(1-6)
◇
翌日は、高速道路に入る前に、広い駐車場のあるお土産屋さんで休憩することになった。
家族にお土産を買えるのはここが最後ということで、みんなはクッキーやら饅頭などを買い込んでいた。
僕は立て替えてもらっていたリフト代を返していなかったので、上志津さんに現金で渡した。
「じゃあ、これで何か思い出になる物を買おうかな」
きれいな模様のグラスとか、陶器でできた置物、水の中でオブジェが動く昭和っぽいボールペンなど、様々な土産物を見ていく中で、彼女が目を留めたのはちょっと変わった砂時計だった。
円筒形の木枠の中に、中央のくびれたガラス容器がはまった形だけど、そのくびれがらせん状になっているのだ。
「珍しい形だね」
「ね、これ、いいでしょ」
滴のような丸いガラスの底に純白の砂が円錐形に積もっているのは普通と変わらない。
彼女が逆さまに置くと、らせん状の管を通って砂がぐるぐると滑りながら落ち始めた。
途中で引っかからないかと気になったけど、案外スムーズに流れていく。
「砂時計って不思議だよね」
何が?
「残された時間が目に見えるでしょ。それに、下に落ちていく砂は降り積もった思い出の量を表してるわけで、それって過去で未来を刻んでるようなものでしょ。そういう時計って他にないじゃない」
そう言われてみれば、振り子の往復とか、歯車の回転でも、日時計の影にしても砂時計の砂とは意味が違うような気がする。
それに、砂が落ちてしまえば、もう時を刻むことはない。
未来の終わりが見える時計は他にない。
「上も下もなくて、ひっくり返すと元に戻る。だけど、時が戻るわけじゃないっていうのもなんか不思議」
同じ時間を繰り返しているようで違うのか。
「同じ時間を積み重ねていると言うべきなのかな」
「君が言うと、急にロマンのかけらもなくなるね」
「ごめんね、こんな僕で」
そうつぶやくと、彼女が僕の顔をのぞき込んだ。
「そんな君じゃなくちゃイヤだけどね」
笑顔を見せる君に釣られて僕も笑みを返した。
その瞬間だったような気がする。
僕らの砂時計に時のかけらが降りつもり始めたのは。
「じゃあ、これにしようっと」
彼女は砂時計を宝物のように両手で包み込んで会計をしに行った。
三分間を刻む砂時計。
僕から彼女へ。
彼女から僕へ。
二人の間で受け渡し始めた時が行き来する。
それが永遠に続けばいいなと僕は願っていた。
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