第11話 一方その頃 2
「ほぉほぉ……あの城廻にキスをされかけたと……」
「そう! そうなのよ! その時の大和の顔がとってもカッコよくて……写真にでもとって今すぐにでも待ち受けにしたいくらい!!!」
「ははっ、そんな事したら梨花のスマホ叩き割るからね?」
「どうして!!?」
先ほどまで私の話を聞いてくれていた麻那が、突然笑顔のまま恐ろしい事を言い出した。
私はただ、大和が険しい顔でキスを迫って来た時の顔にキュンキュンして、まともに顔が見れなくなったから、その代わりにスマホで顔を見る練習でもしようかなって、口にしただけなのに。
しかし、大和への私の想いがどうでもいいといわんばかりの言い分が麻那の口から飛び出る。
「どうしても何も、梨花のスマホのアラーム止めてるの誰だと思ってるのよ」
「うっ……」
「そう言う事だから、待ち受けの話はまず、自力で起きれるようになってから!」
「むぅ……!!」
ものすごく寝起きが弱い私にはあまりにクリーンヒットな言葉。泊まり込みの時に同室だった後輩曰く「いつもの活発な先輩とは思えないほどのグズり具合」との事。
その結果、ルームメイトである麻那に一年生の頃からお世話になっている始末。寝起きの話題になると全くもって頭が上がらない。
かといって大和のカッコいい顔の待ち受け画面を諦めるかと言えばそれはノー! 断じてノー!!
絶対に諦めてやるもんか!!!
「じゃ、じゃあ、今日みたいに自力で起きれるようになったら待ち受けを大和にしてもいい?」
是が非でも譲らないという思いで、ダメ元で麻那に交渉してみることに。
すると、予想外の返事が返ってくる。
「まぁ、一週間ちゃんと起きれるようになったら、ね。どうせ無理だろうけど」
「言ったね? 一週間ちゃんと起きれたら、大和の写真を待ち受けにしていいんだね?」
「女の言葉に二言は無いよ」
麻那の、男顔負けのイケメンなセリフが───。
麻那が男の子で、私が大和と付き合ってなかったら、もしかしたら惚れてしまっていたのかも知れない。
だけど、それ以上に私は不安で不安で仕方なかった。
「大和がいくらカッコいいからって、好きになっちゃダメだからね!」
大和のカッコよさに麻那が魅了されてしまうのではないかと。
大和が今日見せた、真面目さから出る誠実味とは違う、“男らしさ”。すでに大和を好きである私がまた好きになってしまったのだから、麻那がそうならない訳がないとついつい考えてしまう。
けれど、麻那は違った。
「大丈夫よ、私のタイプじゃ無いから。私は筋肉が素敵な清潔感のある男性が好きなの。城廻みたいな、ヒョロヒョロのガリ勉野郎にはハナから興味ないから安心しなさい」
どうやら、大和を好きになる気配はなさそうだ。
「なら安心だね!」
満面の笑みを麻那に向ける。
「……彼氏をバカにされてるんだから、少しは怒りなさいよ。いくら私の眼中にないからってあからさまに喜び過ぎでしょ」
麻那が何か言っていたが、大和が麻那に取られないと分かったら、嬉しくない訳が無かった。
そんな感じでニコニコしながらベッドに腰掛ける麻那を見つめていると、呆れた様子で問いかけてくる。
「で、これからどうするのよ」
「どうするとは?」
質問の意図が分からず、私は思わず麻那からの問いかけを返してしまった。
「城廻の事よ。キスしないで今、生殺し状態でしょ? 次会ったらキスするのかって事よ」
今度は分かりやすく問いかけをしてくれる麻那。
「でも、初めてのキスはレモン味がいいし……今日みたいなトマト味のキスは嫌だもん……」
今回の質問の意図はよく分かったので、思っている事をそのまま口にしてみる事に。
「ん? レモン味? それにトマト味?」
質問してきた麻那は首を傾げていたけれど。
それから私は、理想のキスはレモン味がいい事。そしてキスをされかけた時は、トマトとウインナーの卵炒めを食べたばかりだった事を麻那に説明した。
その時の麻那の反応は───。
「夢の見過ぎね。というか、漫画の見過ぎ。それと、出された料理が全部自分のものと思うな」
「麻那……顔、怖いよ……」
まるで、般若のようだった。
いいじゃん夢見たって。いいじゃない漫画を見たって。
料理に関してはごめんなさい、反省します。
こんな言葉が脳裏に過ったけれど、あまりの麻那の顔の怖さに声に出すことはかなわない。
すると、怒りが相当溜まっていたのだろう。
「当たり前でしょ! むしろ、今まで怒らなかった事を感謝してほしいね!」
怒りを露わにする麻那。
しかしそれは、私が泣きながら部屋に戻ってきた時の怒りとはまた違くて───。
「部屋戻って来た時に怒ったじゃない……」
「あれは梨花が無断で寮を出ていったからでしょう。自業自得よ」
「じゃあ今回のは?」
「私怨よ。私に彼氏ができなくて梨花には彼氏がいる事のね」
「ちょっと理不尽過ぎない!?」
あまりにも理不尽なものだったのだから、驚きだ。
しかも、自分から私怨だと認めているのだから尚更だ。
しかし、麻那にも言い分があるみたい。
「そもそも恋愛話自体が理不尽なものなのよ! いい勉強になったわね!」
「ううぅ……こんな勉強したくなかったよぉ……」
私が再び泣きそうになると、少しだけ満足げだった。
本当に私怨だったのだろう。私以上に、女らしくてしっかり者の麻那だからこそ、溜まっているものがあったのかも知れない。
そんな彼女に少しぐらい恨まれるのは、あまり嫌いではなかった。
とはいえ、やはり麻那に怖い顔をされるのはもうこれっきりにしたい、そうとも思えた。
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