(1-3)
◇
部屋に戻ったのは夕食の予定時刻間際だった。
みんな罰ゲームのことなどすっかり忘れていたらしく、スマホゲームや動画鑑賞に夢中になっていて、僕を迎え入れる者など誰もいなかった。
「ごめん、うまく撮れなかったよ」
失敗したインスタント写真を見せても、まったく興味もないようだった。
「時間かかりすぎだろ」と、池田がカメラを受け取る。「みんな飽きちまったぜ」
「声をかける勇気がなくて、なかなか踏ん切りがつかなくてね」
「ヘタレだなあ」
あきれてはいたけど、最初から僕に期待していたわけでもなかったらしく、怒っているのでもないみたいだった。
写真を獲得するはずだった男は手ぶれ失敗写真を投げて返した。
「あんまり遅いから捜索願でも出そうかと思ったぜ」
「まったくだよな。山で遭難でもしてたのかよ」と、池田が笑う。
あながち間違いでもなくて、ドキリとした。
「おまえに行かせたのが間違いだよな」
散々な言われようだったけど、時間がかかりすぎたことを疑うやつはいなかったし、もっと問い詰められるかと思っていたから、それはそれで僕にとっては都合の良いことだった。
畳の上に放置された写真はいちおう僕がもらっておくことにした。
夕食の時間になって昼と同じ大食堂にみんなが集まる。
席に着く途中で、野村さんが池田の背中を叩いた。
「さっきの罰ゲームって、何よ、あれ。堂々とみんなで来れば良かったじゃん。あたしたち待ってたんだよね」
まわりの女子たちも同調して怖い顔をしている。
「なんだよ。森崎の野郎がさ、ヘタレでさ」
「あんたらが自分で来ないのがいけないんでしょうよ」
僕の代わりに正論でとっちめてくれてありがとうございます。
「じゃあ、飯食ったら行くからさ」
「明日は本番の山登りだし、お肌にも悪いんで、わたくしたち早く寝ますので」
女子連中がゴメンアソバセと去っていく。
なんだよ、ちきしょうと悔しがっても後の祭りだ。
ただ、こんなふうに軽口を言い合えるのも今だけだった。
男連中だけで夜更かしをしていたその晩は、翌日の登山のことなど、みな甘く考えていたのだった。
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