第26話 大スクープ

「おい、お前ら! ナメてんのか⁉ いい加減にしろよ!」

「君たち! 自分たちが何をやってるか分かってるのか⁉ こんな勝手なマネ許されると思うなよ!」


 ステージ上には怒り狂った丸山と金谷がやってくる。


「おい、誰あれ?」「なんか異様な雰囲気になってないか?」「どうなっちゃうの⁉」「……大丈夫なのか?」


 会場もファンたちの不安な声が響く。


「なんか雲行き怪しくありません? カメラ止めます?」

「待て……少し様子を見よう」


 テレビクルーたちも困惑する。


「もう撤収だ! メジャーなんてどうでもいい! 早くこっちに来い!」


 ステージ上の丸山は、そう言ってあいりの手を掴む。


『もちろんですよ。スマイルプロさんほど、うちにバックを入れてくれるところはありませんからね。星井希美の件でも、三割をうちに入れてくれるそうで』

『あれはもう、丸山君の功績だからね。希美もなかなかしぶとい子だったよ。レッスンに参加させなければパフォーマンスが落ちるかと思ったのに――』


 突然、スピーカーから声が流れる。


『――そしてめでたく違約金を貰って契約解除と。いやあ、社長の悪どさには頭が下がりますよ』

『――そういう君だって、一歩間違えれば人が死ぬところじゃなかったか』


「おい、誰だ! やめろ! すぐ止めろ!」

「丸山君、これって……どうしてくれるんだよ!」


「おい、この声ってスマイルプロの社長?」「丸山ってアイドル雑誌のYM出版社長の?」「希美の違約金って、星井希美か?」「人が死ぬって何⁉」


「宮田D、上からカメラ止めろって指示が。さすがに止めますよ?」

「止めるな! 全責任は俺が持つ」

「で、でも……」

「いいか木村、お前も報道カメラマン目指してるなら覚えておけ! 俺たちはテレビ屋なんだよ。テレビってのは本来、そのとき起きている真実を、そのまま視聴者にさ……こういうのを伝えなきゃいけないんだよ!」

「……了解。でもDだけじゃないですよ。俺も一緒に、連帯責任で!」

「……っふ。会場の客たちの様子も、引きでいいから収めろよ。今ここで起きているリアルを撮るんだ!」


 スピーカーからの声を聞き、取り乱す金谷と丸山。疑念の渦に飲み込まれる客席。懸命にカメラを回すテレビクルー。






(はぁ、華様は部長が絡むと本当に人使いが荒くなるんだから……)


 PAブースでは、楓が音響機材を慣れた手つきで操作する。


(とりあえず、あとは部長たちから映像が届けば終わり……ゆっくり温泉に浸かりたいわぁ……)






 秋葉原。スマイルプロダクション。


「捜査の協力ありがとうございました!」

「それにしても、令状から家宅捜索まで、えらい迅速でしたね」


 お礼を言う刑事に対して、武士は懐疑的な口調で言う。


「いや、まぁ……桜木さんには毎年、警察車両のご提供を頂いており……」

「まぁそんなことだろうと……(お上さえも頭が上がらないなんて、桜木コンツェルン恐るべし……やっぱ桜木に来てもらって正解だったな)」

「じゃあ最後、このカメラに向かって逮捕状を」

「いや、さすがにそこまでは……」

「あら? 部長のお願いが聞けないのですか? なるほど分かりました」

「いえ、決してそんなことは」


 刑事は唇を真一文字に噛みしめながら小さく続ける。


「……分かりました」


 公権力さえも屈服する態度を見て、武士は華を見ながら身震いをした。桜木家の怖さを改めて知ったのだろう。


「じゃ、じゃあ桜木。嶋に映像送ってもらえる?」

「はい、もちろんです」


 華は武士と二人きりという状況に加え、自分が頼られているということに満足し、大変機嫌が良かった。






(――やっと来た。これをビジョンに……)


 楓は、華から来たビデオ通話を会場のスクリーンに繋げる。


『えぇと、万世署の秋山です。スマイルプロダクンション代表取締役、金谷充。並びにYM出版代表取締役、丸山洋祐。以上、二名には業務上横領、有印私文書偽造、傷害教唆の嫌疑がかかっております(始末書で済むかな、これ……)』


「な、なんだこれは⁉」

「丸山君、説明しなさいよ!」


 それを見た丸山と金谷は慌てふためく。


『それでこれが逮捕状。そちらに捜査官が向かってますから、もうしばらくお待ちくださいね(言葉使い合ってるのかな……)』


 ステージ上の二人はその言葉を聞くと、愕然とその場に腰を落とす。


「これ、マジのやつ?」「俺、今上げたばかりなのに、ℤの反応ヤバすぎるぞ!」「他の会場からも人がどんどん集まって来てるじゃん」「鳥肌立ったわ」


 客席は今まで以上に騒然とする。


「木村、しっかり撮れてるか?」

「はい! バッチリです!」

「こいつはスクープなんてもんじゃ収まらねぇぜ」


 テレビクルーたちは目を輝かせる。






『速報です! ただいま入った情報によりますと、急成長中の出版社、YM出版社長の――』


 そのニュースは他局でも速報として流れる。


「あれ? ビジョンが急にニュースになったぞ」


 街中の大型ビジョンも、次々とこの映像に切り替わる。


 ネットニュースもトップ記事となり、SNSはこの話題一色となった。


 それは近年で一際大きな大ニュースとなった。







「秋山刑事、よく出来ましたね。安心なさい、あなたの身柄は我が桜木家で保証します」


 不安を全面に押し出した秋山に、華は声を掛ける。


「よろしくお願いします……(これじゃ、まるで俺が犯人じゃないか……)」

「あ、桜木。最後に俺、カメラに一言いいかな?」

「もちろんですよ、部長(え? 何かしら? まさか私に公開告白⁉)」


 華はいらぬ心配をし始める。






『丸山洋祐さん。あなたは以前、教材の出版社に居ましたよね?』


「あ? だからなんだよ……」


『美帆って言う女子大生、覚えてませんか?』


「知らねぇよ!」


『……そうですか、ありがとうございました(そんなもんだよな。とりあえず、仇は取ったぞ姉ちゃん)』

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