第3話

俺と瑛麻が入学する高校は家から歩いて20分程にある私立高校である。

わざわざ私立高校を選んだ理由は単純で、そもそも俺が3年後国公立の大学を受験するつもりがないからである。

父母は両方承知で「塾代払って私立行くくらいならエスカレーター方式のほうがいいわ」ということだった。まぁ半分諦めれられているということなのだが、俺としては両親のことよりも瑛麻の母が中堅私学を許したことのほうが気がかりなのだ。俺は何度も説得したのだが、瑛麻は俺と一緒の高校に行くと言って聞かなかった。


 中学3年の夏、一度クラスメイト数人で瑛麻の家で勉強会を開いた際、俺は瑛麻の母親に1人呼び出されたことがある。

その頃にはもう俺は進路を決定していて、そうなると自動的に瑛麻も進路が決定してしまうのだが、それについて瑛麻の母からお叱り(というよりかは瑛麻に対しての説得の依頼だと考察していた)だと思い瑛麻の母と別室に移動すると、


「ねぇ、瑛麻のことよろしくね?高校でもずっと”なかよし”してあげてね?」


と言われてしまったのだ。

俺としては瑛麻の自立が最も良い選択肢だと考えていたが、瑛麻の母も瑛麻に似て(正確には瑛麻が母親に似ているのだが)精神が少々不安定であり、元旦那さんとの離婚後は暗鬱な性格になってしまっているようであった。

それまではかなりの癇癪持ちだったと推測していた、というのも小学校時代となりから母親の怒声が響いていたからだ。


「おばさん、瑛麻はそろそろ俺無しで…自立したほうがいいと思いますけど」


「…なんでそんな悲しいこと言うの?せっかくの幼馴染なんだし…。そうだ、毎月おばさんが晴人くんにお小遣い上げるからね?ね?悪くないでしょ?」


もちろん拒否した。もしそんな事がバレてしまえば俺が家族に文句を言われる。特に事なかれ主義の母は許さないだろう。

それにどうせ自立させるのであれば後腐れが無い方がいい。瑛麻や彼女の母に限ってそんなことはないだろうが、「お金あげたのに裏切られた」などと言われるとこちらもたまったものではない。


 またこれもまた中学3年の夏の出来事だが、瑛麻が俺の家にコンドームを持ってきたことがある。中学校高学年にもなるとさすがの俺も避妊具の存在は知っていたが、こういうものは大人が買う道具だと考えていた。


「え、瑛麻…。それおまえが買ったの?」


流石に動揺しながら訪ねてみると


「これママがくれたんだよぉ。晴人くんと使いなさいって言ってた。赤ちゃんができないようにするんだって!」


と純粋無垢な面持ちで告げられた。

避妊具を親から受け取るという発想がそもそも無い…というか中学生が「そういうこと」をすると考えていた事に驚いた。

もしくは念のために預けておく、という可能性もあるかもしれない。

ただその時の俺は「俺は瑛麻の母に”そういうこと”をすることを許可された」のだと考えていまいなんとも自己嫌悪に陥った。

 後日朝のゴミ出しで瑛麻の母と会ったとき、


「おはよう晴人くん。………………….使った?」


と聞かれたときは頭が真っ白になった。

もちろん使ってはいない。

「なんのことですか?」ととぼける事もできたが、平静を装えないと判断した俺は


「使ってません。そんなことするつもりはありません」


と正直に答えた。

瑛麻の母は困り果てたような顔をして、


「私は全然瑛麻を晴人くんにあげてもいいと思っているのだけれど…。ただ学生で赤ちゃんっていうのは大変だから…ね?」


と言われ、「瑛麻の母に”そういうこと”をすることを許可された」ことが当てはまったことに更に動揺してしまったのである。


長々と述べたがつまり何が言いたいかというと、聖澤家は2人とも「めんどくさい」のだ。


 そう、瑛麻を自立させるというのは瑛麻の母にも諦めさせることが必要である。

そして俺の中ではその両方を解決させる方法を一つ考えている。

それが「俺と瑛麻、お互い恋人を作ること」である。

突拍子のない意見だとも思うがこれには俺なりの稚拙な考えがある。

まず俺が彼女を作る。それを知った瑛麻はおそらく俺を軽蔑するだろう。

俺に裏切られたことを知った瑛麻は傷心し、別の依存先を求めるだろう。

そこで他の学生たちの出番だ。

正直言って瑛麻は高校でモテるだろう。(この表現は心底キモいが)贔屓目に見てもかわいい。おそらく高校でも1番を欲しいままにするだろう。

母数が多ければ良いやつを引く可能性が高い。少なくとも俺よりも優良物件な男はたくさんいるだろう(←少しおこがましい表現ではある)。そうなると瑛麻の母も信頼に値する瑛麻の依存先を見つけ安心する。


この一連の流れを少なくとも高校卒業までに完遂する。

瑛麻のため、というよりほぼ自分のためなのだが、これからの生活を穏便に過ごすためにはどうしてもこのオーダーを完遂させたいのだ。

今日はその第1歩、入学式だ。3年間のミッション・インポッシブルをミッション・ポッシブルにするための肝心な日。くれぐれもミスのないように気を引き締めていきたい。





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