適材適所
@misaki21
第1話 適材適所
息を切らせた垂れ目の男とぐっしょりと濡れそぼったコートを交互に睨み、痩躯(そうく)の女は奇麗に並んだ白い歯を剥き出しにした。
「ほうら! だから嫌だったのよ! 毎回毎回これじゃあ――」
「何?」
と垂れ目の男は聞き返す。痩躯(そうく)の女は「もうウンザリだって云ったのよ。別れましょう」と吐き捨て返事も聞かずに踵を返すと、呆けている男を残して雨へと駆けて行った。
ぐしょぐしょでアパートに辿り着いた男の前には見知らぬ外国人が一人立っていた。警官か軍人か、そんな様式の制服を着ている。
「早速ですがご同行願います。一刻を争いますので詳細はヘリの中で説明します。おい!」
外国人警官が右腕をぶんと振るうと、見慣れない機具で完全武装したコマンド数人が沸いて出て、垂れ目の男を取り囲んだ。ぐう、と云う暇も無く男は黒塗りの2ローターヘリに担ぎ込まれ、暫くするとヘリはどこかの小さな空港に降り立った。どやどやとジェット機に押し込まれ、居心地の悪い沈黙が数時間、垂れ目の男を襲った。おぼつかない足取りでアスファルトに降り立った男に、砂っぽい熱風が吹付けた。
「国王に会っていただき、すぐに作戦を開始します」
垂れ目の男は武装コマンドに引きずられていった。
「説明してくれ!」
とうとう男は叫び声を上げた。外国人警官が「おう!」と漏らし、険しかった表情を目一杯崩して垂れ目の男の肩をそっと撫でた。
「これは失礼。では簡潔に。ここボガン王国は今年に入ってすぐ数百年来のかんばつに襲われ数万人の餓死者を出し、そしてその数は現在も尚増加中なのです。ボガン王国からの援助要請を受けた我々国連超自然現象機構は、この事体に対処すべくあらゆるエージェントデータを検索し、あなたを適任者として選出しました」
「適任者?」
「はい。あなたは間違いなく世界最高の……」
「世界最高の?」
「……雨男ですから」
――おわり
適材適所 @misaki21
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます