第10話 始動! カウンセリング部
「カウンセリング部?」
「ああ、そうだ」
翌日の放課後、応接室で武士はみこに答える。
「まぁ、無難ですね。縁結び部なんて通るはずありませんから」
華はやや冷めた言い方で言う。
「えぇ⁉ だって、うちの神社は縁結びの神様を祀っているんですよ?」
「それはそれ。こっちは部活としての話だ。といっても、恋の悩みの相談でも来れば同じことだろう」
「おぉ! さすが部長! なるほど、物は言いようですね」
「でもまぁ、こんな訳の分からないところに恋愛相談に来るような奇特な人間は、この学園にはいないでしょう」
「華ちゃん、副部長なのにすごい言い草しますね……」
「それで、一番大事な部分なんだけど。申請は現状、仮受諾となっている」
「仮受諾? なんですかそれ?」
「部活動として、部員数が足りないんだよ。最低でも五人必要だそうだ」
「私と部長、そして神宮さん。あと二人足りませんね」
「四月中に部員を揃えられなければ、この部のは認められないってさ。ついでに顧問もうちらで見つけろって」
武士は両手を広げ、苦笑いを浮かべる。正直、部員以上に顧問というのが高いハードルだった。
「顧問なんて……誰かいるかしら?」
「華ちゃんお願い~。ファンの男子生徒たちを片っ端から部に誘って~」
(ファンだと⁉ おいおいおい、委員長選で恋愛禁止とか言い出しておいて、まさかそんな色仕掛けみたいなことしないよな……)
武士は内心焦った。この場所は昼食をとったり勉強するのにも快適な空間ではあったが、彼の中では華と気兼ねなく話せる唯一のオアシスだったのだ。それを華のファンの男子生徒に来られてしまっては、その全部が無くなってしまうから。
「絶対嫌です。そんな見境もなく人を入れたら、部なんて到底成り立ちません」
(冗談じゃないわ。私にそんな盛りのついた獣たちと一緒の檻に入れと言うの⁉)
その言葉を聞いて、武士はほっと胸を撫でおろす。
「う~ん、そしたらどうしましょう……」
「どうしてもいないようでしたら、うちのクラスの嶋なら入れても構いませんよ」
「おいおい、入れても構わないなんて。そんな保護者みたいな言い方は」
「あ、楓ちゃんですか? さすが華ちゃん。でもそしたら、あと一人ですね。部長、誰か心当たりはいませんか?」
「そうは言ってもな。俺は高等科から入った訳だから知り合いなんて――」
「あのぉ……」
突然誰かが応接室に入ってきた。
「ヤス⁉」
そこにはやや曇った顔をしたヤスがいた。
「どちら様ですか?」
ヤスを見た華は不審者を見るような目で聞く。
(え? 俺桜木と同じクラスだし、席も二つ後ろで……委員長選でも一緒に前に居たよね⁉ なんなら中等科のときに告ったし‼ ……覚えられてないのか⁉)
「小山恭央。俺の友達だよ」
ヤスの絶望した表情を察し、武士はすぐにフォローを入れる。
「ということは、入部希望ですか⁉」
「そうだ、ヤス。部活決まってないだろ? よかったら――」
ヤスを入部希望者だと思っているみこに便乗し、武士は勧誘の言葉を掛けようとする。
「武士、悪い。部活は俺……スキー部に。いやぁ、先輩に教えてもらってさ。夏はスキー部。冬になったら水泳部にって繰り返せば、実質部活なしなんだよ」
「え? マジでそんな抜け道が⁉」
「いやあ、もう申請書出しちゃいましたもんね。部長」
武士は横目でみこを睨むも、彼女はそれをおどけた様子で交わす。
(知ってたなこいつ……騙されたようで腹も立つけど、まぁ実際この部屋使い勝手はいいから……)
「ってか、部活の時間を惜しむくらい何かある訳? (さすがにバイトとかはないよな。金持ちめ……)」
「よくぞ聞いてくれた! 実はさ、俺今推してる子がいるんだよ」
「押すってなんですか?」
「華ちゃん、きっとそれ間違ってますよ。押すじゃなくて推すです」
「ええいややこしい。つまりpushじゃなくてsupportのほうの推すだ」
「あ~、なるほど。つまりそこのオタクで引きこもりの彼は、アイドルだか何かに叶わぬ恋をしている訳ですね」
(桜木、素ですごいこと言うな。ヤス、大丈夫か……)
「は、はい……引きこもってはいないけど……ドルヲタは認めます……」
「ふむふむ。夢を見るのは構いませんが、あなたもいい年なのですから、現実を見ないと。ご両親が泣きますよ」
「あ、あぁ! ヤス、それはどんなアイドル? (危険すぎる。桜木にしゃべらせたらヤスのHPは無くなるぞ!)」
「あの……ここって、恋愛関係のカウンセリングしてくれるところで……あってます?」
華の容赦ない口撃に、心が折れそうになりながらヤスは確認する。
「もちろんです! 相手がアイドルだろうと、恋の悩みはこの神宮みこが解決して差し上げますよ!」
「いや、別にその子とくっつきたいとかそういうのじゃなくてさ。俺はただその子を応援できてればそれで満足だし」
「なんですかそれ? そんな負け犬根性だから――」
「ああ、そうだよな! ヤス、お前は健全なドルヲタだよ! で、相談ってのは? (桜木の発言を阻止しなければ……)」
「あ? あぁ。実はさ、俺が推してるのは地下アイドルの子なんだけど。最近その子に執拗に付きまとうストーカーがいるみたいでさ……」
ヤスは俯きながら訴える。
「ストーカー? そんなの警察に任せればいいでしょう?」
「それがさ、事件になってないって。まともに取り合ってくれないみたいでさ……事件になってからじゃ遅いんだよ……」
「なるほど。事情は分かりました。ところで大山君はなぜその情報を知っているのですか?」
「……俺、小山です。その子がSNSで被害を訴えてたからさ。俺もやっぱ、ファンとしてどうにかしてやりたいって」
「どうにかと言っても、ここは早慶院学園内の部活動でしかありません。外部の人の世話など――」
「なら、その子がこの学園の生徒だったら?」
ヤスの意外な発言に、その場の一同は動きを止めた。まさか、いわゆる地下アイドルなるものに、この名門校の生徒がいるなど想像出来なかったのだ。
「この学園のアイドル? でも私はストーカー被害など訴えていませ――」
「華ちゃん、ちょっと黙ってください! 小山君、それは誰ですか?」
アイドルと聞いて真っ先に自分を思い浮かべる華を、みこは強い口調で制止し、ヤスに聞く。
「これだ。三組の
ヤスは握手会で撮ったスマホの写真を皆に見せる。
「ほう。結構かわ……普通だな(あっぶねぇ)」
武士は可愛いと言いかけたが、横目に見える華の殺意に満ちた眼差しを感じて言葉を変えた。
「そうですね。部長の言う通り、極めて普通ですね(こんな子がアイドルなら、私なんて女神レベルじゃない)」
武士の言葉を聞いた華は、落ち着いた様子で言う。
「なるほど。そのストーカーの歪んだ愛情。カウンセリング部が見事解決してみせます!」
「まぁ対象がこの学園の生徒と言うなら、仕方ありませんね」
「よろしくお願いします!」
(あれ? 部長の俺を差し置いて決まっちゃう感じ?)
かくして、カウンセリング部に初の依頼が舞い込んだ。
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