第70話 召田宗麻の行方

§  §  §


遠地寛治えんちかんじたちは、突然後ろから湧いた大量の魔獣を薙ぎ払いながら転移魔術陣が置かれた部屋に到達した。かなりの魔獣が彼らの横を走り抜け、外の方へと向かっていった。

紅華が最後尾に立ち仲間を守りながら、魔獣たちを一振りごとに煙に変えていく。


「みんな早くそっちの部屋に! ここは私が守る!」

「すまない! ……まさかこんなことに」


謝る寛治に対して蓮輝が素直な感想を返す。

「ありがとうございます。ここまで戦えるなんて知りませんでした」

「あーいや、あははっ……前回は色々あってな……」

「やっぱり団長だったんだね……」

「ああ、すまん……心が折れちまってな……あ、多分その魔法陣だが、行先わかるか?」

「はい、ちょっと待ってください」


蓮輝と前世が魔術師だった人間達が集まって魔法陣を解析する。


「あまり前世の記憶と変わらないな……」

「これが座標か? 魔法陣は使えなくされてるね。時限式かな?」

「ほら、ここの場所だけ書いた人間が違うだろ? 使い捨てかと」

「ああ、そうだね。座標だけ書き換えたのか。とすると……座標……誰かメモを、あ、助かるよ」


蓮輝がメモに何やら書き写している数字を見て、魔術師がスマホと地図を使って場所を割り出す。


「……これって……」

「……だね」

「ああ、しかも。おそらく……」


寛治が不安そうに彼らの事を見守る。


「どうしたんだ? ん? もしかして、「爆心地」なのか?」

「しかも、我々が侵入できなかった巨大な門の奥ですね。おそらく」

「魔道機械人形が見張ってたところか……」

「この魔法陣自体はもう使えませんね。転移魔法陣に詳しい方がいればいいのですが……」


寛治は暫く考えた後、緊急用として保管されていた魔法陣の巻物を手に取る。

「ああ、それなら近くまではいくことはできるな……だが……あそこは特殊対策課のテリトリーだ……困ったな……」


蓮輝が筆記用具をバッグにしまいながら移動の準備をする。

「それなら……大丈夫なんじゃないかな。今は。研究所の主任が……えっと……道化仮面君の知り合いだから通してくれるかも」

「それじゃ、善は急げだな」


一行は紅華と寛治を先頭に来た通路を戻っていった。


§  §  §


石切り場の前の広場は魔獣と転生者達の乱戦状態になっていた。

大量に沸いてくる魔獣に後手を踏み、移動できない状態になっていた。


切那せつな一休いっきゅうが前線に立ち、魔獣を葬り去り続けていた。

「チッ! 後からあとから!!」

「弱い魔獣だが数が酷いな……」


海波も仲間を守るように魔獣を切り裂いて撃退していく。が、目の前の事よりも中に潜入した蓮輝と紅華の事を気にしていた。

(中は大丈夫なのか?)

(かすかに戦う音が聞こえるね。無事みたいだけど。助けに行かないと……)


「ディムメス卿! 仲間を頼む!」

「? 分かった任されよう」


海波は時空騎士ディムメスこと元次げんじに声をかけた後に、石切り場の扉に向かって風のように魔獣を切り裂いて突撃していた。移動するたびに魔獣が黒い煙と化していき彼の移動痕から黒い煙が出ているかのようだった。


「すげぇな。アタシも行くよ! ソーマを止めないとな!」


切那せつなも気分が昂った様で、海波に続いて通路の方へと突っ込んで魔獣を片っ端から黒い煙にしていった。


彼らの戦いぶりにその場にいた半数の人間が呆気に取られていた。

後衛で守られるようにその場を観察していたユキナが思わずつぶやく。

「すごいね……あの人たち」

「ああ、一般兵士だった俺らと全く違うな」


歩夢も「光の女神教」の信徒達も彼らの強さだけが異常な事に気が付いていた。


§  §  §


海波は魔獣を消し去りながら奥へと進んでいく。後ろからは切那せつなが近づいてきている様で、彼女が後ろからの攻撃などを防いでいる形になっていた。


(あ、いたいた。良かった。無事みたいだ)

(あの様子だと丁度彼らの潜った後に魔獣が出現したようだな)


「あ! 海波君! 助かったよ!」

「アンタ、相変わらずすごいのね」

「……黒の双剣……ここまで強くなかった気がするんだが……」


寛治が目の前の魔獣を切り裂きながら呆れた感じで海波を見る。


「無事でよかった」

「ありがとう。海波君。ほんとに助かったよ!戻れなくて困ってたんだ!」


紅華が魔獣が蹴散らされ、先ほどと比べるとかなり閑散とした感じの通路を見て不思議がる。

「あ、海波。宗麻そうま見なかった?」

「いなかったと思うのだが……」

(魔獣しかいなかったよね)


海波が後ろを振り返ると、切那せつながすぐ後ろに到着する。


「おい! あの最低野郎、ソーマはどこいった?」


寛治が若干曖昧な記憶を話す。

「ん? 俺が見た時は……魔石貯蔵庫にいた気がするが……? 無事じゃないかもな……」

「? ……これは奴の召喚だろう? 何故いない??」


一同は顔を見合わせた後に、魔獣を呼んだであろう召喚魔術師がいないことに気が付く。

切那せつなが魔術師達が持っている離脱用の転移魔術の巻物に気が付く。

「なるほど……逃げられたか……この魔獣はすぐには消えないか……おい、道化仮面。心当たりはないのか?」


(ソーマが行きそうな場所……)

(提子だろうな……彼女の力を使えば巨大な魔獣が召喚できる)


「おそらく提子のいる所に向かった可能性が高いな」

「……あのお嬢ちゃん人気者だねぇ……くそっ。魔獣をなぎ倒して戻るぞ! 摩帆まほの力を借りないと大変な事になりそうだ」


その場にいた人間は、提子と宗麻そうまが呼び出したヤマタノオロチの事を思い出していた。


§  §  §


召田宗麻しょうだそうまは心の中に響く声に従って空間転移した場所に戸惑っていた。辺りは暗い状態で、遠くに非常灯の様なものがぼんやりと光っているだけに見えた。


(ああ、ここだよな……ってか非常灯だけかよ……)


出口がどちらかを探していると懐中電灯の強い明かりが彼を照らす。

「ちっ……ってまぶしーな、あんた誰だ?」


「ああ、君の案内人だよ。君もお告げをもらったんだろう? おや? 二人いたような気がしたが……」


そこには作業着の様なものを着た鼓動正史こどうまさしが懐中電灯を持って立っていた。何かを感じた様でキョロキョロと周囲を警戒していた。


「ん? ああ。見ない顔だな……あんたも心の声に導かれた……のか?」

「……心の声……そうだな。ソベーレ様の導きだろう」

「……これが邪神ソベーレ……神の導き。こっちの方がよっぽどうまく行くぜ……」

「……それは良かったな。こっちだ。急げ」


鼓動正史こどうまさし召田宗麻しょうだそうまを連れてその場から足早に立ち去っていった。


彼らが立ち去った後、丸亀礼音まるかめれおんは姿を現す。

(まさか黒幕が異能者管理組合の幹部とはね……さっさと殺すべきだったかしら……)

丸亀礼音まるかめれおんは蓮輝からもらった魔法の薬を飲むと彼らの尾行を続けた。


§  §  §


石切り場の前の魔獣はあらかた討伐されていた。

ただ、全部を倒しきれた訳ではなく、「光の女神教」の信徒達が散っていってしまった魔獣を討伐しにで払っていた。


蓮輝が先ほど回収してきた魔法陣の巻物をもって雲梯摩帆うんていまほに近づいていく。

「ゴスロリさん! この行先は爆心地の近くでいいよね?」

「ゴスロリ!! マホって呼びなさぁい!! ん。ちょっとまってね。爆心地のはずれだね、これ使い捨ての魔法陣だから、四人くらいしか行けないよ? 他のは……カンクに使われたか……」


雲梯摩帆うんていまほが他の巻物を片っ端から広げ、何やら試案を始める。


蓮輝が巻物を見つめて書き換えに時間がかかるからすぐに使えるのは一つだけだと判断をする。

「四人か……誰が行く?」


(爆心地……母さんが心配だ……)

(ラケシスも心配だ……)

「俺が行く」


海波が名乗り上げた後すぐに、遠地寛治えんちかんじも名乗りを上げる。

「俺もだ。美来みくを助けなければ……」


縮圧元次しゅくあつげんじ

「正直なところ寛治より私が行った方が良いだろうが……必ず美来みくを助けるんだぞ?」

「分かってる!!」


瑠衣が行くメンバーが決まっていくのを見て焦るように名乗りを上げる。

「ちょっとまって! 私も行くよ。邪神の巫女封じれるのって私とシキちゃんだけだし」

「私も行くからね! 瑠衣ちゃん守れるのは私だけ!」


紅華が慌てて名乗りを上げる。その様を見ていた切那せつなも行きたそうにウズウズしている感じだったが、ふと思いなおす。

「アタシも行きたいが……命の巫女の能力知らないしな……今回は譲るよ。ってか、すぐに移動した方が良いな……おい、お前ら! 戦場にしたくない人間はアタシについてこい!!」


伴戸志姫ともどしきはその場で全員に聞こえるような大声で呼びかける。

「私たちが残りの魔獣をなんとかします! あなた達は爆心地へ! 嫌な予感がします!」

「すまん! 任せた」


海波達が魔法陣で姿を消すと同時に切那せつなの呼びかけに主だったメンバーが移動を開始する。


消えるような速度でいなくなった異界倶楽部のメンバー達を見て蓮輝達、魔術師組がドン引きする。


「う、みんな早いな……」

「アンタらはちょっと待って。脳筋と一緒じゃつらいでしょ……5分くらい待って。」


残った雲梯摩帆うんていまほがそう言いながら魔法陣の行先を書き換え始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る