第3話:異星人襲来
突然の轟音と共に、研究施設の天井が崩落した。
屋根を貫いていたのは、車両だった。人間どもが移動用に使う鉄の箱がどこからか飛んできて、建物を突き破ったのだ。崩れた箇所から、施設全体に損傷が連鎖し始めている。
一体、何が起きた?
疑問に思いつつも、私は檻の制御装置を確認する。
期待通り、本来は脱走防止のために掛かっている電子ロックと、電流などを用いた多重トラップが無効化されていた。施設のメインコンピュータで制御されている拘束具も、一時的に機能停止に陥っている。主電源諸共イカれたのだろう。
予備電源に切り替わるのを待つつもりはない。アダマンチウム製の檻に前脚をかけ、力を込めて捻じ曲げた。バラバラになった金属の破片を払い、身を起こす。
私は自由になった。もう、何に縛られることもない。
首を拘束する金属の輪を引き千切り、縮んでいた肉体を解放する。永続的に投与されていた薬物も、首輪が用をなさなくなった時点で供給が止まっていた。
人間の雄二人分くらいしかなかった体躯が、倒壊間近で踏みとどまっていた施設を破壊しながら巨大化していく。そして、周囲に立ち並ぶビルほどの大きさを取り戻した。
怯え惑う人間どもを無視し、ほとんど瓦礫となった施設を踏み潰しながら、周囲を確認する。
何が起きたのか、確かめるまでもなく理解した。
銀色のボディをした円盤型の飛行物体。異星人の戦闘機が、手当たり次第に人類の施設を破壊していた。
線路を走っていた鉄の箱が、空中を乱舞する。私の高さほどのビルが溶けて崩れ落ち、爆炎を吹き上げながら住宅街が破壊されていく。
胸のすくような光景のはずだった。
そのはずなのに、このまま放置できないという焦燥が、腹の底から込み上げてくる。
『何なのだ貴様は……!』
無論、これは人類愛などではない。
高まる怒りに連動し、無尽蔵のエネルギーが生成される。100年もの間、錆びついていた回路が奮い立ち、全身が煮え滾っていく。
危険を察知したのか、戦闘機がこちらに目標を定めたのが分かった。
予備動作すらもなく、青白い光を帯びた弾丸が放たれる。アダマンチウムよりも硬い尾を駆使し、私は即座に攻撃を打ち払った。岩肌のような
弾かれた光弾は明後日の方向に飛んでいき、そのまま着弾した。燃え盛る人間どもの文明を背景に、私は異星人と向かい合う。
此奴は私に、敵対的な行動を取った。
『誰の赦しを得て、勝手にこの星を破壊している……?』
人類を襲う理由に興味などない。
だが私を攻撃し、断りなくこの星を侵略するつもりならば、見逃すわけにはいかなかった。
体内温度が上昇するとともに、周囲の家屋や建造物などが触れるまでもなく融解し、蒸発していく。飛行物体から放たれた熱線が私の肌を掠めるが、装甲に等しい完璧な肉体には傷ひとつ付けられない。
『この星は私の物だ。私が焼き尽くし、いずれ塵一つ残らず消し去るのだ。横から掠め取ろうとするなど度し難い!!』
咆哮。
『――死んで詫びろッ!』
収束した強大な熱エネルギーを一気に吐き出した。超高密度かつ巨大な熱線が、回避行動を取ろうとした銀色の戦闘機を貫通、粉砕する。防御障壁も、中にいただろう異星人本体も巻き込み、存在ごと焼き尽くす地獄の業火。
残骸すら残さない。異星人は、振りまいた被害の痕跡だけを残して、この星から消滅した。
気がつくと、私はまた檻の中に捕らわれていた。あの忌々しい拘束具も再び用意され、首を締め付けたままだ。
礼儀知らずの異星人を消し去り、さあ破壊活動だと意気込んだ私を待ち受けていたのは、細長い槍状の武器を搭載した戦車だった。ドサクサに紛れて背後に回っていた小賢しい人間どもは、敵を殲滅して緊張が緩んだ一瞬の隙にそれを打ち込んできたのだ。
激痛が走り、体から力が抜けていく。首に突き刺さった槍を引き抜くが、時すでに遅し。神経毒が回り、私は呆気なく気を失った。
また逆戻りじゃないか。怒りに身を震わせながら、周囲の様子をうかがう。
研究施設が残骸になったせいか、別の場所に移されているようだった。
脱走防止用の檻の中にいるのは今までと同じだったが、体を伸ばすスペースもなかった以前と比べて、随分とゆとりがあった。壁面はスクリーンを兼ねており、何かの映像が映し出されている。
特に関心はなくとも、音声は勝手に入ってくる。異星人襲撃に関する被害状況についての報道。土地や施設、人名といった固有名詞を含む情報は仔細を理解できなかったが、壊滅的な被害があったことは分かった。
(これから……私はどうなる?)
今度こそ殺処分されるのかもしれない。それもいいだろう。わずかな時間でも自由を取り戻したからこそ、こんな生活を続けることはこれまで以上に耐え難く思えた。
その日から、私の生活は一変することになる。
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