第68話 対峙
§ § §
白波浪音が白衣に身を包み、研究所に戻ると室内が騒然となっていた。
「主任!! 白浪家が襲われたとのことです!」
「……え? 多智花君達はどうしたの?」
「意識不明……多智花夫妻の意識戻らず。外部からギフトか魔術で強制的に眠らされているのでは? との事です」
「そんな……夫の……
「それが……発動せずにそのままの状態で、封印していた「例のモノ」をだけを持っていかれたようですね……他の魔動器などの持ち出しはなかった様です」
「……なんであれを……『飢える魔王』の信徒の仕業だと言うの?」
「わかりません。監視カメラの映像では転生者自由主義の仮面をかぶった人間が二人を操っている感じに見えますが……不自然に苦しんでいる様が……」
浪音はしばらく考えて状況を呑み込む。
「二人を操って……なるほど、女神の信徒のみ触れる状態にしたのがあだになりましたね……」
「すみません、非常時用に魔道器をお借りできる状態にしたんでしたね……」
浪音はしばらく考えた後ため息をついて、覚悟を決めた顔になる。
「司令部に通達を、事が起こります……と」
「はい。承知しました……やはり来るんですね……」
「おそらく……このままだと本当に、空から『魔王』が降ってきます……」
研究所の職員は息をのみ、一瞬完全に沈黙をするが、気を引き締めて自分の職務に戻っていった。
§ § §
海波達仮面連盟(仮)と
「本当にここなのですか?」
「間違いないとは思うんだけど……」
「石切り場?の跡みたいだね」
「確か昭和まで石切り場として使ってたはずだけど」
「中に入った形跡無い感じがするね」
海波は魔力探知を行い、複数の強い魔力を持った人間が石切り場の洞窟の奥にいる事を確認する。
「提子はあの中か」
「そうね。あとは
「さらに言うと、どう考えても強めの魔力反応が多数……だね」
「ああ……」
(九人……その中の七人はかなり強い感じだね)
(そうだな。時空騎士もいるな……)
(勝てるの?)
(
(だったら良いんだけど)
海波以外のメンバーの表情もこわばってくる。
瑠衣がため息をついた後に隣の紅華に話しかける。
「ちょっとドキドキしてきたね……」
「わたしは慣れっこだけど……それでも久々にピリッとするね」
若干の緊張が一同に走る中、気の抜けた感じで
「なんだか……戦隊もののラストバトルみたいになってきたね」
「……あんた……緊張してないのはわかるけど、作戦はしっかりとね……」
「もちろんだよ! とりあえず手はず通りに「交渉」だね」
「では皆さん、作戦開始位置に移動を」
「承知しました」
§ § §
ライトアップされた石切り場の地下で
「綺麗に囲まれたな……」
「そのようだな」
異界倶楽部のメンバーは手慣れた感じで武器を手に戦闘できる様に準備を開始する。
「おいおい、一体どうしたんだ?」
「何、何が起きてるの??」
あまり準備の必要のない
「一旦実験中止。ねぇ、この子たちどうしよ?」
「……そうね……困ったわ……視えないわ」
「へ?」
「何故か次の予見が……例の扉の前なのよね……」
「扉って、あの爆心地の扉?」
「そう……なんでかしら?」
「変ね……ちょっと外の様子見てくるね」
「せっかちなやつだな……もう少し考えろよ、魔術師なのに」
「この場所には全員転移魔法で来たはずなのだが……何故場所が割れた?」
完全に立ち直った感のある
「おそらく探知系のギフト持ちがいるんだろう。俺たちの知っている人間にはいないから……その二人を探知したんだろう。王国軍にも何人かいたから……そいつも転生して来たんだろうな」
一同が
「なるほどな……」
「彼らの世代の転生者の能力か」
「君達の話を総合すると、狙いは
「ん? なんでだい?」
「
「ああ、たしかに」
「え? 筋肉彼氏君に返すって言ったんだけど……伝わらなかったかな?」
「ちょっと待て、返すって……奪って……拉致してきたのか?」
「あ、ほら。実験が簡単に終わると思ってたから。まさか日をまたぐ……何日もかかるとは思ってなくて……」
「捜索依頼とかだされてるだろ? 大丈夫なのか?」
「大丈夫だ……一応、
「お前……何考えてんだ……」
一同が呆れた表情になり、非難の目を
「あーごめん。アタシのせいだね……あっちの常識とごちゃまぜになってたかも」
突然空中に魔法陣が展開されて光り輝く。中からは
「え? なんかあった? って、そんな場合じゃないね。なんか狐の仮面の軍団に囲まれてた。この入り口付近固められてる感じだったよ」
「狐の仮面……この間の魔獣騒ぎで魔獣退治をしていた軍団か」
「元転生者自由主義のメンバーも加わっていたみたいだが……」
「そこまではわからないけど、上空から見た限りは三十人近くいたと思う」
「数が合わないな。気配を消せるレベルの人間が複数いると言う事か」
「黒の双剣とグリセーダ……守護騎士がいなければ、三人もいればなんとかなるだろう」
「……あ、知らない仮面かぶった人間もちらほらと……道化っぽかった気も……」
「まじか……」
「……確かに強い魔力反応も、不自然なほど小さい魔力反応もあるな。どうする? やるか? 黒の双剣はアタシがやるからな? いいな?」
「待て。いきなり魔術を使ってこないところを見ると……話し合う余地はあるだろう。
「出ていないわ。もう少し先の予見は出ているんだけど……今の状況は視ていない」
「……なるほど。簡単に跳ねのけるレベルなのか? それじゃ……もしもの時は乱戦だな……アタシと、寛治君、元次君、一休は外で交渉、中は
「わかったわ」
「承知した」
「転移魔法陣で逃げる準備をしておいた方が良いね」
「そうね。まだ相手の目的が何かわからないわね……私はあと三日は捕らえられたり、行動できない状態になりたくないから……」
「だよねぇ……四行詩の預言の時が近づいてるみたいだし……って、あと三日なのね……」
「「賢者」の予測だとそうなるのよね。私はちょっと違う気もするんだけど……そこまで頭が良くないから……私」
「予見できる上に頭がものすごくよかったら無敵なんだけどねぇ……」
「次の鍵は、
「予見の事だよね? 四行詩じゃなくて?」
「そう、予見。困ったわ。繋がりがわからないわ……そこで私はほっとした表情をするんだけど……」
「前世の彼氏が暴走して未来が変わったんじゃないの?」
「! そ、その線もあるわね……だめよ、寛治君がいるところで言っちゃ!」
「わかってるって」
(今がチャンスか……)
「考える時間が必要な様だな。それじゃ俺が魔法陣から逃げる準備の方を担当しよう。
「は、はい」
「カンク、後はよろしくね」
「……え? 俺は?」
転移魔法陣が用意された部屋へと
「……こいつはどうしよう?」
「実験に付き合ってもらっているんだからもう少し丁寧に……」
「でも女の敵だからなぁ……」
「ちょ、ちょっとまってくれ。俺も役になっているだろう?」
「ここまでやって制御できない召喚魔獣ばかり出して……それで召喚魔術師ってねぇ……せめて魔法陣の書き換えくらい覚えてから魔術師を名乗りなよ」
「あん? 何言ってやがるんだ! 召喚できるのは俺だけじゃねぇか!」
「はぁ……」
すると、中から角の生えたネズミが出てきて辺りをきょろきょろとした後に動き出す。
「なっ!」
「魔法陣さえ分かれば呼ぶだけだったら出来るんだよ。操作まで出来て本職だろうに」
「……」
その様子を見ていた
若干の怒りに包まれた感じの
残された
「くそっ! 俺の魔法陣をパクっただけじゃねぇか! くそっ! どうして俺を認めないんだ!!」
ふと目の前に黒い触手の様なものがユラユラとしているのに気が付く。
(ん? なんだこりゃ? 提子が呼んだやつか?)
彼は思わずその触手に手を伸ばしていく……
§ § §
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