第18話 全員集合
(なんだよこれ、俺でも知ってる。見てたよこのドラマ)
希美は子役時代売れに売れていた。それは芸能に無頓着な武士でさえ、知っているレベルだった。
(これだけ売れてたら、貯金がすごいことになってるんだろうな。まぁ早慶院に入ったってのも納得だ。星井め、なんで端役なんて嘘を……う~ん、意外と言いたくないのかもな。自慢になるっていうか……)
希美の性格らしいと武士は納得する。
(そうだ、星井は今日もライブだったはず。ちょっと調べるか)
ライブ会場と場所も近いことから、武士は足を運ぼうと今日の公演を調べる。
(ん? 星井希美は休演? なんで?)
とはいっても、仕事で忙しいだろうと本人に直接連絡するのを避け、ℤでハッシュタグ検索する。
(……はぁ⁉)
そこには信じられないポストが多々あった。
昨日公園でストーカーから彼女を守ったときの、彼女が武士に抱きついている写真。そしてそれを引用リポストした罵詈雑言の数々。
いわゆるスキャンダルというやつだった。
(なんだよこれ……いつの間にこんなの……)
大元のポストは出版社のものだった。
(YM出版?)
その会社を検索すると、出てきた社長の名前に武士は驚く。
(丸山祐介……今さっき相沢かのんが言ってたやつじゃないか。こいつが星井のストーカー被害をでっち上げ……いや、実際にストーカーに襲われたぞ)
さらにYM出版について調べる。
(この会社、アイドル雑誌も手掛けているのか。特集で相沢かのんの所属グループ「ごーるどあっぷる」を載せている。そういえば昨日のライブのトリもこのグループだったな。他のアイドルについて評価がマチマチなのに対して、ここだけやたらと持ち上げているのも妙だ)
確かにかのんが言っていたように、丸山はやり手らしく、その発行部数はアイドル専門誌としては群を抜いていた。さらには会社自体の株価も右肩上がりだった。
(株価爆上がりの割に、それに見合った功績がない。たいていこんな風に急上昇する企業ってのは、どこかで何かしらあるものだが)
すると、YM出版の新着記事がポストされた。
(星井希美、契約違反により所属事務所を解雇⁉ だって、事務所の社長って星井の後見人だろ? なのに……なんだよ、契約違反って。アイドルによくあるあれか? 異性との交際? じゃあ、俺のせいで? って、俺たちはそんな関係じゃない。あの写真だけだ)
そして今度は希美の所属事務所「スマイルプロ」を調べる。
(近年は毎年赤字決算。負債総額も相当いってるみたいだな)
武士はその脳をフル稼働させる。
(社長は星井の後見人。丸山は急成長のYM出版の社長を務める
武士は険しい顔のまま、希美にラインを送ってカフェを出ると、ライブ会場に向けて歩き出す。
「希美ちゃん? 今日は公演キャンセルになったし、ここにも来てないですよ」
会場のスタッフに確認すると、武士はラインを開く。
希美に送った内容はあいさつ程度のものだったが、既読すらついていない。
希美の家に行ってみようとも考えたが、武士は希美の自宅を知らない。
ダンススタジオや、公園など思い当たるところを回ったが、希美の足取りは依然分からず仕舞いだった。
(……仕方ない。最終手段だ)
「みんな、休日なのにすまない」
駅前で華と楓に向かって武士が言う。
「わ、私もとても忙しかったのですが、部長がどうしてもと言うので、仕方なく……」
「よく言いますね。大声出して喜んでたくせに」
小声でボソっと言う楓を、華は鬼のような目で睨みつける。
「ごめんなさ~い。あ、間に合いましたね?」
「ああ、神宮も急に呼び出してすまなかった」
(っち、余計なのも呼んだのですね……)
「ヤスの依頼なんだけど、どうもことは想像以上に根が深いみたいで。俺一人じゃどうしようもなくてさ。どうかみんなに協力をお願いしたいんだ」
「星井希美の件ですか?」
「ストーカーですね!」
華とみこが武士に言う。
「まぁ、ストーカーは昨日捕まったんだけどさ」
「えぇ⁉ 本当だったんですね。じゃあ解決したんじゃないですか?」
「いや、むしろより深刻に……」
武士は今までのことのあらましをみんなに説明した。
「――なるほど、最初から私を頼って頂ければ、いつでも協力しますのに。副部長として」
「華様、見え透いた一言付け加えますね」
「恋愛だけじゃなくて、アイドルにも詳しいですよあたし」
「とりあえず二手に分かれたい。星井の自宅に訪問する組と、スマイルプロに行く組で」
「つまり、わたしに星井さんの自宅を調べろということですね」
「すまん、嶋が頼りなんだ。ついでにもう一つ頼まれてくれないか?」
楓にお願いをする武士を見て、華はやや苛立った顔をする。
「――なるほど。では、スマイルプロのPCにハッキングを掛けて見ましょう。データを吸い取れたら、その部分を部長に転送します」
「助かる!」
「では電車内でちゃちゃっとやっちゃうので、わたしは星井さん宅に訪問組で」
この短い会話の間に、もう希美の自宅を割り出した楓は、希美の自宅訪問組を希望する。
「部長はどちらへ?」
華は武士に聞く。
「俺はスマイルプロに」
「はいは~い。あたしも行きますよぉ。前からアイドル事務所に行ってみたかったんだぁ」
みこは元気に名乗り出る。
(なんなの、このまるで空気が読めないアホ娘は! なんであなたが部長と同じところへ行きたがるのよ! これじゃ私がここに来た意味ないじゃない! どうにかしてよ……嶋!)
華はいつものように、充血した目で楓にアイコンタクトを送る。
「神宮さん、星井さんの自宅近くに有名なスイーツのお店があるのですが、寄っていきませんか?」
「え⁉ 本当⁉ そっかぁ、おやつの時間ですもんねぇ……部長、ごめんなさい! あたしやっぱり希美ちゃんの家に行きます!」
「ん? あ、あぁ……(なんで謝る……)」
(嶋、さすがよ! これで私と二人きりになった部長はいよいよ私の魅力に…え? それってデートじゃない⁉ ちょっと、デートって一体何を……私どうすれば……)
「よし、じゃあ一度ここで解散!」
こうしてみこ、楓組は電車で希美宅へ。武士、華組は徒歩でスマイルプロに向かうのだった。
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