第2話

朝7時。普段通りの時間に幼馴染、聖澤瑛麻に起こされた。

眠い目をこすりながらベッドから起き上がる。

瑛麻はいつもきっちり制服を着こなして、万全の準備で俺を迎える。

普段と異なる点として、制服が紺の野暮ったいセーラー服からカーコングレーのブレザーになっているということだ。学校指定である赤いリボンは左右どちらかに曲がることなく、むしろ瑛麻の容姿の良さを引き立てているように思う。


 顔を洗うため階段を降り、また再び自室に戻ると瑛麻が俺の着替え一式を用意していた。


「男子の制服さ、結構いいね」


 当然のように着替えを用意している事実には一切疑いを持たず瑛麻は男子用制服に目を光らせた。


「グレーって中学と真逆で新鮮だよな。まぁネクタイはダルいんだけど」

 

 男子の中学制服は学ランだったのでネクタイの結び方はさっぱりわからない。


「ネクタイ結んであげよっか。練習してきたよ」


「いらん。自分でやる」


 幼馴染にネクタイを締めてもらうなんて屈辱だ。

期待の眼差しを向ける瑛麻を横目に鏡の前に立ちネクタイを締める。

がどうもうまく行かない。てっぺんの結び目の部分が膨らんで三角形にならないのだ。鏡越しにベッドの方に視線を向けると、瑛麻がニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「ねー。やらせてよぉ、ネクタイ」


 そう言うと彼女はゆっくりと俺に近づき後ろから俺の体に腕を伸ばした。

瑛麻の細い腕が腹筋あたりから胸にかけて這い上がっていく。

と同時に彼女の生暖かい吐息が首筋にかかった。


「ね、お願い。新婚さんごっこさせてよぉ~」


 甘ったるい声色で懇願する瑛麻。昔では考えられないような声色だ。

そして俺は知っている。この状態になった瑛麻は言うことを聞かなくなるということを。

つまりはお手上げだ。


「わかったよ。そのかわりにめっちゃきれいにやれよ」


「…っ!…うん!!」


 満面の笑みを浮かべる瑛麻。

その様子は餌を目の前にした大型犬を連想させる。


「ふんふんふ~ん」


 鼻歌を歌いながら慣れた手付きでネクタイを締める。

俺と瑛麻には10cm以上の身長差があるのでネクタイを回す際にいちいち背伸びをしている。その際彼女の高校生らしからぬ豊かな胸が背中に擦り付けられるように上下することに対しては、故意か否か考えあぐねる。

そして悔しいことに瑛麻のネクタイ締めは完璧であった。


「できましたよ~ だ・ん・な・さ・ま」


「うっわ。まじで寒気した。そういうのまじでやめて」


「えぇ~いいじゃん…イズレソウナルンダシ…」


 ボソボソと文句を垂れる瑛麻。

彼女がボソボソと聞き取れない文句(表情から読み取るにおそらく文句であろう)は最近の癖だ。


 そんなこんなで2人階段を降りると母が朝食の用意をしてくれていた。


「おはよ、朝ごはん早く食べちゃって」


 机には一人分の朝食。もちろん俺の分だ。


「バターだけでいいよね」


 そういって瑛麻は家の冷蔵庫から勝手にバターを取り出し、勝手に俺の食パンに塗りだした。

これももう何百回目も見た光景だ。母も俺ももはや瑛麻に対して言うことはない。

が、ここで一つ今後誤解を招かないように伝えておきたいことがある。

母は瑛麻の蛮行に対し、黙認しているが容認しているわけではない。

よくアニメなので親公認の~などという表現を見かけるが、家はそうではない。両親非公開で瑛麻が勝手に行っているのだ。

そもそも瑛麻に対して興味がない。


 瑛麻が初めて俺を起こしに来た時のことだ。


「これから毎日晴人のこと起こしに来てもいいですか?お母さん」


と瑛麻がうちの母に問うたそうだ。

母の答えとしては


「…別に好きにしていいんじゃない」


だった。

それから瑛麻は毎日うちに来ては俺を起こすようになった。

普通の感覚かは分からないが、他所の子供が朝早くに家を訪れ、自身の子供に朝食を与えるとき、


「◯◯ちゃんはもう朝ごはん食べた?」


などと聞くと思う。

が、母にはそのような感覚がない。

母が瑛麻の家の出入りを黙認するのは単に俺を起こしに行く手間が省けるだけだからなのだ。


瑛麻が朝迎えに来た初期の頃、どうしても着替えている姿を見られたくなかった俺は、彼女に対しリビングで待っているように命令した。

しぶしぶ了承したのは良いものの、俺はこの選択を公後悔することになる。

着替え終わりリビングに来た際、瑛麻と母は一言も会話していなかったのだ。

流石に気まずく思った俺は以降、着替え中も瑛麻が部屋にいることを許可したのだった。

畢竟、母にとって瑛麻はただの隣人で勝手に家に侵入している非常識者なのだ。


こんなことがもう3年も続いており、俺も感覚が麻痺してきたが、正直瑛麻を自立させるためにはそろそろ俺離れをさせる必要があると思う。

 中学までは子供の間違いとして受け入れてきたが、高校生ともなると周りからの誤解も招いてしまうだろう。

それは俺にも瑛麻に立っても良くないことだ。


そうだ瑛麻を自立させよう


彼女が俺なしで生きていけるように矯正させよう。

そう決意し、2人家を出た際、普段より距離を取って通学路を歩く俺だった。

もちろん速攻で瑛麻に距離を詰められたのだが…


だが、「瑛麻を自立させる」という俺の決意は、俺の高校生活に災いを招いてしまうのだった。





ええと、題名にもあるいい感じのクラスメイトはまだ出てきません。まじで誰かレビュー書いてくれ、まだ2話だが書いてくれ…下さい。

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