第13話 収穫を求めて
「ほんっと、希美ちゃんって可愛いし歌上手いし、もうアイドルって感じですよね~」
希美のあと、最終組のグループが登場して全ステージが終わり、入口には物販ブースが設けられ、ライブ会場はそのままチェキ撮影会場となった。
「何を言っているのですか。曲がりなりにもアイドルを自称しているのですから当然でしょう」
(なんか、桜木……今日は一段と毒づいてるな)
「それよりも、これは一体なんなのですか?」
ステージ上に立つアイドルの前に並ぶ人だかりを見て華が言う。
「これはあれじゃないですか? ほら、チェキ会ってやつ」
「チェキ会?」
みこの言葉に、華は首を傾げる。
「ポラロイドの写真撮影会だよ。専用の券を買って、目当てのアイドルと一緒に写真を撮るファンサービスの一環」
「写真を撮るためだけに、あんな行列を作ってるのですか」
「あたしも希美ちゃんと撮ってもらおうかなぁ」
決して長いとは言えない列を作っている希美を見ながらみこが言った。
「神宮さん、相手は同級生なのにバカなこと言うものじゃありませんよ」
「えぇ。そうかなぁ? ここに華ちゃんが居たら、もっとすごい行列が出来てたと思いますよぉ。ねぇ、部長」
「そ、そうだな。ちょっとトイレ行ってくるわ(ってか、俺にふるなよ……)」
「お待たせ。結構トイレが混んでてさ……あれ、桜木たちは?」
武士が戻ると、そこには楓しかいなかった。
「あちらです……」
武士の質問に、楓は手で目を覆いながら答えた。
「はぇ?」
楓が指すステージを見ると、そこには一番長い行列が出来ている。その先には、チェキを構えるみこと、他のアイドル同様ステージ上に立ち、ファンと一緒にみこが構える写真に納まる華の姿があった。
「ちょ、ちょっとお前たち、何やってるの⁉」
武士は慌てて二人の元へ駆け寄る。
「あ、部長。ダメですよ、列に並んでください」
「そういうんじゃなくてさ。桜木、お前もこんなところで写真なんて――」
「あら、部長じゃありませんか(あらあら。私が他の男性と一緒に写真撮っているのがそんなに嫌なのですか? まったく、そんなに私を独占したいのですね。いいのですよ。それならちゃんと男らしく言いなさいな)」
「だぁ! 俺たちの目的はあっちだろ!」
そう言って武士は希美のほうを指す。
「せっかくのチェキ会なんだ。この場を利用して、直接彼女から情報収集するチャンス――(ん?)」
武士はそのとき、会場の隅からこちらをじっと見る男の視線を感じた。
(あれって、ライブのとき、桜木に抱きつこうとした……)
それは混雑を利用し、ライブ中に華に触れようとしたオタク男だった。
(あいつずっと桜木を見てるよな。まさかストーカーとかじゃ……)
「ちょっと君たち、すまないけど――」
会場スタッフが話しかけてくる。もちろんそれは、ライブに参加のアイドルでないのに、ステージ上で勝手にチェキ会を始めていたからだ。
「部長、ごめんなさい。華ちゃんならイケると思って……あたしが華ちゃんを……」
「神宮さん、あなたのせいじゃありませんよ。私が浅はかでした。部長にご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした(とはいっても、私のところに一番人が集まっていたのは確か。神宮さん、あなたは見る目あるわよ)」
「実はわたしも少し面白そうと思ってしまい……」
「嶋もか! まぁ、過ぎたことは仕方ないよ。とりあえず、顔は分かったし、あとは同じ学校なんだから、そのうち話を聞けるって」
退場させられてしまい、各々反省の弁を口にしながら夕暮れの道を駅まで歩いた。
「ではわたしたちはこれで」
「神宮さん、ではまた。部長、また(二人で)行きましょう」
「うん、お疲れ様」
「またねぇ」
通りを過ぎたところで、華と楓は迎えの車に乗って帰っていった。
「いやぁ、色々初めてで楽しかったですねぇ」
「まぁ……ってか、調査で来たんだからな」
「あ、そうでしたね」
「ったく」
改札を通り、エスカレーターを上っていると、武士はガラス越しに外を走る希美の姿を見る。
「(星井⁉ なんだ? 慌てているようだが。そうだ、何も収穫なしで帰る訳にもいかないだろう!)神宮悪い、先に帰っててくれ!」
「あ、部長⁉」
武士はすぐに階段を使って降り、改札を出ると希美が走っていった方向に全力で進む。
(こんなとこで姿を見たんだ。絶対にこのチャンスをものにしてやる。相手は走っていたけど俺は男だ、絶対に追いついてやる)
十分後。
(いや、無理だろ……どこか曲がったかもしれないし……範囲が街の中とか広すぎるだろ……)
武士は息を切らしながら立ち止まる。彼は運動は得意とは言えなかった。
(ってか、ここどこだ……)
無心に駆けてきた武士は、今自分がどこにいるのか分からなくなる。
(まぁスマホでマップを開けばなんとかなるか。えぇと、目の前の建物は……神田ダンススタジオ?)
「あなた、私を付けて来たでしょ?」
「はっ⁉ え、えと……」
不意な後ろからの呼びかけに振り向くと、そこには探していた顔、星井希美の姿があった。
そして武士は激しく動揺する。これじゃまるで自分がストーカーそのものに間違われても仕方なかったから。
「ふふ、冗談。今日、ステージを見に来てくれてた人だよね?」
「あ、うん。それなんだけど、ちょっと君に聞きたいことが」
「聞きたいこと?」
「あの……(よくよく考えたら初対面でいきなり、ストーカー被害にあってますかなんて聞けないぞ……)」
「ここじゃ言いにくいことかな? 立ち話もなんだし、よかったら入って。私これからここでレッスンなんだ」
希美はそう言ってダンススタジオに視線を送る。
「いや、いくらなんでもさすがにそれは……」
「あはは。結構常識人なんだね」
「そりゃそうだよ。俺完全に部外者だし」
「そうかな? 私の友達だったらいいんじゃない?」
「だから、今ここで会ったばかりでなんで友達に……」
「だって私、君のこと知ってるもん」
「え?」
「九里武士君でしょ?」
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