第69話 交渉のはずが
§ § §
魔法陣のスクロールや、魔石などが置かれ、魔道資材置き場となっている感じだった。
直ぐに逃げないのに焦れた提子は
「あ、あの早く逃げた方が良いと思うんだけど……」
「それは、君への神の啓示でもあったのかい?」
「え? そう言うわけじゃ……」
「なるほど……神の啓示はあったけど無視している感じか」
「え? なんでそんなことを……」
提子は神の啓示、邪神ソベーレからの交信があった事が何故わかっているのかを理解できていなかった。だが勘の悪い提子から見ても、
「はぁ……ここまで来て気が付かないとは、ほんとお前は愚図じゃな……」
「……へ? あ、あの……カンクさん……どうしたの……」
「まぁ、いい、あの時の失敗は不問にしてやる。今から神の啓示を速やかに実行する……そうすれば許してやろう」
「ちょ、ちょっと……なに? なんなの?」
「ひっ! それなに? ま、ま、ま、まさかあなた、邪神の神官なの?」
「ほんと勘の悪い奴じゃ……転生してまでもそんなものとはな……リアノよ。いい加減分かるがよい」
「……ま、ま、まさか……ドロスカル様……そ、そんな……」
提子は一目散に逃げようとするが、黒い触手が彼女の下半身を包み込み移動することが出来ない状態になっていた。
「はぁ……ここまで使えない奴とは……それだけの加護の力を持ちながら……少し罰を与えねばな……」
「やめ、やめて……」
「ぐぐぐぉ……に、逃げろ……ぬぐぐ……邪魔しおって……早く……助け……を」
「え? は、はい……」
提子は、
「あ……ぐぐっ……い、いたい……」
「逃げるな……くそっ……我が魂ながら強い意志じゃ……逆らいおって……」
「な、なんなのぉ……一体……」
提子は行動に一貫性のない
「良いか、今からお前のやることは……今からくる女神の巫女に『戒めの力』を使うのじゃ……それだけで良い……あとはワシがなんとかする。わかったか?」
「は、はひ……」
遠くから二人の駆け寄る足音が聞こえる。
「ちょっと? 大丈夫なの? 悲鳴が聞こえっ……え?……うごか……」
提子の様子を見ようとかがむ姿勢になったのと同時に
ドサッ!
後ろから駆け寄ってきた
「え?
「やれ!」
「ひっ!!!」
「な? くっ!! これは!! 加護が絡み合って発動しない?」
「……ゆっくりとおやすみ……女神の巫女よ」
「え? カンク君……」
「さて……これで鍵と人質がそろったか……行くぞ。リアノ」
「ひ、い、痛くしないで……」
「ちっ……転生しても気質は変わらんか、ほれ、早くその魔法陣に乗れ……」
魔法陣を発動させようとすると、
「……なるほど……神よ感謝いたします」
三人は光に包まれると、その場から姿を消した。
§ § §
異界倶楽部の四人と、海波達は石切り場の前で対峙していた。
「さて……そっちに代表はいるのかい?」
「ええ、私と……あ、名前はどう呼べば……」
「猫仮面でいいよ」
「「……」」
その場の真面目な雰囲気を壊さない様に
「まぁ、いい。さてと……要件を聞いておきたいんだけどね。おそらくアタシらとアンタらがやり合うと……死人出そうだからね。この数だと手加減は出来ない」
(凄い……これが殺気ってやつ?)
(ああ、そうだな。魔力を持っていなくても感じるだろう)
(後ろにいる人達もかなり強い感じなんだね。前回は逃げるだけであまりわからなかったけど)
(そうだな。あの大男もかなり使える人間の様だ)
(それと、前回うなだれてた人も復活してるみたいだね)
(そうだな。目に光が戻ったようだ)
「僕らからの要件は簡単だよ。
「……なるほど。理由は何だい? 彼女にはもう少しだけ協力をしてほしいんだけどね」
「この街で起きている魔獣騒動を止めるため。それと邪神ソベーレの力を封じるため」
「……ああ、なるほど……確かに神ソベーレの力が暴走していたね。だけど彼が司る力は「混沌と時空」だ。ソベーレの力を使えば異世界への門を開くことが出来るかもしれない」
(え? そうなの?)
(……そうだったのか)
(ゼフ……もう少しちゃんと聞いておけば……)
(すまない。神の説法は苦手なんだ……)
(君の記憶からは神様と歴史の話が抜けているね……)
「
「もちろん。どちらかと言うと今回の騒ぎを封じるために検証している最中さ」
「それってどういう意味? 駅前は魔獣だらけになっていたって話だけど?」
「あれは、ソーマ……
「隣にいた
「……やはりそうなのか?」
「その様だな……」
「……おい?
「だとすると
「
「まぁ、あれだね。情報提供はありがたいが……渡せなくなったな……」
「
「困ったね……ここまで来て鍵がそろっていたのが分かるなんてね……」
「それで、どうします?」
「……少し相談する時間をくれないか?」
海波が
「レ……猫仮面、場合によっては時空魔術で逃げるのではないか?」
「あ、そうか。ゴスロリの人いないね……」
「あげたいところですが、時空魔術師がいるのを確認しています。するならばここで……」
「すまないが参謀役だけ呼ばせてくれ……」
「わかった」
「おう! すぐに連れてくる」
……がすぐに血相を変えて人を両手に抱えて戻ってくる。
「大変だ!
明らかに気絶、と言うより死体のようになった女性を
「み、ミクもいなかったんだ。どうすれば?」
「お、落ち着け、
「私がなんとかします。ちょっと置いてくれますか……優しく……」
「わかった。すまねぇ……」
瑠衣が地面にやさしく置かれた
「これは……邪神の神官の術? にしてはおかしいかな……」
「ギフトでしょうね。ソベーレの加護の力は感じません」
「なるほど……神経の感じがおかしいな……こっちかな?」
瑠衣が思い直したようで加護の使い方を変えると、
「くはっ。み、見えた……怖かった……あれ? ありがとう? どうなってんの?」
「
「あ! わかった!
「
「提子が邪神の巫女って気が付いてたのか?」
「え? そうだったの? てっきり魔力増幅の加護かと思ってた」
寛治がきょろきょろと見まわし、慌てて
「お、おい、
「え? わからない……私は暗くなって何にも見えなくなって……」
「俺が見た時はいなかったぞ? 転移したんじゃないのか?」
「……連れてかれたってことか?」
寛治は慌ててアジトの方へ走り、魔法陣部屋へと向かう。
「なんか、体がうまく動かないんだけど……」
「ちょっと呪いみたいになってるかも……待ってて……」
瑠衣は
紅華が蓮輝だけに聞こえる様に近づく。
「ねぇ、蓮輝やばくない?」
「やばいね……カンクって人がどうやら邪神の加護持ちだったみたいだね……報告にあった魔術師っぽい人か……」
蓮輝がユキナの方に振り向く。ユキナはギフトを使った後に頷く。
「どうやら邪神の加護持ちはもうここにはいないみたいだ……」
紅華は若干ヒステリックになり、普通の大きさの声で話をしてしまう。
「どうすればいいの?! このままじゃ本当に街が戦場になるじゃないの!?」
「かもしれない。邪神の加護を受けた人間が連れ去ったのなら……この街が戦場になる事を……止めるのに失敗したかもしれない」
「つまり、私たちがここに来た事によって悪い方向になっちゃったってこと?」
「……うん。これも預言の範疇なのかも」
「そんな……」
二人の会話は周囲を完全に黙らせる結果となった。
各々がどうするかを考え、人によっては蓮輝と
「おい、猫仮面。戦場といっていたが、どういうことだ?」
「え?
「聞いてはいないな……」
「すまない……聞いていたのは私だけだ……」
「……なんでだ?」
「お前たちの目的と私達の目的が反するものだからだ」
「どういうことだ?」
「私たちの目的は、『魔王』の来訪を阻止することだ」
「あん?……『魔王』だと?」
「かなりの可能性で異界との扉の制御が可能になったら……閉じる事になっただろう。だから話せなかった」
「はぁ……なるほどねぇ……たまにミクの奴がはぐらかす感じだったからおかしいと思ってたんだよね」
「怒らないのか?」
「裏切りには慣れっこだからな。それでその『魔王』とやらの名前は?」
「『飢える魔王』だったかな……現状あちらの世界で大暴れしているとか?」
そこに集まった転生者の半数が驚きに包まれる。左右を見回し驚きの表情をするもの、思わず後ずさりをする人もいた。
「……それって、体中から手とか口が生えている奴だよな?」
「……すまないが、姿かたちはわからない。四行詩を解読した結果になるからな」
「……だとすると、未来予見で姿を見たことがあるミクに聞くしかないか……」
紅華が若干冷静になった様で、隣の蓮輝に話しかける。
「ねぇ、蓮輝……今、あちらの世界での事を知ってるみたいな事言ってなかった?」
「……言ってたね……」
(どう言う事だ?)
(ゼフのいた世界と連絡する手段があるってことだね)
(なるほど……魔道機械人形もいたことだ、そう考えると連絡が出来て当たり前か。文字が読めるのならば手紙を転送すればよいのだからな)
(……なるほどね)
海波が話そうとすると、
「
蓮輝が直ぐに名乗りを上げて海波の方をちらりと見る。
「道化仮面君、あとはたのんだよ。僕が使えます!」
「あ、私も」
「俺も行きます」
「うーん。使えないけど、一応、警護にあたしもいくよ」
蓮輝と紅華を筆頭に、「光の女神教」の信徒からも数人の魔術師がアジトの内部へと入っていく。
「どうやら共闘しなければいけなくなったね……あんたらは間空提子を。アタシらは裏切りやがった
「そのようですね。道化仮面さん。それでよいかしら?」
「……ああ」
海波はユキナの方を振り返る。
「すまないが……方向を占えるか?」
(おそらく爆心地だろうね……)
(邪神の門……あれを開けた中にあるものか?)
ユキナは頷いた後に、ダウジングを始める。ペンダントは爆心地の方向をしっかりと指し示した。
§ § §
完全に蚊帳の外に置かれた状況に彼のプライドは崩れかかっていた。
「……くそっ! くそっ!! あいつら俺を無視しやがって!!」
怒りをぶちまけながら、魔石倉庫を蹴散らしたりしていた。すると中に入っていた黒い魔石から黒い触手が
「ん!? なんだこりゃ? 提子がいないのになんでだ?」
まるで挨拶するかのように鎌首をもたげた黒い触手が彼の体をやさしく包み込む。
突然の状況にあっけに取られていた
「お、おお……なるほどねぇ……これが邪神様のお告げって事か……足止め……なるほどね……」
「はははっ!!! こりゃいい!! 神様ありがとう!! 外にいる人間どもを食らい尽くせ!! はははっ!」
嗜虐心に満ちた目で大量に外へと向かって走っていく魔獣を見送っていると、彼の頭の中にこの世の者でない感じの声が響く。
「ん? すくろーる? ああ、魔術の巻物か……」
声に従い、棚に置いてあった転移魔術の巻物を手に取り広げてざっと眺める。
「ああ、これか……これは確かあっちのアジト行きのやつじゃ?……あっちはがさ入れ入ったんだったよな……え? これ使えって?」
(なるほど……この声の言う事は確かか……)
§ § §
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます