余白
カミトロニア
おつかれさま
「…お疲れ様です」
「お疲れ様」
「ねぇ、あなた名前は?」
「僕は、えっと、
「…晃くんね。おばちゃんはね、
「幸子さん」
「お腹は空いてない?何か好きなものはある?」
「…じゃあ、ホットケーキ…が食べたいです」
「ちょっと待っててね」
「はい、どうぞ」
「ありがとうございます」
「そんなホットケーキで良かったの?もっと沢山美味しいものはあるのに」
「母が、よく作ってくれたんです」
「…そう、だったのね」
「あの、一つ聞いても良いですか?」
「一つと言わずなんでも聞いて良いのよ。時間は沢山あるのだから」
「僕は、死んだんですか」
「…そうね。ここにいるということはそうなるわね」
「そう、ですか」
「随分とあっさりしているのね」
「…はい」
「普通は動揺すると思うのだけれど…」
「そうですね、普通なら動揺するんでしょうね…でも僕は自分で死を選んだので」
「そんな…何かあったの?」
「理由がなきゃ駄目ですか」
「…そんな事はないわ。ただ聞いてみただけよ」
「……少し、時間をもらっても良いですか」
「えぇ」
「…母は、ある日を境に帰って来なくなりました。僕は…捨てられたんです。
電気もガスも止まり、最後に水道が止まりました。
作り置きされていたホットケーキも、家の中にある食べ物も全て尽きました。
でも外に行こうとは思わなかった。
母が帰ってくる気がしていたから。
玄関の開く音がするのをずっと待っていました。
お腹が空いて、喉が乾いて、そこで気がつきました。
母は僕を捨てたのだと。
母のことが大好きでした。
唯一の家族でした。
でも母はそうでは無かったみたいです。
最後の力を振り絞って、風呂に沈みました。
母を人殺しにしたく無かったからです」
「……そう…」
「もう一つ聞いても良いですか。
ここは、天国ですか?」
「えぇ、そうよ」
「なぜ、幸子さんしかいないのですか」
「さぁ、何故でしょうね。私にもわからないわ」
「さっきから靄がかかってしまって、幸子さんのことが見えません」
「…そうね、私もよ」
「…なぜ泣いているのですか」
「泣いてないわ」
「泣いてます。声が震えてる」
「晃、くんも…泣いているじゃない」
「泣いてないです」
「……ごめんね、晃」
「ずっと…待ってたよ。母さん」
「 」
「 」
「…ただいま」
「おかえり」
余白 カミトロニア @sake_no_5
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