第9話 部長決定
「ではまず、あたしが出す質問に四択で応えてこの紙に書いてくださいね。書いたら相手に見られないようにして紙を伏せてください」
みこは武士と華に紙切れを渡すと、目じりを下げながら言う。
「それではお題の発表です。好きな人と最初に行きたいデートスポットは次のうちどれですか? 『A.遊園地 B.レストラン C.映画館 D.公園』 さぁ、書いてください」
「これはなんのゲームなのです?」
「いいからいいから。書いたら伏せてくださいね。それとゲームを盛り上げるため、二人にはこれを指先に付けてもらいます」
みこは二人の手首に時計のようなものを巻いて、そこから伸びるキャップのようなものを人差し指にはめる。
「……ポリグラフ⁉」
それを見た武士は理解が追いつかず、驚いた様子で言う。
「随時心拍数、血圧、発汗量の変化を感知しますので、平常心を崩さないでくださいね。相手や自分の回答の結果が分かったとき、如何に冷静でいられるか見ものです」
「いいでしょう。淑女たるもの、いつ如何なるときも取り乱したりはしませんので(私を誰だと思っているのです。余興にもなりません)」
「別に俺も問題ない(金持ちのやることは分からん……)」
そして二人とも回答するべく、しばし考え込む。
(神宮さん、これは一体なんだと言うのかしら。レストランでもいいのですけど、これだと場慣れしていない庶民の方では息苦しいかもしれませんね)
(これ明らかに心理ゲームだよな。俺的には公園が一番節約できそうでいいんだけど、さすがに金持ちはそれだと満足しないよな)
自然と互いを意識している二人は、考えながら目を合わせる。
「ちょっとストップ! 二人とも気を付けてください! ポリグラフが反応しちゃったじゃないですか」
不意に目があってしまったことで、二人に取り付けたポリグラフは見事に反応し、激しくビープ音が鳴り響く。
「わ、悪い……(なんだよこれ、危険臭しかしないんだが……)」
「ちょ、ちょっと装置が敏感すぎるのではないですか? (早く落ち着きなさい、私)」
「そんなことありませんよ。あたしも着けてますし。それより、もう書けました?」
「ああ、書けた(なぜポリグラフが必要なんだ……)」
「私ももう大丈夫です(なんであなたまで着けてるのよ、この恋愛脳娘が!)」
「じゃあ早速いきましょう! お互いの回答を先に当てたほうが勝ちですよ。ではレディファーストで、華ちゃんからはじめ!」
(一発で当てればいいのよ。もうこんな拷問さっさと終わらせてやるわ)
華は武士の目をじっくり見つめる。
「もう、二人とも真面目にやってくださいよ!」
華に見つめられた武士も、武士を見つめた華も、互いに意識をしてしまい答える前からまたもポリグラフが大きく反応する。
「ちょ、ちょっと暑いかなこの部屋。ははは(マジ危ねぇ。あんな見つめられたら俺もたねぇぞ)」
「そ、そうですね。汗が出てしまいましたね(おかしいわ。なんで私がこんなにドキドキしなければならないの)」
華は少し息を落ち着かせてから言う。
「あなたの回答はDの公園です(分かってますよ。庶民の方は何事も節約に勤しむもの。ご安心なさい、私の寛大な心で受け止めて差し上げます)」
「さぁ九里君、正解? 不正解?」
「不正解。公園じゃない」
(なるほど、さすがにそこは少し見栄を出したようですね)
(あっぶねぇ……変えといてよかった……)
「ふむふむ。じゃあ公園の結果を見てみましょうか」
「結果?」
二人は口を揃えてみこに聞く。
「はい、だってこれは心理ゲームですもの。これで答えた内容で、パートナーに対するその人の独占欲が分かっちゃうんです!」
一瞬の沈黙の中、みこの言葉を聞いた二人の唾を飲み込む音が誇張される。
「ええと、公園の結果はですね。『独占欲はそれなり』ですね。自分の友達に恋人を紹介して、みんなで賑やかに過ごしたいようですね」
「な、なるほど……」
「ま、まぁそんなの当てになりませんけどね……」
「そうですか? これ結構当たるって評判なんですよ? じゃあ九里君、華ちゃんが選んだ答えはどれでしょう?」
「桜木の答えは……レストランだ」
「華ちゃん、どうですか⁉」
「不正解です」
「なかなか白熱してますねぇ。ではレストランの結果を見ましょうか」
(二択まで絞ったけど、あっちだったか)
(何を言っているのこの娘は。これのどこが白熱してると言うのですか⁉ あなただけですよ!)
「レストランは、独占欲ほぼゼロ。適度な距離で接したいようですね」
(桜木のタイプだとこの結果が妥当な気がするけど、意外にも束縛する結果だったりして)
(こっちにしておけばよかった‼ どうして私は変えてしまったのよ‼ え?)
そのとき、華は横目にみこのスマホ画面を見てしまった。視力も記憶力もずば抜けている華はその一瞬で、自分の回答の答えを知ってしまう。
「じゃあ、次は華ちゃんの――どうしたんですか、華ちゃん⁉」
無情にも、華のポリグラフはビープ音を鳴り響かせる。
「……ああもう、私の負けで……」
「え⁉ どうして⁉」
(一刻も早くポリグラフを外して、この拷問を終わりにしなければ)
華は自身の回答の結果が照らし合わされることから逃げた。それは桜木家の一人娘として、どうしても受け入れ難いものだった。
「桜木、大丈夫か?」
「ええどうにか……」
華はポリグラフを外すと、ほっとしたように笑顔に戻って武士に言う。
「私は副部長をやります。よろしくお願いしますね、九里部長」
「あ、うん……よろしく」
「あ、はい。華ちゃん、よろしくお願いします! (あ、あれ? あたしが副部長じゃなくて?)」
みこは額を掻きながら苦笑いをして考える。
「あ、そう言えば華ちゃんの答えは何だったんです?」
「私ですか? Eのお祭りです……」
「えぇ? お祭りなんて選択肢ないですよ?」
「ズルしちゃったんですよ。ですから、私の負けです(Aを選んだなんて言える訳ないじゃない! そもそも、本当に行きたいのはお祭りですから)」
(何かおかしいぞ? こんなゲームでわざわざズルをするか?)
武士はそう思っていると、みこのスマホ画面が目に入る。これも天才的頭脳の持ち主である武士は、一瞬のうちに自分の回答の結果を知る。
(遊園地の結果は独占欲の塊だと⁉ それじゃ俺がまるで束縛しまくりの痛い男みたいじゃないか!)
「部長? なんで動揺してるんですか?」
「あ、ごめんなさい……」
武士は鳴り響くポリグラフをそっと外した。
「そうだ、部長は回答どれだったんですか?」
「そうですね、部長たるもの隠し事はよくありませんものね」
武士の答えがとても気になる華は、みこに便乗して言う。
「俺は、映画館……」
嘘である。武士の答えも遊園地であったが、さっきチラ見した情報で安全な映画館を選んだ。ちなみに映画館の結果は「独占欲は弱い」であった。
「映画館と……えぇと部長の結果は……「独占欲は弱い」みたいですねぇ」
「あぁそうなんだ。……あ、あとさこの部活動名なんだけど、さすがに「縁結び部」は教師たちの印象が――」
「そうですか? あたしはバッチリだと思うんですけどね」
「神宮さん、そこは私も直した方がいいかと思いますよ」
なんだかんだ、楽しそうにする三人だった。
「縁結び……?」
一方応接室の外では、その様子を黙ってうかがうヤスがいた。
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