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◇
そんな彼女に、僕はプレゼントを買いたいと考えていた。
誕生日は十一月だそうだからまだ先だけど、べつにクリスマスとか特別な時じゃなくたって、感謝の気持ちを伝えたいことはある。
だけど、何にすればいいのか、まるで思いつかない。
そもそも、空気として埋没することばかり考えて人との交わりを持たないようにしてきた僕が人に贈り物をしたいと思うようになったこと自体、天変地異なのだ。
それを形にするとしたら何がいいんだろうか。
笹倉高校周辺は古い城下町で、昭和から続く喫茶店とかはあるのにおしゃれカフェやハンバーガーショップは一軒もなく、観光客向けの土産物店や老舗の和菓子屋さんばかりで、困ったことに高校生向けの寄り道スポットというものがない。
夏休み中に、どこかショッピングモールにでも誘ってみるのもいいかもしれない。
そこで彼女の好みをさりげなく観察しておくという作戦だ。
たしか成山の一つ手前の成山西駅に、駅から直結の大型ショッピングモールがあったっけ。
暑い中歩かなくてすむからちょうどいいんじゃないだろうか。
「ねえ、それなら映画を見に行くってどう?」
本来の目的を隠して上志津さんをショッピングモールに誘うと、ただでさえ大きな目を輝かせながら、両手を重ねるように僕の手をがっちり握られてしまった。
「なんかいかにもデートって感じじゃない?」
ちょ、ええと、喜んでくれるのはうれしいんだけどさ。
ここは図書館なんだけど。
周囲の目に気づいて、顔を真っ赤にしながら亀のように首を縮めた彼女が唇に人差し指を立てる。
今さら遅いけど、僕らは小声で話を続けた。
「私、この前のスウェット着て行っちゃおうかな」
「なんでよ」
「冗談だってば」
実は困っているのは僕の方だ。
また花火大会の時みたいにポロシャツとジーンズでいいんだろうか。
いっそのこと、二人とも制服の方が高校生の放課後デートっぽくていいかもしれない。
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