第65話 提子奪還は難しい?

§  §  §


蓮輝は合流した伴戸志姫ともどしきからの情報を整理していた。


「邪神の魔石……ね」

「ええ、何でも邪神……混沌の神ソベーレの力が乗り移っているとか?」


邪神の名前が出てきた瞬間、その場にいた全員が息をのみ、緊迫した空気になる。


「邪神の魔石……あちらの世界にはなかったモノだね」

「そうね、私も前世では聞いたことがないですね」

「すまないけど、こちらではその情報を把握していないかな」


蓮輝が情報をホワイトボードに書き込みながら、魔道機械人形のところで手が止まる。


「それと……魔道機械人形が空を飛ぶだけでもすごいんだけど……紅華ちゃん、飛んだっけ? あっちの世界で」

「え? そんなの聞いたこと無いよ。魔術無効にするのは聞いていたかな。正確には魔術を発動させられないだけど」

「ん? どう言う違い?」

「発動した魔法を消すんじゃなくて、発動できないだけ。遠くから魔法打てば消えることなく当たるよ」

「……なるほど……魔術式を妨害する感じか……」


蓮輝が魔道機械人形の情報をかきながら過去の情報を思い出し書き添える。


「魔道機械人形は、海波君が「爆心地」に潜入した時に追いかけられたって言ってたから……自衛隊か、特殊対策課の一員と考えられるか……」


伴戸志姫ともどしきにとって意外な言葉だったようで、驚いてすぐに聞き返す。


「……え? 海波君……白波君が潜入?」

「あれ? 知らなかったっけ?」


情報のなかった伴戸志姫ともどしきが周囲をきょろきょろと見まわし表情を読み取ると真実だと知り若干目が見開いた感じになる。

礼音がたまに学者気質な天然ボケになる蓮輝に情報を補足する。


「蓮輝。海波の事は知られていない。彼の正体。知っている人間はこの町から逃げた」

「ああ……そっか、この街のヤクザ一掃しちゃったんだっけ……」


伴戸志姫ともどしきはさらに驚く。


「や、ヤクザを?? あ、あの真面目で正義感の強い優しい人が?」

「だよね……」

「あ、話がかみ合ってないみたいだけど、ゼファイトス……黒の双剣。賞金首が前世だったらしい」


伴戸志姫ともどしきは暫く考えたあとに色々と合点が行った様だった。


「え?……あの有名な……「神の守護騎士」の先生ですね。道理で強いわけです」


「「え?」」


瑠衣と紅華以外は知らなかった様で一様に驚いていた。

伴戸志姫ともどしきは反応を見て落ち着いて話を続ける。


「……たしか、街の領主に苦しめられていた「黒の双剣」は、街の抗争で乱れた場を調停しに来た「神の守護騎士」達に襲い掛かり半壊させたんですよ。それだけですごいのですが、女神様直々に罪を償いたいのなら「神の守護騎士」を鍛えなさいと、武術の先生になるようにと仰られたそうです」


ユキナが聞こえてくる情報に若干疑問を持った感じで質問をする。


「……そんなに強い人だったの?」

「ゼフは強いですよ。とっても」


紅華は既に海波の実力を見抜いていた様だった。


「あー多分、わたし、彼に攻撃を当てる自信ない。時間稼ぎできるかな……くらいで」

「その情報はなかった。あれだけの強さ。納得」

「さすがゼフですね」


何でもかんでも肯定する様になった瑠衣の変わり様に周囲の人間が若干たじろいていた。



それからしばらく情報交換が行われていた。

ホワイトボードに書かれている情報を、伴戸志姫ともどしき振水ふりみずユキナ達と共有する。

第三者の意見なども入るが、大体の方向性が決まってくる。


「では……邪神ソベーレのたくらみを阻止するためには提子さんを、どこの組織からも隔離する必要があると……」

「そうだね、今回のキーになる人間は……間空提子はざまぞらていこと、前世の記憶を最近思い出した人間。邪神ソベーレの信者だと思う」


蓮輝の予測にたいして伴戸志姫ともどしきが丁寧に説明を求める。


「それはなぜですか?」


「最近の魔獣と、黒い手の騒ぎは、僕らの記憶が戻ってから……だからね。もしかしたら間空提子はざまぞらていこ以外にも邪神の神官が転生しているとしたら……」


「邪神の加護の力を利用している人間を手あたり次第に拘束……無力化ですね。幸い、私の加護を利用すればお互いの加護が打ち消し合いますので」

「その情報はなかったな……神同士で喧嘩するからかな……それは瑠衣ちゃんの加護でも同じ?」

「おそらくそうかと……打ち消そうと思わない限りは……ただ、相手も打ち消してくる可能性があるので、治癒の際などは注意を払う必要があります」


蓮輝がホワイトボードに新たな情報を書き込む。

紅華が転生者自由主義の幹部と思われる人間の顔を思い出していく……


「ってことは、幹部とかベテラン勢は関係ないのか……ちょっとだけ気楽になるね」

「そ、そ、そうだね。切那せつなさんみたいな化け物クラスを七人も相手するなんて……無理ゲーだからね」


「「「え?」」」


重石要の何気なく放った言葉が爆弾となり、その場のやる気が一気に落ちて行った。


「あの強さの人が……他に六人もいたの?」

「あの二人だけ強いわけではなかったのですね……」

「ちょっとまってくれ。転生者自由主義って、そこまで強いやつはいないんじゃなかったのか?」

「作戦がないとだめなんじゃない? 一人ずつおびき出して拘束してく?」


蓮輝がまとまりかけた方向性がまたバラバラになるのを感じその場を納めようとするが……


「え? ちょっと待って。情報の整理を……」



その場の人間が議論を開始する中、重石要はぼそっと呟く。

「ぼ、ぼ、ぼく……やっちゃったかな……」

「そうね。提子奪還は難しい。それだけは確か」


礼音はこの街が思ったよりヤバい事になっていることに気が付き、どうやって家族と要を連れて逃げるかを考え始めていた。


§  §  §


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