第3話

 親は何処にでも居る普通の会社員で、貧乏ではないが然程裕福でも無く、心根は優しく只々良い人だった。

 だが親戚はクソだった。

 夫婦揃ってどうしようもないクズだった。

 田舎の良くある長男教の申し子みたいな、自分さえ良ければいい、何処までも自己中で我を通す事しか考えていない、よく思い返せば会話もまともに成立してたか怪しいくらいだ。


 母は長女で面倒見がよく、其々が家庭を持ってもよく行き来していたと思う。

 正直親戚なんて居なければ良かったとさえ思うが、当時は好かれようと幼いなりに気を遣っていたんだと思う。


 ソレがいつ始まったか定かでは無いが、小学校に上がって暫くしたら無くなったように思うが…叔父である廣樹小太郎の性器を触らせられていた。

 誰にも言わずに二人だけの秘密だよ、とか色々言い含められて居た気がするが、当時は悪い事をしている?させられているとは思わなかった。

 ただ漠然と誰にも言ってはいけないんだと、ソレが無くなったのも自分が何かしてしまったんだと、自分が悪いんだとさえ思っていた。


 成人して彼女も出来、性行為も人並みに楽しんでいたとは思う…が、時々…どうしても思い出してしまう時があって、何であんな事してたんだろうとモヤモヤとするものがあった。

 六年も付き合えば結婚の話も出たが、ソレを話す事も考えたが、「二人だけの秘密だよ」の呪縛に囚われたまま別れた、まぁ他にも有った訳だが…。


 司法もクソだと思うのは時効がある事。

 親には知られたくなかったし、性的虐待が話題に登る度に嫌な思いをし、無関係を装う事すら苦痛に感じていたが、ふと何気に時効を調べて見たらとっくに過ぎていた。

 あ、なんだ…と気が抜けると共に何とも言えない絶望とやるせなさに落ち込んだ。

 直ぐに声を上げれない自分が…また自分が悪いって思わなきゃいけない理不尽さに心が哭いた。


 叔父の葬式の時ずっと「地獄に落ちろ」と心の中で唱えていたが、死んでからもこんなクズの為に自分を穢すのが辛くて、考えるのを止めた。


 だが自分の不幸はまだ終わらない。

 親が旅立ち、遺産の相続等整理をしていたら、叔父の家がウチ名義になっていた。

 調べたら、祖父が自分の長男である、叔父に家を建てて上げていたようだが、ずっと祖父が税金を支払っていた。長男の嫁である廣樹恵美子の事を祖父母も嫌っており、アイツに老後の世話を頼んだら即施設送りになるから、どうか自分達の面倒見てくれと母に土下座をしていた記憶がある。


 ちなみに叔父も叔母を嫌っていたようで、自分の子供に「ママと結婚したのは失敗だった」と話し離婚騒動になっていた模様。さっさと別れておけば良かったのに。


 今になって思えば、家の税金なんかクソ女が死ぬ迄放っておいて、売りに出せば良かったと思う。

 追い出しても良かったんだが、あの時はさっさと名義変更して、縁を切らなきゃいけないと強迫観念に囚われていた様に思う。

 マジで日本人の振りした地球外生命体だったんじゃないか…なんて死んだ今は冷静に分析出来る訳で…。


 まぁ、甘くみてたね…想定外だらけだった。想定内だったのは、頭オカシイから、ボイスレコーダーは起動しとかないといけないなと思った事だけ。

 名義がウチになってるから、変更して欲しいと伝えると出てくる暴言の数々…。


「夫の死んだ時何かしてくれましたか?葬式の時何かしてくれましたか?式には出てくれてましたけど、何をしてくれたって言うんですか!」


(いや、香典ちゃんと出してますけど?十万は包んでたし。親戚付合いも二十年以上ないのに…)


「葬式の後線香の一本もあげに来ず、体調どうとか聞いてくることもなく、いきなり来て家の名義がどうとか何なの!」


(そもそも祖父母に線香の一本もあげに来てないのお前な!体調伺うとかお前何様だっつーの。そして、旦那死んで色々名義変更した時に、家の名義が無いこと、税金が請求されて無い事知っててスルーしてただろうが!)


「本来なら、山は誰で、家は誰でって、私は嫁なんでいいですけど、兄弟同士で話し合いがあるべきでしょ」


(兄弟間での話し合いはちゃんと有って、お前が邪魔して纏まってたのが消えたんじゃねーか)


「あんたの母親は犯罪者やでね、判子偽造してお爺ちゃんの口座や保険解約してお金全部おろして自分の物にした、山も田んぼも自分のものにして、さらにこの家まで出てけって言うんか」


(ほんとクズだわ…そもそも祖父が生きてる時に、祖父の指示で動いてる。銀行や警察が動いていない。意味分かってますか?そして「贈与」の話ししに来たのに、出てけなんて一言も言ってない…)


「財産は長男が普通全部継ぐもので、嫁に出たあんたの母親が持ってくのはおかしい」


(遺言公正証書があると言えば)


「ボケたおじいちゃん騙して書かせた、本当は私の息子が全部貰うのが筋でしょ」


(あんたに相続させたく無いから色々手を打ったんでしょうね…そもそも認知症なって無いし)


「私の母が亡くなったときに何してくれましたか?」


(連絡も無いのに、どうやって死んだ事を知れというのか?とりあえずお悔やみは伝えて、自分の父が亡くなった事を伝えたら、教えてもらえなくて私辛いわ、しか言わなかった…何処までも自分の事だけですか…)


「あんたの母親ははまだ認知症なってないんでしょ、健康なんでしょ、いいわね」


(なんじゃそら…いや病気もしてるし、手術も受けたし、健康かと言われると微妙なんだけど…ハァ…)


 まだまだ言われたけど切りがないし…あ、物凄い剣幕だった事、目も釣り上がり酷い形相だった事を付け加えておく。とりあえず警察に被害届出すって事と、家は買い取るか出てくかどっちか選んで、と、今後はそちらの雇った弁護士通してしか対話しない事を告げ帰宅。

 次の日、職場に現れたクソ女に刺されて死亡。


 マジで仏も神も悪魔も居ないんだと、ろくでもない人生だったと、神を恨んだね…まぁ、神様っぽいのには今会ってる訳だが。


「なぁ、当然こっちの願いも聞いてくれるんだよな?」

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