第72話 最終兵器君

§  §  §


最終兵器君こと、羽雪優斗うゆきゆうとは、邪神の門の前で迷っていた。

(……どうすればいいんだこれ? なんか魔獣とか出てるし……これって魔王が出た時と同じ感じなんだけど……」


スマホを操作して、今回の依頼人の「賢者」こと与謝峰琴音よさみねことねに連絡をする。


『魔獣出現。俺はどうすればいい?』


メッセージを打つとすぐに返信が帰ってくる。


『……倒しておいて。のぞみちゃんも呼んでおいて。私もすぐ行くから。無茶はしないで!』


(おけ。えっと……これだったかな?)


羽雪優斗うゆきゆうとは賢者から渡された魔道器具を起動させる。何かの力が働いたようでちかちかと光り出す。


(……ほんとこれでいいのか? 救難信号みたいなものなのかな?)


彼は魔道器具に返信などの反応が無いので不安になっていた。

迷い込んで襲ってくる魔獣を手にした剣で一瞬に黒い煙に返していきながら考えていた。


(ここって、「不死の魔王」の居城と雰囲気が似ているんだよな……)


前回の邪神軍との決戦にもぐりこんだ際の敵の居城にそっくりなデザインの外観がさらに彼を不安にさせていた。


「助けてください!」


逃げ遅れた見覚えのある女性研究員が羽雪優斗うゆきゆうとの方へと助けを求めて走ってくる。その後ろからは巨大なヨマタノオロチがはいずり、研究施設を壊しながら移動をしてくる。


「あ、ちょっと待っててね……」


羽雪優斗うゆきゆうとは一瞬にして姿を消すと、ヨマタノオロチの胴の前で剣を刺した状態で静止していた。


「よいしょっと」


彼が剣に魔力を込めると、巨大だった魔獣は一瞬にして黒い煙へと変わっていく。


「あ、ありがとう……あんなに強い魔獣を……本当に最終兵器なんですね」

「……その呼び名はなんとかならないですかね……ってか、大丈夫なんですか? この施設」

「……施設はめちゃくちゃですね……放棄して逃げる指令が出てたんですけど、逃げ遅れた人誘導してたら……」


さらに襲い掛かってくる魔獣を切り裂きながら彼は考える。


「……しばらくここいた方が安全ですね」

「お手数おかけします……助かります……」

「この門を絶対に守るようにって言われてるけど……」

「中になんかいますよね、コレ……」

「ですよね……何から守るんだろ?」


羽雪優斗うゆきゆうとは思考を賢者に完全に任せていたので、現在イレギュラーが起きて大変になっているのを認識せずに、彼女の思惑の範疇なんだと思い込んでいた。

言葉の祖語があり、賢者としては門の向こう側を守る話だったはず……だったが彼は門の手前側を守っていた。


§  §  §


海波、瑠衣、紅華、寛治の四人は爆心地の研究施設から逃げる人間を横目に中へと侵入していた。周囲一帯が魔界の様な感じになり、魔獣がそこら中から出て来ているのに驚きを隠せなかった。


「すごいね……最後の決戦の時みたい……」

「そうだね……」


「こんなんだったのか……まるで地獄の扉が開いたみたいだな……」


(確かに、地獄みたい……黒い触手や穴……紫色の魔力みたいなものも見えるね……)

(俺は経験できなかったが……酷いものだな……)

(どうしよう、彼女達と一緒の行動だと、何か間に合わない気がするね)


「俺が先行しようと思う。瑠衣を守って門のところまで安全に来てくれ」

「え? 一緒に行った方が……」

「俺が行きたいところだが……美来みくを頼む」

「もちろんだ」


「行っちゃった……」

「団長、よかったの?」

「緊急事態だしな。俺らはじっくりとルイーゼを送り届ければいいだけだろ?」

「そうなんだけど……」

「なに、あいつらは前世で付き合ってたんだろ? ちょっとイラつくが……悪いようにはしないだろう」


「……」

「ちょっと、団長! デリカシーないな!」

「え? あ、すまん。そう言う関係だったか……」


三人になると、周囲での戦闘音が大きくなっていく。

自衛隊の特殊対策課が投槍機等、対魔獣用装備をフル活用して魔獣をせん滅していた。

若干押され気味に見えたが、寛治は助けに行きたそうな二人を見て行動を促す。


「今回は無視だ。行くぞ」

「うん」

「了解」



§  §  §


海波は進路上に出現する魔獣を切り裂きながら突き進んでいく。


(武器もパワーアップしてるね。刃こぼれしないね)

(そうだな。紅華と蓮輝には感謝をしないとな)

(ゼフ……君の力も使っているだろ……)


(それにしても……)

(凄い力が二つ……だね)

(邪悪な力と女神の力だな……どうなってるんだ?)


海波が壊れた近代的な扉を通過すると、目の前に強大な力を持った人間が待ち構えているのに気が付く。彼の足元には大量の魔石のかけらが散らばっていた。


(すごい……これ、全部魔獣の魔石じゃ……)

(そしてこの力か……困ったな……無傷じゃ終われないレベルだ……)


羽雪優斗うゆきゆうとは突然の来訪者に驚きと同時に魔獣に対する警戒以上に気を入れなおしていた。

若干緊張した感じの声になり、女性研究員に尋ねる。


「……知り合いですか? えっと……ピエロ仮面?」

「ち、違います……今、世間を騒がせている転生者ですね……」

「うーん、なんか……悪役っぽい格好だな……」


(え? 悪役?)

(……道化の仮面に黒ずくめの軍服……この組織の幹部らしき人間と面識が無し……しまったな。自分より強い人間はいないと高をくくっていた……)


海波の体は冷や汗をかき始める。


「すまないが通してほしい。その扉の奥に用事がある」

「それはできません! あなたほどの魔力を持っていれば分るでしょう! 邪神の魔石があるんです! 開けたら色々な封印が解けてしまいます!!」


女性職員の本気の叫びに海波は戸惑う。

(……え? そうなの?)

(封印……解けている様に見えるな……転移魔法陣で封印の先に入ったのか……困ったな)


羽雪優斗うゆきゆうとは女性研究員の話に素で驚いているようだった。

「そうなんですか? 困ったな……聞いてないんですけど……また無茶ぶりか……」


(あの門番も知らないのか……)


「中に人がいるのはわかるだろう? そいつに用事がある」

「わかるけど……でも中にいる人って……邪神ソベーレの神官だよね? ちょっと通すわけにはいかないかな……」


「ならば……押し通らせてもらう」

「……僕は結構強いですよ? 良いんですか?」

「守りたい人が中にいるからな……」


二人は一瞬にらみ合うと、次の瞬間には剣のつばぜり合いをしていた。


§  §  §


紅華、瑠衣と寛治は施設内にはびこる魔獣たちを撃退しながら進んでいた。

周囲では特殊対策課が魔獣対策用の武器などを使って退治をしていたが、魔獣の数の方が勝り、じり貧になっている感じだった。


「ちょっと魔獣が多すぎじゃない??」

「なんかあたし達が集中攻撃されている感じが……」

「ぼやく暇があったら蹴散らせ! くそっ!! 美来みくは大丈夫なんだろうな?」


寛治が焦りながらも凄まじい勢いで剣を振りながら魔獣をなぎ倒していく。

その様を見ていた瑠衣が疑問を紅華だけに聞こえるように話す。


「ねぇ、紅華ちゃん……寛治さんって美来みくさんの……なんなんだろ?」

「……あたしもそう思った。海波が転生しているのを知ったのがつい最近だとしたら……」

「彼氏だよね……私どうしたらいんだろ……」

「……ここは成り行きに任せて、上手い事かっさらうか……」

「紅華ちゃん……こちらの世界に染まりすぎだよ……私はドロドロしたの苦手なんだけど」


瑠衣と紅華の手が完全に止まっているのを寛治が見つける。

「しゃべってないで手を動かせ!! 何でこっちの世界に来てまで雑談するんだお前は!!」

「あ、すみません。ほいっと!」


紅華が止まってた手を動かし、魔獣を両断していく。

気を取り直して移動を開始した一同の進路上に巨大な魔獣の姿を発見する。


「ちょっと! ヨマタノオロチいるよ!!」

「げっ!! この数にあいつか!! 研究員達が……」

「助けるの?? 間に合わなくなるかもよ?」


三人が迷っている間に、彼らの真後ろに重量のある物体が落ちる音がする。


ドン!!


「えっ?」

「なんだ?」

「魔道機械人形?」


砂煙の中、話に聞いていた魔道機械人形が着地姿勢から立ち上がる。


「ちょっとやばいんじゃないの?」

「敵なの?」

「困ったな……」


魔道機械人形の腕が銃のように変形し、強力な魔力の収束を感じる。

一同に緊張が走るが射線に三人が入っていないのに安堵する。


スドーン!!!


魔道機械人形から放たれた魔力ビームがヨマタノオロチの腹の核を正確に射貫き、黒い煙へと変化していく。

「……すごいのね……」

「さすが法の番人」

「……んで、俺らはどうなる?」



警戒する三人に魔道機械人形は話しかけてくる。

「女神ノ力ヲ確認。コチラヘ来テクダサイ」

「え? あの……?」


「行こう。女神さまの力を……導いてくれるのを感じる」


瑠衣は、魔道機械人形の核に、女神エネリエスの力を感じていた。


§  §  §

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る