やきもちを妬いてほしい音葉くん。

「好きです、付き合ってください!」

 なんで俺、告白されてんだろ。そう思った今日この頃。

 中学二年生の夏、俺は男子に呼び出され、告白されていた。

「俺、全然可愛げないしこんなだけど、いいのか?」

「いえ、先輩はキレイです!先輩だからいいんです!!」

「……んーー」

 俺はボサボサとしたポニーテールを撫でつけながら、どうしたものかと首を傾げた。

 放課後、下校する時に下駄箱へ上履きをしまおうとすると水色の封筒が一通、入っていた。

 隣にいた言葉が物珍しげに見つめる中、開けた封筒。中身の手紙。

 そして今、校舎裏にて俺の胸より下に頭を下げている男子がいる。

 身長や言葉遣いからして一年生だと思うけど、見た目は短髪のやんちゃそうな、それこそ小さい頃の俺みたいな感じ。

 ……どうしようか。

「ほんとに俺でいいのか?多分ガッカリするぞ?」

「いえ、絶対先輩にガッカリなんかしません!ガッカリもさせません!!」

「お、おう……」

 すげー気迫。なんでこんな俺にご執心なんだ?俺、女の方が好きなんだけど。それにあまり恋愛対象に見られないからなあ。

 俺は気不味さに頬を人差し指で掻きながら、近くに生えている木に目を逸らした。

 そこにはセミが一匹が貼り付いていて、今の今になってミンミン鳴き始める。

「じゃ、じゃあ試しに一週間だけでも付き合ってくれませんか!?」

 一週間……。

「ま、まあ一週間なら試しにいいけど」

「ほんとですか!?絶対先輩に認められるよう頑張ります!!」

「う、うん……」

 なんか凄い罪悪感……、景気付けしちゃった感じだけど大丈夫かな。

「そういえば名前は?」

「ジブン、茅野健一っていいます!よろしくお願いします!!」

「ケンイチ、ね。分かった、また明日な」

 ぽんと彼の肩を叩き、横を抜ける。そそくさと。

「あ、ありがとうございました!!」

 見送るケンイチから手だけ挙げて返事すると、校舎裏の角を曲がって影の中を歩いた。

 太陽の元に出ると日照りに目を細め左手で軽く光を覆う。

 よく晴れた青空。年々暑くなってるように錯覚するほどの夏のいい天気だ。

 目が日に慣れてきた所で視線を下ろすと、校門前で言葉が手を小さく振っていた。

 なんだ、先に行ってろって言ったのに待ってたのか。

 手を振り返して、軽く駆け出した俺は一歩手前で言葉の前に立つ。

 言葉はなにやらにこにこ笑って俺を見上げていた。

「なに、笑ってんだよ。きもちわりぃ。……いくぞ」

「……(こくん)」

 陽炎が沸き立つ道路を歩く俺についてくる言葉。今日はいつにも増して暑いからか、汗だくの顔からぽたぽた水滴が垂れて乾いたアスファルトに染み込む。

「俺、付き合う事になった」

「……(こくん)」

 言葉は無表情だった。黒目のその瞳はなにを考えているのか分からないが、そんな目を横目に見つめる俺もなんなんだと思う。

 この気持ち、なんなのか分かんないけどこいつを気になってるのは確かなんだろうなって思う。

 なんでこんなやつ、好きになったのかな……。

「…………(ぷい)」

 ふと、顔を逸らされ、黒瞳が見えなくなる。その後、その細い腕で言葉に肘付きされた。

 覗き込んでたのがバレたのだろうか。

 バツの悪い気分になって、右手でポニーテールを雑に撫でつけているとひんやり柔らかいものが空いた手に巻き付いた。

 言葉の方を見ると、さっき肘付きした手が俺の手に絡んでいて、しっかり握りしめてくる。

 ……ひんやり。

「なあ、おまえ」

「……(ぴくっ)」

 言葉の耳は、気のせいか赤くなっているように見える。暑さに逆上せ気味なのか。

「冷え性なの?」

「……(むうっ)」

 なんかむすっとした顔で俺を睨みつけてきた言葉は、俺の左手の中でその冷たい保冷剤みたいな手をうにょうにょ這わせ、指を絡めてきた。

「……なに、すんだよ」

「……(むすー)」

 唇を固く閉じるそいつの手と俺の手はカップル繋ぎ。

 ひんやりして気持ちいいけど、なにを考えてるかは分からん。

 こんな事されたらもっと気になっちまうじゃんかよお……。

「……ほんと冷てーな……」

「……(むすすー)」

 一体俺はどうしたらいいんだ……。くそっ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

言ノ葉ノ生キ物。 蒼井瑠水 @luminaaoi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ