「よっ、ことば。一緒に行こーぜ」

「……(こくん)」

 僕らは背が伸びた。初めて会った日は背丈はあまり変わらなかったけど身長が伸びるにつれて音葉のほうが背が高くなっていった。いつも低身長と高身長のコンビみたいに見られていたっけ。

 小学生高学年になるまでもなってからも、喋れない所や見た目でいじめられる事が多かった。でもその度にガキ大将みたいな音葉が庇ってくれて、殴り合いの喧嘩にまで発展しても、傷だらけになってまで守ってくれて、倒れる事はなかった。

 まるで男の子みたいなやつだけど、でも大事な友達である事には変わりない。

 中学生になった今も登下校は共にしていて今日も一緒。男みたいなハスキーな声で鼻歌なんて歌っている。

「ふんふーん、今日好きなゲームの発売日なんだー。お前もやりたかったら貸してやるからいつでも言えよー?」

「…………っ」

 僕は苦笑いで頷く。茶髪の彼女は今では髪を伸ばしていていっちょまえにポニーテールなんてしていた。小さいときは短髪で完全に男だったのにな。

 しかし、ざつなのかボサボサっと広がっていて、まるでほうきみたいだ。これではホウキテールではないだろうか。

「ん?どうした?俺の顔なんか見て」

 僕は彼女に通じるよう自分のふわふわとしたボブカットの髪に触れ、後ろにまとめて髪型を示唆するジェスチャーをした。

「ああ、この髪か?母さんがな、中学生になるんだから髪を伸ばして制服に似合うようにしなさいっていわれてな、だからだよ」

「…………」

 僕はそうかそうかと微笑みながら頷くと、音葉は「けっ」ていいながら唇を尖らせてしまう。

「笑うんじゃねえよ、仕方ねえだろ?お前は好きに可愛い髪型にできても俺は母さんに言われてるんだから」

 その言葉を聞いて、やはりと思ってしまう。彼女でも体裁やら母の言う事を気にするのだなと。

 僕は少しでも彼女を安心させたくて、彼女に声をかけようと口を開く。けどもやっぱり声なんてでなくて、掠れた息がもれるだけ。

 それでも他にやれることはないのではないかと、手を寄せる。そしてそっと彼女の袖をつまんだ。

「……?…………どうしたんだよ、手え繋ぎたいのか?」

「…………っ」

 彼女の声に振り向いて、はっと目を見開いて見つめたその顔に、ただ頷くことしかできなかった。

 何故か仄かに染まったほっぺた。いつもよりも優しい微笑み。そしてどこか呆れた、愛しいものを見つめるような瞳。

 彼女の気持ちには勘付いていた。ぼんやりと気付いていたはずだ。でもその顔を見て思い知らされた。

 もう僕は幼くない。その感情の名前は知ってる。

 その感情の名前は……。

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