言ったら私もだよ」

「ウチもそうや。みんなで助け合って、一緒に頑張らん?」


 あいりとかのんも、希美を後押しする。


「希美ちゃん、俺、ずっとファンやってるんだよ。それは女優になっても変わらない」

「そうですよ。希美ちゃんはこんなに美人なんだもん。ね、華ちゃん」

「そ、そうですね……(私に話しを振らないで貰えますか……)」


(星井さん、みんなこの為に頑張ったのですよ。華様に気付かれると面倒なので、わたしは声を掛けられませんが)


 ヤスやみこ、華も希美に声を掛ける。その後方から、楓も希美に向かって、ぐっと右拳を上げる。


「星井、女優になったらサインくれよな」

「武士君……。みんな、ありがとう……。大川さん、私一生懸命頑張ります。どうか、よろしくお願いします」


 子供のように泣きじゃくりながら言う希美の頭を優しく抱きしめ、大川は笑顔で何度も頷いた。

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