第13話 テストと勉強と泣き顔と

「取り合えず、今の梨花の学力を知りたいから、試しにコレ解いてみて」


 そう言って俺は、何周もしてもう使わなくなった数学の参考書にある『総まとめチェック』というテスト用紙を、計算用紙と一緒に梨花に手渡す。


 問題集を見るや否や、あからさまに嫌な顔をする梨花。

「えー……定期テスト受けてるみたいでヤダァ……」

「いや、まんま期末テストみたいなもんだから」


 梨花からしたら、せっかく助けを求めたのにいきなりテストを受けさせられてあまり気持ちのいいものではないのだろう。

 かと言って、何も知らずに「さぁ、勉強を始めよう」というわけにもいかなかったので、仕方ない。清水と違って、俺は梨花が普段どんな勉強をしていて、どんな分野が得意なのかは知らないのだから。


 それを知るための『総まとめチェックテスト』だ。まずは梨花の苦手な分野を知らなければならない。

 その手始めに数学から問題を解いてもらうことに。本棚には他にも、物理、化学、英語と理系寄りではあるが教材は揃っていたため、総合学力を測るのにも申し分ない。


 とはいえ、テストを解くだけでも相当な精神力を使う。反応を見るからに、明らかに勉強は苦手そうだ。

 そんな勉強を嫌々やらせるのは、効率が良くない。


 と、言うわけで───。


「ちなみにそのテスト次第で教え方を考えるから、頑張って」

「頑張れって言われても……」

「結果と頑張り次第でイチャイチャする時間作ってあげるから」

「よし! 私頑張っちゃう!!」


 イチャイチャをエサにしたら、梨花が見事に釣れる。


 食いつくようにテスト問題を解いている梨花。

 彼女に聞こえないように、「……梨花が単純で助かったよ」とボソリと呟いた俺は、彼女の邪魔にならずかと言って離れ過ぎない距離で勉強を再開させる。


「できた!! 大和、採点!!!」

「おー、思ったより早かったな。んじゃ、採点していくか」


 梨花がテストを受け始めてから一時間後、声を高らかにあげると答案用紙を俺に渡してきた。

 しかも、自信満々の様子。


「ふふん! 結構自信あるから、すぐにイチャイチャできるかもよ〜」

「一応、六割超えてたらご褒美にするつもりだったけど、もうちょっと高めでもよかったか?」

「大和、私を舐めちゃダメだよ〜。私が本気を出せば八割だってとってみせるよ!」

「そりゃ楽しみだ」


 彼女の自信に満ちた様子に少しばかり期待する俺。


 本来はテストを受けるのに時間制限を設けるけれど、理解度を知る為だったので今回はそう言うことはしていない。

 それなのにも関わらず、梨花が俺に渡してきたのは本来の制限時間と同じ一時間。

 しかも、自信に満ちた梨花の眼差し。

 これは期待をせざるを得ない。


 そして俺は自分の勉強を一旦置き、彼女のテスト採点を始めていく。

 採点が終わったのは、およそ五分後。採点が終えた俺の元に尚も自信満々の梨花が俺のそばに駆け寄る。


「どうだった? どうだった?? いや、言わなくても分かるよ! さ、思う存分イチャイチャを……って、大和? どうしたのそんなに頭抱えて! 具合でも悪いの!?」

「あー……うん、ちょっとな、これからどうしてやろうかと考えてただけだよ。気にしないでくれ」


 俺は正直、この時本気で悩んでいた。梨花をこれからどうしてやろうかと。目の前が真っ暗になるとはこの事を言うのかと。


 それだというのに、当の本人はと言えば俺が何に対して頭を抱えているのか、分かっていない。

「いや、気にするよ! どうしたの? もしかして昨日私がキス断ったの気にしてる……? 大丈夫だよ、今日はちゃんと歯磨いてきたから!」

 加えて、昨日のようにイチャイチャの話をする始末。

 はっきり伝えないとマズイとこの時の俺は悟り、心の内を話していく。

「うん、取り合えずしばらくイチャイチャの話は控えようか。結構、ヤバイから」

「……へ?」

 素っ頓狂な声を出す梨花。俺は無視して彼女に六割どころか四割も取れていない答案用紙を叩きつける。


「え……嘘……私、あんなに自信あったのに」

「公式の覚え方が中途半端。証明方法も雑。その自信のほどはどこから?」

「この頭から……?」

「だまらっしゃい!」

「ヒャいっっ!!」


 訳の分からない事を言う梨花に俺は思わず喝を入れてしまった。

 しかし、これも彼女の為と思って、俺は厳しい口調で畳み掛ける。


「とにかく、これから梨花には毎日俺の部屋に来て、勉強をしてもらう! もちろん、みっちりとな!」


 梨花の泣き顔に、ほんのちょっぴりときめいてしまったのは秘密だ。

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