第30話 陽香さんとプレイ その3
意識が覚醒して、ゆっくり目を開けようとした時、妙に頭がスッキリしていた。
遅刻だ! と飛び起きようとすると、周囲は朝の静けさや明るさとは違っていて、後頭部に味わう感触もいつもの枕ではないことに気づいた。
目を開けて真っ先に見えたのは、見慣れたアパートの白い天井ではない。
陽香さんの顔がすぐ近くにあった。
「陽香さん? あれ? ここ、陽香さんの部屋ですか?」
「そうよ。あなたが急に眠ってしまったから、起こすわけにもいかずに待っていたのよ」
「そ、そうだったんですか。それはありがとうございます」
……ありがとう、なのか?
「じゃあおでこをくっつけてくれてたのは、なんのおまじないなんですか?」
「そ、そんなことしてないんだけど!?」
「えっ? そうですか? なんかおでこにコツンと幸せな感触があった気がするんですけど」
「あなたの気のせいよ」
「そうなんですかねえ……」
いまいち納得が行かないが、考えてみればいくらなんでも陽香さんが僕に対してそんな近い距離感で接してくるはずがない。その理由もないわけだし。
「すみません、変なことを言って。それと、膝は痺れてないですか?」
体を起こす僕。
陽香さんがずっと膝枕をしてくれていたってことは、それだけ正座を続けていたということ。体に負担を掛けてしまって申し訳ない気分になる。
「まあ20分ほどのことだし。これくらいなら平気よ」
「じゃあその間ずっと妄想してたんですか?」
「……し、してないわよ」
してたんですね。
まあ、陽香さんが楽しければ、僕もそれで満足ではある。
「もう遅いし、あなたも帰りなさい」
「そうします。実は明日の宿題、まだ終わってないんですよね」
「もし私の授業の提出物だったら、この場で粛清するけれど?」
「ち、違いますよ! 陽香さんの授業のだったら、真っ先に終わらせてますから! 僕は陽香さんの授業だけは他の誰よりも優先して頑張ると決めているので!」
「本当かしら?」
くすりと笑う陽香さん。
よかった、怒ってはいないみたい。
優しい陽香さんは、玄関まで見送りに来てくれる。
「河井くん、今度来る時にはもっと速くなっていなさい。対戦相手としては、弱すぎてつまらないから」
「そうします。今度は実力で一位を取って、陽香さんのご褒美をもらっちゃいますから」
「勝手に変なルールを決めないでくれる?」
「ニンジンをぶら下げるのは、モチベーションを維持するのにとても大事なんですよ。僕に速くなってほしいなら、その辺は受け入れてもらわないと」
「負けっぱなしのくせに偉そうねえ、あなたは」
嘆息する陽香さんは僕の肩に手を添えると、くるくると回して玄関の扉と向き合わせた。
「ほら、帰って学生らしいことをしなさい」
陽香さんに背中を押され、僕はドアノブに手をかける。
やっぱり、陽香さんと離れる時はどうしても寂しい気持ちになってしまう。
「そうだ。あなたとできるように、今度実家から何本かソフトを送ってもらうことにするわ」
部屋を出る時、陽香さんにそんな言葉を掛けてくれたおかげで、これからも陽香さんに会えることが保証されたようで、寂しさは少しだけ薄れてくれた。
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