第24話 回復
「ここも行き止まりか」
「こぇ……で、みぃ……つ……」
「そうだね、これでもう3回目の行き止まりだね。
それにしても、うん、随分と言葉がしっかりしてきたね」
「はぃ……にぃ……さぁ……」
『
だって、見てくれたまえよ!ソフィアのこの元気な姿を!
動きが随分と滑らかになってきたし、唸る事しか出来なかったのが、何となく言葉として聞こえる様になってきているのだよ?移動の際も私の介助する事も少なくなってきたし、これはもう、以前のような元気な状態に戻る日もそう遠くなさそうだという事ではないかね!?きっとそうに違いない。
「第4階層への道は中々見つけられないが、手当たり次第魔物を喰らった甲斐はあったようだね。
体感で約400~500匹ほど喰らった感じかな。
100匹くらいまでは数えていたんだけれどねぇ」
「おてぁ……かぇ……しぁ……せ」
「手間だなんて思っていないよ、ソフィア。
可愛い妹が元気になっていく姿を見て、嬉しくないわけがないだろう?
この調子でどんどん喰らっていこうか。
出来ればもっと美味しそうな『生命』を食べさせてあげたいところなんだがね」
「ぜぇ……たぅ……いぃぁ……せ」
「うぅっ、うちの妹がいい子過ぎて涙が出るね……『死人』だから出ないのだけど」
『厄災の坩堝』が誇る最初の悪意『
疲れ知らず、休み要らず、睡眠要らずで歩き続けられるのだから簡単だろう?と思うかもしれんがね、この『
まず、大前提として第一階層から第三階層まで一気に降りるのに要する時間は、最低平均3時間だとか。そして、上るのに要する時間は平均5時間ほど。そして、これまで見つかった『正解の出口』で、第一階層から第三階層までストレートに繋がっていたという通路は発見されていない。
最短のもので「1→2→3→2→3→出口」、所要時間は戦闘等込みで約10時間ほど。
幸運にも一発で『正解』を引いても、探索には約半日かかるのだよ?間違ったルートを引いた場合、早めに行き止まりにぶつかったならまだ救いはあるが、数日探索して『外れ』を引いた時の徒労感と復路の絶望感……これは探索した冒険者自身にしか分からない類のものだと断言する。
そんな訳で、基本的に普通の冒険者はワンアタックで抜けられなければその探索は打ち切り、そのまま帰還というのが本来の流れなのだ。それを既に私達は数回往復しているという状況。
そして、最大の難点は……『正解ルートは一日しか保持されない』という事。
実のところこの迷惑千万な機構があるせいで、『
第4階層への階段を誰かが
組み換えに巻き込まれて死ぬことはないのか、と私も疑問に思ったんだがね?
どういう仕組みなのか5mx5mのブロック毎に上昇下降前後左右に動きはしても、乗っているブロック区画そのものが潰されたりする事は無い。ついでに迷宮が組み変わる事で出入口が消失する事も無い。進んだ先が行き止まりに変わっても、新たに構成された道を戻れば地上に出られるのだよ、不思議だね!
ちなみに、私達も一度『組み換え』に巻き込まれた。
目の前で迷宮が組み変わっていく様は、文字通り『圧巻』だったね……。
同時にこの『
第四階層までたどり着けない者が多い、というのも納得だね。安全地帯が無い為気が休まる事はなく、補給も『組み換え』のせいで必要量が読めず。誰かが先に第四階層に入ってしまえば24時間以内に自分達も抜けない限り、それまでの頑張りは全て無駄になるのだよ?
『
あれは、『第四階層を目指す者達が2組いるから2回は組み換えがありえる、注意せよ』という警告文だったのね。
「……今更になって思い出したが、たしか私達は『初めて入るので第一階層の見学です』って申告して入ってきたのではなかったろうか?
他の冒険者の方達に迷惑……なんて今更かな」
「ふ……にぃ……や……しぃ」
「……私は優しくなどないよ、ソフィア」
………………優しくなどないとも。
本当に優しければ……本当に私が優しい存在だというのであれば。
『復讐』など考えずに、大事なソフィアを『復讐』になど付き合せずに、全てを忘れ人里離れたところで静かに暮らしていただろうからね。
『優しい』わけなど、無いだろう?
それでもソフィアは、私の事を『優しい』と言ってくれるのだろうね。
悪いのは私達から全てを奪ったガイウスだと、私達の人生も忠誠も尊厳も踏みにじり、省みるどころか覚えてすらいない傲慢不遜にして悪逆非道なあの男こそ悪であるのだからと、私を慰めてくれるのだろう。『人外』に共に堕ち、『復讐』に寄り添ってくれるあの子の方が余程『優しい』。
あぁ、私は何と幸運で、何と罪深く、そしてなんと悍ましいのだろうか。
踏みにじられ奪われ穢された事に憎悪し、『死人』として蘇った事に歓喜し、そして今……愛しいソフィアを巻き込み!『復讐』という名の地獄道を永遠に共にできるという事に、こんなにも心躍らせているのだから。
もう二度とソフィアを傷つけさせることがあってはならない。
愛しい妹を、最愛の人を、喪う悲劇があってはならない。
そんな事を考えながらも彼女を『復讐』に巻き込む矛盾。
今だからこそ、理解できる。
己が無自覚に、どれほどソフィアを愛していたのかを。
兄として、親代わりとして、男として、どれだけ彼女の幸せを願っていたのかを。
ソフィアが喪われて、はじめて私は気付いてしまったのだ。
あぁ、あぁ……悍ましい、恐ろしい。
これほどの激情が自分の中に眠っていたのだと、『死人』に堕ちるほど激しい想いが私の中にあったのだと、ソフィアを想う程に思い知らされる。
早く、ソフィアの元気な姿が見たい。
生者として生きてきた頃のように、優しく微笑むこの子の姿を、また見たい。
私の足手まといになっていると落ち込むソフィアの心労を想えば思う程に、優しいあの子を傷つけ殺したガイウスへの怒りと憎しみが、溶岩の様に煮えたぎっていく。
彼女の純潔を奪い穢したガイウスを、彼女を殺したガイウスを、彼女に『人外』に堕とす程の憎しみを教えたあの男を、私の最愛の妹の魂に消えぬ傷を与えたガイウスを、絶対に、絶対に赦しはしない。
「……よし、喰らって喰らって喰らいまくろうか!
この『
「ふふっ……あぃ、にぃさぁ……」
私はソフィアの手を取って『
ここまで元気になった妹の姿を見てしまったら……我慢なんて、出来るわけがないだろう?
この『
もう一度ソフィアが笑ってくれるなら、私は『
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