第4話
20分ほどの学校までの道のりを2人で進む。
行きしは程よい登り坂で眠い目を覚ますには丁度よい。
道沿いにバーガーチェーンやコンビニ、書店、バッティングセンター、カラオケなどがあり放課後の寄り道手段としてはうってつけのコースである。とはいえ中学時代も自転車でこの辺りに遊びに来ていたので慣れた場所といえばそうなのだが...。
「ね、同じクラスだと良いね。そしたらずっと一緒にいられるね」
と遊歩道をわたりながら瑛麻が囁いた。
入学前の情報によると1学年は例年5クラスあるのだそうだ。
普通クラスの1~3組、特進の4、5組。
俺と瑛麻は普通クラスへ進学予定だ。
「一緒だったらお前にかまってばっかだろ。友達できなくなるしやだよ」
自立させる目的抜きにしても、こいつのせいで友達作りが困難になることは面倒だ。
俺はそこまで友人づくりに熱心な方ではないが、ぼっちやお一人様なども好かない。
人並みに釣つるむことができる友人が4、5人いれば良い。
「えぇ~酷いよ。私とだけ友達でいれば良くない?」
「お前は簡単に作れるからそんなこと言えるけど俺は違うのよ。向こうからホイホイ寄ってくるわけじゃねーし」
「む~。何その言い方!私だって好きで友達作ってるわけじゃないし!!というか友達でもなんでも無いよ~。ただの取り巻き!」
流石は美少女、そして性格も良くない。
小さい頃から基本的に瑛麻は他人への興味が薄かった。俺だって最初の頃は返事もされなかったし。
「晴人だけがいれば良いんだよ。晴人にも私だけでいいって言ってほしいな」
じっとりと熱い視線が集中する。瑛麻が俺を狙うように見つめていることが見ずとも分かる。
俺は無視して歩幅を大きくする。
「...いつか言わせてみせるね、絶対」
と、後ろから瑛麻の声が聞こえた。
目的地まで後少し。桜並木からたくさんの花びらが降り注ぐ中、同じ制服の群衆に混ざり、足を進めた。
*
高校の校門をくぐりエントランスの方に目をやると生徒の人だかりができていた。
掲示板でクラスを確認できるらしい。
「俺たちも確認しに行こう」
生徒の山に分け入りながらなんとか掲示板の内容を確認した。
2組18番 佐々木 晴人
3組26番 聖澤 瑛麻
「....................」
「クラス違ったな、まぁ頑張れよ」
...これはかなり幸先が良いのでは?
クラスが違えばそれだけ瑛麻と合う機会が減り、自分のクラスメイトと接する機会が増える。
瑛麻には悪いが俺は俺で友人を作らせてもらう。
お前が自立するための最初の苦難だと思って受け入れてくれ。
「...絶対会いに行くから」
怒りを抑えきれていない瑛麻の握った拳がぎゅうぎゅうと音を立てている。
瑛麻は怒るとき本気で拳を握り唇を噛みしめるのが特徴だ。
「いやまじで勘弁してくれ」
「やだ!昼休みも絶対行くし、放課後も迎えに行くし!!」
エントランス中に瑛麻の怒声が響き渡った。
*
最後まで文句をたれている瑛麻をよそ目に教室に入った。
俺の席は右から3列目最後尾だった。席ガチャ勝利。
初期席は名簿番号順なので正確にはガチャではないのだが最後尾というのはなかなか気分がいいものだ。
席につくと前の席の男子、隣の席の女子に挨拶した。
普段なら絶対に自分から挨拶はしないのだが人脈を作るため今のうちに関係を作ることも大切だろう。
挨拶すると、2人も潔く返してくれる。
前の席は坂本竜也、若干ツリ目で声がでかい。圧が大きいが根は良いやつそうだ。
横の席は南雲奏音、ポーニーテールで愛想よく男女関係なく仲良くできるタイプであると考察した。
3人で談笑していると1人の生徒が教室に入って来て、同時に南雲がその生徒に声をかけた。
「あ、結里花~こっちこっち~!!」
南雲の声につられ周りの生徒の視線が一斉にその生徒に集まる。
結里花と呼ばれるその女生徒は周りからの視線に赤面しながら小走りでこちらに向かってきた。
走ってきたはいいものの俺と坂本がいるせいで困惑しているようだった。
「紹介するね~。この人が坂本、で、こっちが佐々木!どっちも話せそうな男子だよ~」
と、早速南雲が俺たちの紹介をしてくれる。
「「よろしく」!!」
俺たちが挨拶すると結里花は顔を見合わせ、すぐにうつむいてしまった。
その様子を見た南雲が慌ててフォローする。
「あ、こっちも紹介するね!彼女は宇都美結里花、わたしと同中なんだ~!見ての通りちょっと人見知りだけど私とセットで仲良くしてほしいな!」
「もちろん、よろしくな!!!!」
「これからよろしく、宇都美さん」
坂本と俺が改めて挨拶すると、
「あっ...ろしく...願いします」
と度々うつむきながら返事をしてくれた。
彼女の様子を見て既視感を覚える。
その内気な様子に過去の瑛麻を見出したのだ。
ともあれ、俺の高校生活がこうして始まろうとしている。
新たな環境、新たな出会いに少しばかり胸をときめかせる俺なのであった。
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