第67話 この街の危機

§  §  §


海波は荷物を持って蓮輝の家の離れに来ていた。玄関の靴の数に驚き、予想以上の数の気配を部屋から感じる。


(あれ? 凄い人数……)

(……この間の女神の巫女もいるようだな)


ドアを開けると、部屋の中の一同は議論をしていたのを中止して海波に注目をしてくる。


「海波君! よかった。色々と追加の情報が……」


蓮輝の言葉を遮るように瑠衣が海波に話しかける。


「帰ってきてくれて良かった……大丈夫なの?」

「ああ、大丈夫だ。頭が冷えた。それでこの状況は?」

「……ええっと……情報共有してこれからの事を話し合ってたの」

「……なるほど。あ、聞いて欲しい事がある」


蓮輝がホワイトボード前に立って説明を開始しようとしていた手を止める。

「ん? なんだい?」


「「爆心地」付近が戦場になるかもしれない……」


海波の短すぎる説明が足りない言葉だったが、一同が驚く。


「「えっ?!」」

「マジか!」

「え? 何がくるの?」


「その情報はどこから……」

「母さん……浪音からの情報だ。美来みくの助言にもあったが、家族を信じろ……とはこう言う意味だったのだな……」


「……そんな……」


その場にいたほとんどの者が邪神軍との最後の戦いに参加をしていたため、あの状況がこの世界で繰り返される。そう考えただけで表情が暗くなっていた。


「戦場ってことは……邪神軍がこちらに来るのかな?」

「漫画みたいにい次元の門、ゲートみたいのを作って……進軍してくる?」

「この人数じゃ……やれないよ……」

「……転生者自由主義のネットワーク使えない?」

「異能者管理組合にも連絡を……」

「ちょっと、家族を避難させないと!」

「……団員に連絡を……」


(……話す順番を間違えたか……)

(みたいだね。だれも僕らの話の内容を疑わないのにびっくりなんだけど……)

(予想の範疇なのかもしれないな)


海波はホワイトボードに新たに書き込まれた情報を見て、あれから議論を続けていたのを知る。中には異界の門を開いて魔獣を召喚? と書かれていたりした。


「すまない、話し方を考えるべきだった……」


各々がスマホを取り出したりして混乱している最中、前世で修羅場が多かった礼音は珍しく大きな声を出して皆をなだめる。


「みんな落ち着く! まだ事が起こっていない。まだ未然に防げる可能性が高い」

「そ、そうだったね。ごめん。ちょっと混乱してた……」


「蓮輝。さっきまとめた案をやっていくべき」

「わかった。で今回の問題は、どうやら転生した邪神の信徒達が異界の門を開こうとして騒動になっている感じ。邪神の信徒達の行動を防げば問題がないんだけど……」


(邪神の信徒「達」か……提子は確定か……)

(後は誰だろう……)


「……邪神の信徒は……どこにいるんだ? 間空提子はざまぞらていこだけか?」


振水ふりみずユキナが地図に線が引かれたものをテーブルに広げながら解説をする。

「それは私から話すね。歩夢くんと一緒に場所を変えながらダウジングをしてみたんだけど、

邪神の信徒としてはおそらく10人以上いるのは確定……」


(そんなにいるの??)

(……浪音の様子から見るに……全部をしらみつぶしにする時間は残されてい無いだろう……)


「それで、人数が多すぎだったので「邪神ソベーレの加護」を持っている人間で調べたところ……なんと三人、このエリアに三人もいるの」


「……それならば女神の加護もちの方が数が上回るか?」

「え? 瑠衣ちゃん、美来さん、志姫しきちゃん……同じじゃない?」

「ほかに誰かいたっけ?」


(女神の加護って……傷をいやしてくれる力の事だよね?)

(ああ、触媒も魔術の詠唱も無く傷をいやすことが出来るのは神の加護持ちしかいない)

(女神の加護と邪神の加護を持った人が一緒にいると効果が消えちゃうの?)

(まぁ……そんな感じ……らしい)


「あとは、母さん……浪音が女神の加護を持っている」


一同は一瞬唖然とするが、瑠衣が誰が加護を持っているかを理解をするとはしゃぎだす。


「え! 浪音さんが! だったら安心ね!」

「良かった! 特殊対策課は敵にならなさそうだね」

「じゃぁ、そっちに連絡して仲間になっておいた方が良くない?」

「……連絡すると捕まっちゃうんじゃないかな……異能者は……」

「爆心地が戦場になるかもしれないのは……確定だね」

「爆心地にあったあの魔石と扉の中のなにかを守るため?」


蓮輝が情報をもとに、ホワイトボードで没案件にバツをつけて行って情報をノリノリで整理していく。

特殊対策課が関わっている案件を消すだけでかなり情報が整理された感じになっていた。


「女神の加護で相手の加護を打ち消せば……」

「この街は戦場にならないかも!」

「邪神ソベーレの信徒を片っ端から確保して……」

「提子ちゃんをできるだけ、爆心地から離さないと!」


「提子奪還作戦開始だね!」


(先に母さんが女神の巫女かも……って話をした方が良かったね)

(そうだな。順序を間違えた様だ……いつも俺は失敗をする)

(でもいいのかな? 近づくなって言われた気がするんだけど……)

(なんとかなるだろう……)


§  §  §


白波浪音しらなみなみねは「爆心地」と言われる特殊対策課の研究施設内の広場に到着した。荷物を持ったまま自分のロッカーへと向かおうとすると、見慣れない少年が参謀役の女性職員と雑談をしていた。


「あ、主任。到着しましたよ。例の最終兵器君が」

「え? なんすかそれ? 俺が最終兵器??」

「あ、来てくれたんですね。通称でそう呼ばれているだけです。それとも「勇者」様とかの方が良い? 実名で呼ぶのはやめてくれと「賢者」からのお達しがありましたし……」

「……え? 勇者……それはちょっと嫌ですね。俺、無謀な人間じゃありませんし」


その場にいた二人は、「賢者」から何となく以前起きた事件の流れを聞いていたので、白い目で「最終兵器」君を見る。


「……そうか……俺って無謀な人間に見えてたんだ……だから注意をあんなに……」


二人の視線を受けて最終兵器君は考え込んでいた。

白波浪音しらなみなみねは最終兵器君の持ち物などを見るが、何の変哲もないジャージにリュック……とまるでハイキングに来た感じがするので不安を覚えていた。


「それで武器は……その……剣だけ? 大丈夫ですか?」

「人間と弱い魔獣だったら大丈夫ですね。厄介な時は……のぞみ……じゃなかった。魔道機械人形? ガーディアン? がもう来ていますよね? そちらの協力を受ける手はずになってる感じっすかね」

「……主任、彼女には現在、邪神の意思に染まった魔石の回収にあたってもらっていますが……」

「どうしましょう? 呼び戻しておいた方がいい?」

「あ、呼べばすぐ来てくれるんで大丈夫っすよ」


二人は飛行してどこかへ飛んでいった魔道機械人形の事を思い出していた。それなりに広い街だったが、呼べば五分以内に到着しそうなのをイメージ出来ていた。


「それで、依頼内容なんすけど……ここってなんなんですか? まるで前世の世界に近代的な機材を置いたような……」

「そうね。その認識は正しいと思うわ。 ……あなたへの依頼は……あの門。あれを守って欲しいの」

「あれっすか……なんか……ものすごく禍々しい印象が……」

「ソベーレの教徒達が作ったのでは? と言われています」

「また、あいつっすか……『不死の魔王』がいない今なんで?」

「その辺は今調査中ですが、黒い手を使う魔術……別の魔王が関わっている可能性があります」


魔王と言う言葉を聞いて、最終兵器君は若干たじろいて顔をポリポリとかく。


「……あの、俺、バイトだって言われてきたんすけど、ちょっと荷が重いような……」

「私もそう思いますが……主任、どうなんでしょう?」

「賢者と時詠みの巫女の予測ですからね……おそらく何とかなるんでしょうけど……」

「なんか……前世みたいな雑な扱いになってきたな……」


最終兵器君は何とも言えない雰囲気の中、大変そうな任務がどれくらい続くのかが不安になっていた。


「はぁ……それで……どれくらい守れば良いんですか?」

「おそらく、賢者も同意されているのですが、おそらく三日。全てはそれで終わると予測しています」

「え?? み、三日? ってことは月曜日まで? もしかして火曜日?」

「え?」

「なにか? 問題でも?」


「あの、俺、学校あるんですけど……土日だけかと……」

「それだけの力を持ちながら普通に学校に通っているんですね……」

「うちの息子と同い年くらいかしらね……大学じゃないわよね?」


最終兵器君は浪音の発言で自分の母親と同じ年か……と思いつつ、若すぎる主任の浪音に疑問を持ち、軽く魔力を通した目で彼女の事を見てみる。


「……主任さんはなんで……惑わしの魔術をかけてるんすか?」

「え? ……すごいわね……見ただけで見抜いたのは……夫以外いなかったわ……」

「惑わしの魔術?」

「あ、すんません。聞いちゃいけなかったやつですか……美容の魔術とかだったら……その売れるかなって……」

「あなたもこの世界に毒されてる感じね……」

「彼女が稼ぎすぎてて……肩身が……」


「魔術を金儲けに使うと……だいたい異能者管理組合が出てきて取り締まられちゃうそうよ」

「ですねぇ……私もやらかした後にここに連れられてきましたからね……」


最終兵器君はしばらく考えた後納得した表情になる。


「ああ、そうか、あれは彼女の素の力だけで稼いだのか……はぁ……バイトがんばります……」

「バイトレベルの案件ではないのですが……」


参謀役と浪音は一瞬呆れるが、軍隊の武装をした人間が行きかうこの場で、緊張をほとんどしない彼の態度にどれだけの修羅場をくぐってきたのかを感じさせられていた。


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