なんだよ、あいつ
「おっと、そうだった。ことちー、今日学校終わったら一緒に遊ばねーか?」
俺がそう言った後だった。引っ越し先の俺んち隣に住んでた言葉とか言うオンナみてえな男の子、ことばに、あいつの肩に置いた手を両手で握られたんだ。
そして俺の手をことばの顔に添えられ俺の手はこいつの頬に触れる形になってしまった。
ことばは俺の手に触れて安心するかのように瞼を瞑り、そして億劫そうに開く。
俺はなぜか手を離す気にもならなくて、ただその光景を見つめて、胸の中がざわつくのを感じた。
ざわつきは確かに形になり、揺れ動き、騒がしくするように煩く感じた。その煩わしさは本物になり、やがて胸が高鳴り始めた。
な、なんだこれ。なにこの頭がホワつく感じ。炎で膨らまされる空気のような、ぼーっとするちょっと気持ちいいような気分。
ことばをそのまま見つめていると、あいつはなぜか怯えるように、でもただ俺だけを見てなんて呼ぶのか分からないその感情を包んで、抱えて、そっと笑った。
「…………。」
まるで雷に撃たれ、その電撃の熱で身体中の血液が沸くような、そんな衝撃と熱感。
首から下は痺れ、頭は脳が煮られているような高熱感と思考が朦朧とするような煩悩にまみれるかの如く感覚。
今、相当な顔芸を披露していることになっているであろう顔を咄嗟に振り返る事で隠す事だけが精一杯だった。
きっと変な顔になってる自分の顔、こいつには見せたくなかった。
「きゅ、急になにすんだよ。今日は俺に付き合ってくれるんだろっ?」
ことばが首を振って返事しているのはなんとなく分かった。けどいつまで経ってもことばの顔は見れなかった。その時どんな顔をしたままだったのかも。
結局、ことばが家に遊びに来てもあいつの顔からは目を逸らしてしまい、なんだかんだで気持ちも入らずあいつとの遊びもいつの間にか終わって帰って行ってしまっていた。
「なあ、かあちゃん。ご飯なにー」
「ん?昨日大量にカレー作ったでしょう?今日もカレーよ」
「ふーん、そうかー……」
「……?」
俺はかあちゃんに質問しておいて話を半ば聞かず、ソファに座っていた。
「なんか元気無いわねー、そろそろご飯も炊くからお風呂入っときなさい」
「はーい」
俺は操り人形のように言われるがまま風呂場に向かった。
脱衣所で服を脱いでズボンを脱ぐ。下着の薄い白シャツを脱いで、パンツに手を掛けたとき、母の言葉を思い出した。
そういえば服とかは男物買ってくれてもパンツだけはオンナのパンツ履けって強制されたな……って。
俺は自分の性別についても分かっておらず、社会の仕組みも知らなかった。俺みたいな半端者は嫌われる事も知らず、同じようなあいつ……、ことばも。
俺が思い描く普通ならあるはずの股関の触覚を触ろうとして空気を握る。その下半身の空白感。
俺は、なんなんだろうな。
なんとなくそんな事を思った。
ピンクのそのパンツも脱ぎ捨てて、風呂場で身体をかあちゃんから教わった通りに洗う。でもめんどくさいからちょっと雑に。
浴槽に使って俺は水滴で微かに光り、たまに滴る天井を見上げる。
「……」
…………。
「………………」
……………………。
なんなんだよ、俺は。
なんなんだよ、あいつは。
「一体なんなんだよ〜〜〜っ!!?」
大声を荒らげて、頭をガシガシと乱暴に掻いて、首を振る。
そこまでやって、一旦落ち着くと、
「こらぁっ!!音葉あー大声出すなー!!」
とかあちゃんに怒鳴り返されてしまった。
ちゃんちゃん。
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