第29話 発見

 『三次元迷宮コズミックキューブ』を突破し、とうとう第四階層に入った私達。


 ダンジョン環境も自然洞窟のような様相を呈し、出現する魔物達もそれに合わせて変化している。

 それなりに苦戦するかと思ったのだが……


「フフフフフ!

見てくださいな兄様っ、わたくし達の『軍』は圧倒的ではありませんかっ!」

「テンション高いな、ソフィア。

楽しそうな君を見ていると私も楽しくなってしまうよ」

「はいっ!兄様のおかげでこんなに元気になったんですものっ、張り切っちゃいます!」


 大量の『不浄なる者アンデット』達を引き連れ、『地下迷宮ダンジョン』内をのし歩く私達はソフィアの言葉通りもはや『軍勢』と言えるレベルにまで膨れ上がっている。

 通路の前も後ろも『不浄なる者アンデット』達が埋め尽くし、魔物が湧けば湧いた端から抵抗する間もなく瀕死の状態までボコボコにされ、私達の前まで引き出された上で『生命』を啜られる。

 そしてめでたく亡者たちの仲間入り、だ。


 『生命』を持たない魔法生物等や、私達が好まない魔物等はその場で即圧殺され、その遺骸ドロップが通路内にばら撒かれる事になる。


「う~ん、『地下迷宮ダンジョン』内の魔物というのは不思議だね。

普通、倒した魔物はその亡骸なり残骸が残るモノだというのに、ここでは死亡すると遺骸ドロップだけ残して後は塵となってしまうのだから」

「えっ、そうだったのですか?

わたくし、てっきり倒した魔物達も『軍勢』に加わっていたものと思っておりました」

「確かに、『生命』を吸い上げて殺した魔物は『不浄なる者アンデット』として加わっているからね。

それ以外の亡骸にも雑霊が憑いて『不浄なる者アンデット』化しているものだと私も思っていたんだ」

「でも違った、と?」

「あぁ、違った。

例えば……お、ちょうど良い魔物が湧いたようだ」


 私が指さす方にソフィアが目を向けると、後方の集団の中に数匹の魔物が湧いた様子が見える。


 『グランドリザード』と呼ばれる体長6m程の大蜥蜴だ。

 それが5匹。

 通路に対して明らかに大きすぎる巨体には、『敵』を感知して襲いかかった『不浄なる者アンデット』達が群がっている。身をよじり暴れる大蜥蜴に複数の甦りし屍ゾンビ化した魔物達が吹き飛ばされるが、そんな事はお構いなしに亡者たちは大蜥蜴に喰らいつき、霊達も容赦なく群がっては生気を貪っていく。

 明らかに多勢に無勢。

 あっという間に抵抗する力を失わされた大蜥蜴たちは、程なく次々にその『生命』を散らす。

 巨大な身体がパンッ、と弾ける様に塵と化し、何かがぼとぼとと死者たちの群れの中に落ちた。

 全ての大蜥蜴が塵と化したのを見届け、私達は魔物達の戦いの跡地に足を向けた。


「本当に、塵になってしまいましたわね」

「『生命』を啜ると塵にならないのに、不思議だろう?

上の階層では魔物の個体が小さすぎて、塵と化しているのに気付けなかったんだよ。

……ほら、そこらに転がっているのがさっき言っていた遺骸ドロップだよ。

それを拾い集めて、冒険者達は地上で金に換えているのさ」

「これが……」


 目の前に散らばるのは『グランドリザードの皮』『グランドリザードの牙』『グランドリザードの骨』といった、大蜥蜴の部位だ。『地下迷宮ダンジョン』の魔物の素材は、加工して武器や防具にする事も出来るという。鉄などの金属素材とは違う、独特の特性を持つものもあるというけれど地方騎士団の騎士爵がそんな大層な装備を見る事なんて滅多になかったからあまり興味はない。

 それよりもソフィアに見せたいのは別のモノだ。


 大蜥蜴の部位に混じって散らばる6つの小さな結晶。


「あったあった、見てこらん、これが迷宮産の遺骸ドロップで一番回収を求められる、『魔力結晶石』__通称『魔石』と呼ばれるものだよ」

「これが『魔石』ですか?

まるで宝石のようですわね」

「魔力が固まって出来たものだから、ある意味同じモノだろう。

内包する魔力を使い切るとただの石になってしまうが、こうして丸裸の魔石同士をくっつけておくと……ほら、内応量の多い方に魔力が吸い寄せられ、一つにまとまるんだ」

「まぁっ!面白いですっ、わたくしもやってみてもよろしいですか?」

「いいとも、やってみると良い」


 楽しそうに魔力をまとめているソフィアを見て、この知識を教わっておいてよかったと思う。

 この事を教えてくれたのは、『遠き故郷亭』で守衛をしていたあの二人だ。彼等は『厄災の坩堝』第四階層の常連で、第五階層への挑戦の際に仲間を失って冒険者を引退したのだという。

 まぁ、今も続けていたとしても、第五層へは辿り着けなかっただろう。

 私達がここに居る以上、彼等の末路は私達の率いる亡者たちの仲間入り以外にあり得ない__第四階層で遭遇した他の冒険者たちの様に、ね。


「とまぁ、こんな感じで魔物を倒すと落し物が……ん?」

「どうしました?」

「『不浄なる者アンデット』達が何かを見つけたようだよ」


 ソフィアが霊達に妙に懐かれるようになった、というのは前にも話したかと思うのだが、私は私で甦りし屍ゾンビ彷徨う死体リビング・デッド達の『集団』を一つの『個』と捉え意思疎通が出来る様な気が、何となくだがするのだ。

 今も『前の方で何か見つけた』というような主旨の感覚が伝わって来た……様に思う。

 実に曖昧でもどかしいのだが、そう言う感覚としてしか説明できないのだから仕方ない。


 ソフィアと二人、報せのあったと思しき場所に向かう。


 すると……


「……これはまさか、隠し通路というものか?」

「この壁……触れますのに、幻だと思って押すと突き抜けますわ?」


 通路の一部にどうやら隠し通路があったようだ。

 不思議な事に、壁だと思って触れると普通に触れられる。

 だが本当に壁か?と思って触れると突き抜けるのだ。

 いや、違うか。


「実際に触れているわけではないのだろう。

視覚に訴えかけ、そこにある、触れていると勘違いさせているだけだね、これは。

その証拠に触れたと思い込んでいる壁は、見た目に即した形状じゃない」

「あ、本当ですわ。

『触った』と感じた事でそこに『壁』があると思わせられればいいと、そういう仕掛けなのですね」

「『不浄なる者アンデット』は『見て』『触って』いるわけじゃないから気付いたんだろうねぇ」


 これだけの数だからね、よろけた個体が偶然『幻影の壁』を突き破ってしまったんだろうね。


「なんにせよ、隠し通路なんてものがあったんだ。

ぜひ覗いてみるとしよう」

「楽しみですわねっ!」


 既に先達が見つけた後かもしれないがそれはそれ。

 こういうドキドキ感は探検の醍醐味という奴だ。

 とはいえ、まず最初にする事は当然ながら亡者達を送り込む事なんだがねっ!


「では、中の様子を確認して……ん?

扉がある?開けてくれて構わんよ。

腕が捥げた?おやおや、罠が仕掛けてあったのかい?それは大変だったね。

開いた?中は大部屋で何か置いてあると。

ふむ……ソフィア、なんと宝箱があったそうだよ?」

「宝箱っ!凄いですっ!」


 『不浄なる者アンデット』達に先行してもらい、中の様子を確認してもらったところ扉に罠が仕掛けられた大部屋があり、中には宝箱らしきものがあるっぽい。

 これは流石に、直接確認しに行かないわけにはいかないねぇ?


 ただ……扉に罠、というのが気になる。


「ここまで通路に罠なんて仕掛けられていなかったし、扉なんてものも無かった。

第四階層に入ってまだ一度もそう言ったものを見ていないのに、隠し通路の先にはそういうものがある。

……露骨に『何かある』と言っているね」

「宝箱があるのですから、警備が厳重というだけでは?」

「それなら扉に罠を置くだけではなく、守護者なりなんなり置くと思わないかね?」

「あ……」


 会話している内に、ソフィアも隠し部屋の宝箱の異質さに気付いたようだ。


 あからさまな、『罠』。


 無視して回避する事は可能だ。

 これは必要のないリスクなのだから、回避するべきだ。


 ____普通なら。




「第四階層にこんな面白そうなものが仕掛けられているのだから、下の階層ではどんな恐ろしい罠が待ち受けているか分からないな!

是非ここで『見せてもらおう、「地下迷宮ダンジョン」の罠の悪意せいのうとやらをっ!』」

「罠に『あたらなければどうという事はない』、ですわねっ兄様!」


 『王国の白い悪魔』と激戦を繰り広げたという伝説の英雄『真っ赤な彗星の騎士』物語の台詞を引用したら、ソフィアがきっちり合わせてくれた。


 テンションが盛り上がって止まらないね!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る